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ヨルダン中がお祭り騒ぎになる!不思議な一日を解説します

こんにちは、シーナです。

2021年8月16日の早朝、7時前。
今日は、なんだか外がとても騒がしい。

もっと寝たいのに、車のクラクションが「ビービーッビッビッビー!」と鳴り続けて早30分。
さすがに、もう自分を騙して寝続けることができなくなりました(笑)
「こんな朝早くから、みんななんなん?どうしたん?」と、ちょっと不機嫌な目覚め。

朝9時には、クラクションに加えて「Hooooooooooo!」「Yaaaaaaaay!」という歓喜の声や爆音で音楽をかけながら走る車の音も聞こえて来るわけです。

ヨルダン人の夫・オリーブさんに「今日はなんでこんなに騒がしいの?」と不満を伝えました。
「今日はタウジーヒの合格発表だからね。」と。

「うん、じゃあしょうがないわ。」と、このお祭り騒ぎを一日中黙認する自分に、「わたしもヨルダンの文化に馴染んで来たな☆」なんて、ちょっと得意げな気持ちになります。

その一方で、一日中騒ぎ続けれるヨルダンの学生は底抜けの体力やなと思ったし、日本国大使館からの情報では「合格発表は朝の10時から」と言っていたので、騒ぐの早すぎやろとも思いましたけど(笑)

タウジーヒとは

「そもそもタウジーヒとはなんや?」って思ったことでしょう。
タウジーヒとは、簡単に言うと「ヨルダン式全国一斉高校卒業兼大学入試試験」で、日本のセンター試験のシステムに似た入試試験です。
日本のセンター試験との違いは、高校卒業資格の取得も兼ている点。

このタウジーヒを合格できなかったら、これ以上アカデミックの道に進むことはできません。高校卒業資格を取得できる合格ラインも決まっているので、何度でも再試を受けなければなりません。
但し、高校修了時に修了証書を受領できるので、それを持って海外の大学へ行くことも可能です。

タウジーヒに合格すると、ヨルダン国内の大学へ進学する権利が与えられます。タウジーヒで得た点数によって行ける大学や専攻が決まり、優秀な成績を収めた学生から順に、希望する大学と専攻を選んで籍を確保することができます。
例えば、「医学を専攻するには95点以上を取ること」などというルールがそれぞれの分野で設けられています。
つまり、うまく点数が取れなかった学生は、本当に勉強したかった専攻を選ぶことができないという、厳しい試験でもあるのです。

タウジーヒに合格できるか否かで人生が大きく左右される、ヨルダンの学生にとって、まさに人生を懸けた大試験なのです!

そら、そんな人生の懸かった時間の合格発表なんだから、早朝からお祭り騒ぎにもなるわな!というわけです。

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合格したものなら、もうボルテージはMAXまで上昇!お家の中でスピーカーの音量もMAXにして家族みんなで踊るのがヨルダン式のお祝い方法の一つです。(音量は常にMAXがヨルダン流)

合格して街に繰り出す学生や家族の気分は、まさに映画『アラジン』のプリンス・アリのパレードシーンのようなもの!

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Prince Ali, fabulous he, Ali Ababwa♬

ですよね、まさに!

そんなタウジーヒ合格発表の日には、毎年大使館から以下のような注意喚起メールが届きます。

「合格を祝うための、車の急増による道路渋滞、ドリフト走行、スピード違反、危険走行、祝砲の流れ弾などにご注意ください」

いや、祝い方独特!危険すぎる、、!(笑)
※近年、祝砲を撃つことが禁止されたおかげで、わたしがヨルダンへ移住してから約2年、祝砲を聞いたことがありませんのでご安心ください!
その代わり、打ち上げ花火はよーく聞きます。

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その他は注意喚起通りなんかい!と思われるかと思いますが、その通りなんです(笑)
だって、パレードですから。

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(危険走行の例)

ダウジーヒのプレッシャーと失業率

実はヨルダン、アラブ諸国の中で教育レベルが高い国だと言われています。英語を話せる方もたくさんいらっしゃいます。
ですが、残念なことに人生を懸けたタウジーヒを経てせっかくいい大学へ進学して勉強をしても、失業率の高さにより望んだ仕事に就ける方は少ないです。

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The Jordan Timesより)

活躍できる人材がいるのに、労働人口の1/4もの才能を活かす場所がないのが非常にもったいないですよね。

ヨルダンでは、就職先は基本的に大学で専攻した分野に関連する業種に限られています。(実用性重視!)
つまり、いくら失業率が高くても、大学へ行って将来の役に立つ勉強ができれば、いい仕事に就ける可能性が上がるわけです。
だからこそ、ヨルダンの学生はタウジーヒに向けて一生懸命に勉強するし、「将来のため」という学生と親の願いがプレッシャーとストレスとなって、大きくのしかかります。


さて、この失業率を上げている原因として、わたしが考える問題の一つに文化的要因があります。
それは、子どもに対する親の影響力が強いという点。

とある知り合いが、ヨルダンのトップ大学・ヨルダン大学にてボランティアをしていたときの話を例にして見ていきます。

彼は、オープンキャンパスにて、大学進学を目指す高校卒業生に大学生活や専攻選択のアドバイスをしていました。
とある学生のアドバイザーを担当して、「あなたはなにを勉強したいの?」と質問したそうです。すると、その学生の親が口を挟み、「医学かエンジニアを勉強させたい」など逐一言ってきたそう。
彼は「すみませんが、親御さんの意見は聞いてません。この子がなにを勉強したいかを聞いているんです。」と言い、再度その学生に同じ質問をしました。でも、その子は躊躇ってしまって自分の意見を言うことができませんでした。

