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時空を渡って歴史を変えるSF小説【徒然読書58】

SF小説も面白くて芋づる式に早くも沼にハマっています。

今回読んだ本は2007年という少し古めですが、『天冥の標』シリーズを書かれている小川一水さんが書いた本です。

前回紹介した『獣たちの海』や『ハーモニー』は未来社会でユートピアや現実の延長上にありました。

『時砂の王』は未来だけれど時間遡行や歴史改変が絡むので、また別の面白さがあります。

舞台は26世紀だけれど、主人公のメッセンジャーという知生体が過去にさかのぼってETという正体不明の敵から人類を守るストーリー。

いくつもの歴史に関わり精神ともに蝕まれた彼が最後の防波堤としてたどり着いたのが3世紀の邪馬台国。

女王卑弥呼と協力しながら戦っていく。

メッセンジャーが飛ぶ各時代ごとに人類の考え方が違っていて、様々なイデオロギーに挟まれながら人類とは歴史とはを問いかけているような印象でした。

大局を見るのか、目の前の人類を優先するのか?

分厚くないので、テンポがいい分物足りなさ深堀し切れていないところがあるように感じましたが、業務後に一気読みするぐらい楽しめました。

最後に心ひかれた文章を引用します。

普通、歴史と言えば過去のそれを指す。しかし、未だ来たらないそれを歴史を呼ぶのはどうだろう。重みの点で何か違う気がする。
p114

パラレルワールドで未来の世界から見ると過去になるかもしれないけれど、実際にデータとして「歴史」として残されていない。
これは歴史なのか?と言われると、逆に何らかの形で証が残っていないと「歴史」と言えないのか?という哲学的思考に陥りそう…

「歴史」になるのかどうかの議論の向こうには、「人」がいます。

その枝の一本一本、葉の一枚一枚に、深く濃い人の想念が刻まれている。
p181


口を出すだけの主に何ができる?それで戦っていたつもりか?自惚れるな。これは妾たちの戦だ。主がおらずとも妾たちは生き、死んでやるわ!
p253

メッセンジャーではなく、メッセンジャーを統括する知生体に言い放った卑弥呼の言葉です。
結局歴史が変わろうと切り離される運命だろうと「生ききる」。
それが人間の強さでもあるのかなと思いました。


以下の記事で取り上げたSF思考が鍛えられているかどうかはまだ分かりませんが、現実の枠に囚われず構想するのが楽しくなってきました。

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