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まず、この話について恐らく大多数の人は知らないと思う。

わたしは十数年前からこの病気にかかっている。

食道アカラシアとは原因不明で、何らかの理由により、食道の蠕動運動(食べたものを胃に送る動き)が消失し、胃の入り口もきゅっと蓋を閉じたように閉まってしまう良性疾患である。(※医学書に基づいた解説ではありません。)

良性疾患というと、大半の人が死ぬ程の病気じゃないんだな。程度の受け取り方をするが、食道アカラシアになったことのない人にはこの苦しみは理解できないだろう。

たいていの人は経験したことがある、ご飯をかきこんだとき、胸につかえて、水!水!となる、あの現象が食事のたび常に起きるのが食道アカラシアだ。

まず、急いで食事ができない。ご飯をかきこんだりしたら、その場でトイレに駆け込み、全て吐き戻す。(冗談ではない、本当の話)また、食道につまりやすい食べ物も基本的に摂取できなくなる。わたしの場合、ホウレン草やワカメといった葉もの?はまず、まともに飲み込めない。

そして不定期に発生する狭心症に似た胸痛。これが起こると、わたしの場合冷たく冷やした炭酸飲料をガブガブ飲まないと治らない。それで痛みが治まるときもあれば、長時間続くこともある。痛みの程度としては立っていられない程度の痛みで、長く続くと横になろうが、座っていようがお構いなしに痛むので、ただ炭酸飲料を飲み続ける。そして腹を下す。炭酸飲料を飲みすぎたせいで、水中毒になりかけたこともある。

食道アカラシアと診断され、腹腔鏡手術を数年前に行ったが、これらの症状は完治せず、主治医にも気長に付き合っていくしかないと見放された。

手術前と後で異なることは就寝中の吐き戻しがなくなったこと。

手術以前は就寝中に逆流してきた食べ物が鼻から吹き出したり、気管に入ったりして、それこそ窒息死しかけたことが何度もある。

気長に付き合っていくしかない病気、良性疾患だから大丈夫、周囲にもそう言われた。

だが、考えてみて欲しい。

その制約がどれ程辛いか。

わたしの場合、食に対する興味を失った。そして外食を恐れるようになった。以前、日本橋かどこかの寿司店で、つまりが発生し、店員からあまり見えないように炭酸飲料をこっそり飲んだ。残念なことに、店員に見咎められ「お水をお出し致しますので、持ち込み飲料はご遠慮ください。」とかなり呆れた口ぶりで叱られた。

以来、その寿司店には顔を出していない。そして、いつどこで胸痛が発生するかも分からないので、常に、冷やした炭酸飲料をサーモス(恐らく缶ビールを飲むときのマグカップのようなもの)に入れた保冷バッグを携行している。

これが良性疾患だと、日常生活に不安がないと、誰が言えよう。

この病気だけが原因とは言えないが、わたしはサラリーマンとしての人生はすでに終わってしまっている。定時に万全な状態で指定された場所にいられるとは限らないからだ。

もし、わたしのこの文を読んで、思い当たる節があるのであれば、バリウム検査をおすすめする。わたしは何度も辛い思いをして胃カメラを数回してきたが、結局問題は見つからなかった。ところが、健康診断でバリウム検査を行ったら、一発で病名を言い当てられた。

だからといって、術後よくなるとか、根治するとは言えないが、最近では新しい手術方法もあるようなので、興味がある方は調べてみるといい。

わたし自身はもう世捨て人のような流浪人であるので、誰にも迷惑をかけずに食べたいときに食べ、食べられないときはゼリー飲料でお腹を満たすような生活をずっと続けている。

ここまで読んでくれた方、本当にありがとう。

こんな病気もあるんだな、程度にどこか記憶に隅っこにでも置いてやってください。


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