見出し画像

服にまつわる記憶のはなし

電車に乗って移動しているとき、家までの帰り道を歩いているとき、ふと思い出す記憶ってありますよね。特に思い出そうとしたわけではなく、ふわっと浮かんでくる懐かしい風景や誰かの言葉…
そういうのってどこかに書き留めておかないと忘れてしまうかなあ?と突然思ったのです。なのでここに書いておこうかと。

ある冬の日、知り合いの事務所で鍋パーティーをすることになり、たまたま居合わせた女の子のことを思い出したんです。まだ夏が終わったばかりなのに、なぜなのかはわからない。

彼女は潔い坊主頭(!)でハッキリとした顔立ち。オーバーサイズのスウェットにナイロンのトラックパンツを履いていたような。彼女はアーティストでリリックを書いているらしく、片手には俵万智の歌集を携えていた。アバンギャルドな見た目とは裏腹にどうやらヴィーガンで、二周めの鍋は野菜だけで作ってくれた。素朴で美味しかった。

お酒も飲んで気分が良くなった私たちは、渋谷のクラブまで歩いていくことにした。事務所を出てしばらくすると、彼女が「着替えたいから私の家に寄ってもいい?」と言う。みんな笑いながら「もちろん」と答える。
静かなマンションのワンルーム。作曲に使うらしいギターとキーボード、パソコンや録音機器が並んでいる。床の上に無造作に置かれたポインセチアの鉢植えが目に留まり、私はなぜか写真を撮った。鉢の下にはちゃんと英字新聞が敷かれている。彼女はクラブに着ていく服を選び、着替え始めた。タイトなミニワンピースに大きめのレザージャケット、ニーハイブーツ。大きなフープピアスが坊主頭に似合っていた。

「さあ、行こっか」と通り過ぎるキッチンに、見覚えのある無添加のお味噌が置いてあるのを見つける。私も同じものを使っていたので、思わず「これ、美味しいよねぇ」と言うと、彼女は「同じの使ってる?これ好きなんだよね」とにっこり笑った。

私が記憶をたぐり寄せるときは、必ずと言っていいほど服にまつわるシーンが思い浮かびます。職業病なのかもしれない。ちなみに香りも。そのとき焚いていたお香や、誰かが付けていた香水など。
アロマの勉強をしていて知ったのですが、人間の五感の中で、香りを感じる嗅覚だけが、記憶を司る海馬(脳の部位)に直接信号を送ることができるんですね。なるほど、そういうことか!と納得。同じ体験をされている方も多いのでは。

今日は少しだけ服にまつわるお話でした。
それでは、またすぐに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?