なぜか。

ヨルダンでは親の権限が強く、「自分がなにを勉強したいか」より、専攻選択に親の意見が大きく反映されるからです。
ヨルダン人の夫・オリーブさんに確認したところ、オリーブさんの周りでも、親に言われた専攻を選んだ友人が多かったそうです。
(次点の専攻選択の仕方は、仲の良い友達と一緒に勉強するために同じ専攻を選ぶことらしいです。)

ヨルダンの子は、小さい頃から「しっかり勉強をして、将来はドクターかエンジニアになりなさい」と言い聞かされます。わたしが出会った子どもたちは、みんな口を揃えて「将来はドクターかエンジニアになりたい!」と言っていました。
そのため、ヨルダンでは医学とエンジニア系の学問の人気が非常に高く、一般的に「医学・エンジニアとそれ以外」という形で優劣をつけて考える傾向にもあるようです。

中には、「医学を学びたいけど、ヨルダン国内で医学部へ進むのには少し点数が足りなかったから」という理由で、海外の大学で医学を学ぶ学生がいるほどの医学至上主義なところがあります。

そもそも、なぜこんなにも医学系とエンジニア系にこだわるのかというと、大きく分けて3つの点が考えられます。
1) 親もまた医療従事者やエンジニア系の仕事をしていて、子どもにも同じ仕事に就いて欲しいという願い

2) 子どもが医学・エンジニア系列を勉強していると、親として鼻が高いというプライドやステータス意識の強さ

3) シンプルにヨルダンでは、「Dr.(ドクター)」や「エンジニア」という肩書きが好まれるから。

医学・エンジニア系が人気の学問に選ばれる主な理由が、親の意見と文化的要因であることが分かりましたね。
これこそが、失業率の高さに影響を与えているのではないかと考えています。

なぜなら、そもそもの市場が決して日本のように大きくはないので、どの業種においても働き口が限られているという現状が、まずあります。
その上で、親に勧められた医学系列とエンジニア系列の学部に生徒が集まりますよね。
たくさんの新しく、知識のある優秀な人材を大学で毎年育成しても、その業種で働ける人数は限られているから、看護師や薬剤師の資格だけ持った求職者がいたり、特に多くのエンジニアたちが仕事を見つけることに苦戦しているのです。
就職できた人たちでも、せっかく望んだエンジニア系列を勉強したけど、まったく違う仕事に就いている人もいます。

ちなみに、現在のヨルダンで最も需要があり、お金を稼ぐこともできるお仕事は、IT・プログラミングだそうです。


実は、失業率だけが問題ではないです。
上記のような文化的背景により、自分の好きなことを選ばず、親の意見を反映して専攻を決めたがゆえに、学問やその後の仕事にフラストレーションを感じる人も多くいるのも事実だそうです。

もちろん、失業率の高さというのはいろんな要因が重なって起こることなので、わたしの意見はあくまでも推測の域にすぎません。
でも、もし本当に子どもたちに好きなことをさせて、学生たちたちが好きな学問を選ぶことができたら、人材がいろんな分野に散らばるから人材飽和を解消できるし、自分の才能に合った仕事に就けるから働くことも楽しくなれるはず!
そして、学業の多様性を社会や会社に持ち込んで、更なる発展に繋がるのではないかと思うのです。

日本とヨルダンのプチ比較

日本でも医学部に入れたらもちろんとてもすごいことだけれど、日本の学生はもっと幅広く進路を選択しているような気がします。

その一方で、大学卒業の肩書きが「どこでも就職チケット」のような役割を担っていますよね。
日本では、新卒一括採用という超お得就職コースと会社が人材を育成していくという文化があるおかげで、専門職を除き、自分の専攻外の仕事に就くことが可能で、それが当たり前でもあるから、ヨルダンの学生と比べて明確な目標を持って専攻を決めている学生は少ないのではないかと思います。
わたしも学生の頃は将来に対して本当にぼんやりとしていてたから、海外に出て、明確な目標を持って専攻を決めている人たちに出会ったことで、ハッとしました。

これはどちらかに優劣をつける話ではまったくなくて、それぞれの社会制度に利点も欠点もあります。人間の作り出したものに完璧なんてありませんから。
ただ、日本の学生がより幅の広い選択肢を持っていたり、選択の自由がより与えられているのは、日本の経済が豊かで恵まれた環境に置かれているから。発展した経済の中で実用性を受け入れて、更に向上させるという余裕が市場にあるからかなと思いました。
そう思うと、とてもラッキーなことですよね。


というわけで、今日はヨルダンのタウジーヒ(卒業・入学試験)を紹介しました。
「受験」という人生のイベントを切り取るだけで、ヨルダンの文化や社会情勢、日本との違いを知ることができて趣深いですよね。

ちなみに、タウジーヒ合格祝いパーティーは結果的に3日間お祭り騒ぎが続いてました(笑)
えらい喜びようですな!

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ではまた♩


シーナ

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