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108輪の薔薇をあなたに

一本は、一目惚れ
二本は、二人だけ
三本は、愛してる
四本は、死ぬまでよ

五本は、、、?


上品な艶のある黒い箱には
鮮血のような深みある真紅色が映える

隙間なく詰められた12輪の薔薇に
思わず目を奪われて急足を止めてしまった

「あぁ、思い出した。ダーズンローズね」

百貨店の一角にあるローズ専門店
一体何人の殿方がどんな想いで購入していくのかしら

思わぬ形で浮かび上がった花束への想いに浸りながら
ゆったりと過ぎゆく人々を観察していたいと思ってしまった

ふふっと笑みがこぼれる

あの時、知らないなんて言ってしまっていたけれど

わたしはダーズンローズをいただいたことがあったと
気づいてしまった

もっともそれは

情熱な真紅ではなく
清美な純白だった

いただいたダーズンローズのブーケから一輪抜き取って
あなたの胸ポケットに差し込んだ

「わたしにはあなたしかいません」


***


ある配信者から
五輪のバラを贈っていただいたことがある

それはアバターの周りをくるくると周り、足元へ落ちていった
わずか数秒の演出だった

目をパチパチと大きく瞬きさせると
大袈裟にでも胸元に手を当てて
リアルの感情をアバターに乗せていく

「バラなんて現実で滅多にもらえないものだから、とっても嬉しい」

ありがとうと、おじぎのモーションをアバターにさせる
するとバラを贈った彼女も微笑みながら

>> バラは贈る本数に意味が込められているんですよ

わたしに新しい見識を与えてくれた

「知らなかった、一輪だとどういう意味なの? 」

やり取りを聞いていた他の視聴者がすかさずコメントを送信する

>> 一目惚れでしょう

彼女が答える前にチャットが流れていった

「なるほど! いろんな意味があるのね 、他の本数でもあります? 」

多勢と盛り上がれるテーマであるならば
ただちに発言者を巻き込むようにして
チャット読み上げては話を広げていく

>> 三本だと愛してるとか、告白だよね

>> 百本で100%の愛って聞いたことある

思惑通りに別の視聴者がチャットを打ち込む
さらに重なるようにして
文字と音声の会話はますます弾んでいく

「百本とか、貰ってみたいわぁ!」

画面には映りきらないほどの
真っ赤な薔薇の花束を受け取る光景を妄想して
アバターの少女は手を広げ仰ぐように顔を傾け
キラキラさせたその瞳をゆっくりと閉じた

「ねぇ、結局五本のバラはどういう意味なの?」

大きな瞳をパッと見開いてたずねても
彼女はニコニコと微笑むだけで
全く教えてはくれない

一通りの本数の花言葉をみんなで出し切ると
最後に彼女が思わぬ本数をあげてきた

>> 108本

「え? それって煩悩の数じゃないのっ」

笑いながら尋ねると彼女もまた
同じようにふっと口角を上げた

>>次は、いつか俺が108とわ輪のバラをゆりぃさんに贈りますね




108はのちに不惑を生きるための目標となり
美しい道標となってわたしの心に残り続けることとなった

ダーズンローズを見つめながら
思い出すのは彼女の笑顔


そうね、わたしも

「あなたに出会えてほんとうに嬉しい」




「108輪の薔薇をあなたに」

~END


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