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進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#23~関東圏集中旅(2)【富士→甲府→小淵沢→高尾】

 今日は御殿場線の車中からずっと富士山を見ていて、その大きさや形は様々に変わるが、「美しい」ことはずっと変わらない。見延線への乗り換えとなるその名もズバリの富士駅からも、山頂に雪を頂いた綺麗な富士山が変わらずしっかりと見える。もっとも景色はお腹いっぱいだが、朝からまともなものを食べていないのでこちらのお腹は空いている。基本的に鉄道旅ではなるべく駅そばを主食にすると決めていて、これから向かう甲府と小淵沢には旨いと評判の駅そばがあるので空腹をしばし我慢する。
 2023年3月7日(火)8時52分、富士駅端っこの薄暗いホームから見延線の各駅停車に乗り込む。富士駅の有人改札口に「青春18きっぷのお客様、順序良くお並びください」と書かれた紙がデカデカと貼ってあって、いったい誰が何をしでかしたのかと思わず笑ってしまったが、少なくとも私を含めて今日はそのような輩はおらず、改札もホームものほほんと平和である。
 途中の西富士宮駅までの運転となる鈍行はまたしても313系で、あまり特徴のないJR東海カラーのデザインに少々食傷気味になる。2両編成の車内はほぼ座席が埋まっており、富士宮市までの旅客需要に応じた区間運転なのだろう。この列車の20分後に終点甲府まで行く列車があり、結局はそれに乗り継ぐのだが、富士宮駅で一旦降りてみたいので敢えてこの鈍行を選んだ。

 進行方向に聳え立つ富士山はその偉容を増々大きくしていくが、写真ばかり撮っていても仕方ないので、中途半端に市街地と田舎が混じる車窓風景を見ていたら、列車は僅か15分ほどで富士宮駅に着いた。富士宮市の中心は勿論この富士宮駅だが、区間運転列車は全て隣の西富士宮駅まで行く。私はあと一駅頑張る鈍行を見送り、閑散としている平日の富士宮駅のホームに立った。
 先程も書いたように私の鉄道旅の主食は駅そばを理想としているが、実はここでは「富士宮焼きそば」も捨て難い。B級グルメとして近年すっかり有名となったもので、以前にクルマで来た時に食してかなりの感動を覚えたが、駅の近辺に短時間で食べられるようなお店はなく、今回は見送らざるを得ない。もっとも甲府と小淵沢の駅そばが控えているので、最早若くもない私がそんなに食べられるはずもない。

 帯に短し襷に長しの乗換時間23分を駅の徘徊で過ごして、9時32分発の甲府行きに再び乗り込む。各駅停車なので当たり前だが30を越える途中駅にいちいち止まって、甲府到着は12時前という2時間半のロングランである。西富士宮駅を過ぎると一旦レールは南に向かい、また見延に向け北上するというややこしいルートを辿る。この方向の転換点が富士山ビューポイントらしいのだが、空腹にも関わらず襲ってきた眠気で記憶も写真も飛んでいる。再び線路が北に向くと見延川が寄り添ってきて甲府までの路程を伴走してくれる。
 約1時間で路線名の由来でもある見延駅に到着、交換設備もある比較的大きな駅だが、停車時間が僅かなので探索はできない。ここで降りてしまうと2時間近く次の列車が来ないので致し方なく引き続き車内の人として過ごす。

 見延線は結構退屈だ、という感想は結構聞いていて、果たしてどうなんだろうと思っていたが、正直いうとやはり少々退屈であった。鉄道ファンも十人十色で「車内で寝るなんてけしからん」という猛者もいるが、私はやはり寝てしまう方の緩いタイプで、富士山も次第に遠ざかり、車内は空いていて、初春の陽射しがポカポカ、となると夢人になってしまうのはお許し願いたいところである。
 ということで、見延から甲府までの1時間半はほぼ夢の中で、甲府駅手前の中央本線との合流地点などを見ようと思っていたのに、次に目覚めたのは甲府駅到着の車内アナウンスという残念な結果であった。半分以上は寝ていたことになるが、まあこれで御殿場線に続いて見延線も完乗となった。

