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地方中小企業に贈る「地方マスコミ対応の心得」㊤メディアの現状

1.はじめに

「第三者」を知ってこそ

 「諸侯の謀を知らざる者は、予め交わること能わず」

 2500年以上前に成立した兵法書「孫子」で、情報戦の要諦として書かれた言葉です。当事者同士だけでなく、より広い視野で情勢を見つめ、周囲の第三者が置かれる状況まで含めて把握してから本格的に戦い始めるよう説いたもの、と私は理解しています。

 現代のビジネスでは、企業(以下、情報発信する側を簡易的に「企業」「企業側」と書きます)はSNSを通じて情報を発信し、直接的にユーザーへアプローチしやすくなりました。しかし、ダイレクトな情報発信は企業側が意識する・しないにかかわらず、消費者からすると「宣伝要素が強い」と受け止められ、距離を置かれがちです。

 そんな時に「第三者」として企業とユーザーの間に入って情報を媒介するのが、インフルエンサーやマスメディアです。冒頭の言葉を現代のビジネスに当てはめると、いかに自社で情報発信しやすくなっているとは言え、そうした当事者間の関係だけではなく、第三者をうまく活用することで、自社の置かれた環境を多面的に捉え、整えた上で外部にアピールできると言えると思います。

 それでは、マスメディアを介した情報発信と、直接的な情報発信は、どのような点に違いがあるのでしょう。

 まず、インターネットやSNSは手軽に情報発信できるというメリットが、そのままデメリットにもなり得ます。SNSの浸透とともに、企業は公式アカウントでの発信を始めましたが、どうしても自社商品・サービスに対する肯定的な話題が多くなり、投稿によっては「押しつけ感」が拭えません。私としては新規顧客を獲得する手法というより、既存顧客のロイヤルティ(忠誠度)を高める方法として効果があると感じています。

 そこで、多数のフォロワーを持つ「インフルエンサー」を介しての発信が始まりました。これは「第三者」としてインフルエンサーに登場してもらうことで、発信の信頼性を高めようという取り組みですが、その方法によっては本来の宣伝意図を隠して商品やサービスを勧める「ステマ(=ステルスマーケティング)」と呼ばれ、批判の的となっています。

 思うに、あまりに手軽に情報を発信できるようになった裏返しとして、真偽や背景のよく分からない情報が増えてきたという実感が、世の中に広がっている証しだと言えるでしょう。そうした風潮を捉え、最近はX(旧Twitter)にフェイクニュースを検知する機能がつくなど、プラットフォーム側でも情報の正確性をなるべく担保しようという動きが進んでいるぐらい。日々たくさんの情報が行き交う時代だからこそ、その信頼性への関心は高まっているのです。

 

 一方のマスメディアは建前上、報道内容に客観性や公平性があるとされています。おもしろいのは、匿名で投稿するSNSであっても何かしらの意見や評論を述べたい投稿では、メディアの記事を引用しているケースを多く見掛けることです。顔を出さずに投稿する場合、よほど長くSNSで支持を集めている人でなければ、発信者自身への信頼度というのは限りなく低いはず。マスメディアの報道には、その欠点を補える力があると評価されているということです。

 最近は新聞やテレビについて「時代遅れ」というニュアンスを込めて「オールドメディア」と呼ぶことがあります。確かにそうした面は多々あるのですが、今なお一定の影響力を持っているのも事実です。特に、地域や年齢層によっては最も重宝する情報媒体が未だに地方紙や地方テレビ局のニュース番組という状況があるのです。

 以上の環境から考えると、マスメディアに報道されることには、企業がSNS上でバズったり、インターネットで話題になったりするのとは別のベクトルで大きな意味があると言えます。そして、地方にある中小企業は最も身近なマスメディアとして、地方メディアをうまく活用すれば、自社の発信力を高めることができるのです。

 この「地方中小企業のために記者目線で書いた『マスコミ対応の心得』」では、地方紙で経済記者を約10年にわたって勤めた私が、前編で「地方メディアの現状」、後編で「具体的な対応策」を書きます。私は10年の間に、石川県では常に圧倒的優位な立場にいる第1紙、富山県では毎日のように苦渋を舐める第3紙という異なる立場を経験しました。そうした観点も盛り込みながら、企業側が対地方メディアで心掛けるべき点を記述していきます。

 ぜひ、お楽しみください。

【筆者略歴】

国分 紀芳(くにわけ きよし)1985年、石川県生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、地元の北國新聞社に記者職として入社。部署をまたぐ人事異動が頻繁な新聞社には珍しく、12年間の勤務のうち10年間を経済記者として過ごす。社内表彰多数。2022年3月に独立し、Seeds合同会社を立ち上げてからは、ニュースサイトの運営やPRコンサルティング、事業企画などに従事している。

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