 甲府は言うまでなく山梨県最大の都市で、駅も大きく立派である。見延線ホームの階段を上がると駅そば屋があったが、ずっと寝ていたせいか感覚が少し変になっていて、あまり空腹感を感じない。1時間も経たないうちに絶対に外せない小淵沢の駅そばが控えているのでここでは見送ることとして、私は券売機で小淵沢までの特急券を買った。この区間だけ特急に乗らないと如何にしても後のルートが繋がらないので、18きっぷの旅にも関わらず大枚1,440円を支出せねばならない。
 甲府12時26分発の松本行特急『あずさ17号』は空いていた。JR西日本にはない「座席未指定特急券」というやつで、とりあえずどこに座ってもいいが、指定席券を持った客が来たら譲ってね、というルールになっている。座席上方には当該座席の指定券発券状況を表示する信号のようなカラーランプがあり、なるほど上手く考えたシステムだなと感心する。最も車内はガラガラで指定席客が来る気配は露程もなかったので、私は小淵沢までの30分を王族のようにゆったりと過ごした。

 途中の韮崎駅あたりから八ヶ岳の麗姿が見えてくるが、私の技術では爆走する特急車内からの写真撮影はまず不可である。何とも忸怩たる思いを抱えたまま特急は快走し、12時51分定刻に小淵沢駅に着いた。
 小淵沢駅にくるのは2回目だが、前回は小諸から小海線を南下してきて、小淵沢で中央本線に乗り換え岡谷まで北上というルートだったので、中央本線は吉祥寺から小淵沢までの約150キロが未乗となっている。今日無理矢理甲府から小淵沢まで往復するのはその未乗区間をつぶす目的が半分、名物の「丸政そば」を食べる目的が半分である。

 戻りの甲府行き各駅停車が出るまで17分しかないので、大急ぎで改札外にあるそば屋に足を運ぶ。昔はホーム上にあったそうだが、区画整理事業で駅舎が新築された際に改札外に移転したとのこと。ホーム上での旅情が失われたのは残念だが、関東風の濃い味パンチの効いた乱切り風のそばは頗る美味で箸が進む。一番の名物は山賊焼という鶏肉の大きい揚げものを載せた山賊そばのようだが、私はシンプルな駅そばを食した。特に具がなくてもネギと出汁だけで十分美味しい。
 時間を気にしながら慌ててそばを啜った後は、そば屋と同じ丸政さんの経営する駅舎1階の売店で夕食用弁当を仕入れる。そばと同様に全国にその名を轟かす有名駅弁「元気甲斐」を狙っていたのだが、売り切れだったので天むす弁当を購入した。

 駅そばと弁当購入で持ち時間の大半を使い果たしたが、大慌てで駅舎の撮影だけは何とか行う。まだ新築後6年という真新しい駅舎は温かみのある木造り部分とシックな黒色壁面が融合したお洒落な造りで、まるで美術館のような印象である。旧駅舎は青空に映える三角屋根の小さな駅舎だったが、どちらがいいとかいうものでもない。3階には駅構内と山々を見渡せる展望スペースもあるとのことだが、行く時間の余裕は既になかった。

 バタバタと忙しかった小淵沢駅での濃密な時間を終え、13時8分発の甲府行各駅停車に乗る。小淵沢にはまたゆっくり来んといかんわい、と思いながら、またしても微睡を行きつ戻りつしているうちに13時47分甲府駅着、今度は絶妙の乗り継ぎで5分後の13時52分発の高尾行き鈍行の客となる。列車は211系という国鉄時代からの電車で少々テンションは上がったが、甲斐大和駅の「武田家終焉の里~景徳院」という大きな看板の記憶を最後に駅そばのもたらした満腹のせいか記憶は途切れた。
 15時24分に東京郊外の高尾駅に到着、いよいよここから首都圏近郊電車乗り回しの旅が始まる。

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