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刺さった歌詞を深く味わう 「真っ黒い太陽 feat.輪入道」 / GADORO『花水木』より

僕はnoteで詩を投稿していますが、歴史的に評価の定まっている詩を詳しく知らず、HIPHOPやロックの歌詞に大きな影響を受けています。

そんな人間が、刺さった歌詞の一部を引用しつつ、それがなぜ良いと感じるのかを知らない方にも伝わるように詳しめに語っていきます。

今回はHIPHOPより、GADORO「真っ黒い太陽 feat.輪入道」を取り上げてみます。


GADOROの痛烈な生身の言葉

「報われた奴を見ると殺したくなった
 芽が出ない理由をアングラのせいにしてきた
 嘘だってついた 俺は人も裏切った」

(GADORO「真っ黒い太陽 feat.輪入道」より引用)

報われた奴を見ると殺したくなった」、と曲の冒頭から言い放つのが強烈。

ふだん口にするわけじゃないけど、正直僕も報われた奴を見ると心のどこかで殺したくなることがある。でも普通はそんなこと言わないし、言えない。しかしGADOROはそれを曲の冒頭に持ってくる。

そして「芽が出ない理由をアングラのせいにしてきた」と続くので、「報われた奴」というのは音楽でのことかなと聴き手は想像する。

ここで言う音楽というのはつまり、他の仕事は一年と持ったことのないGADOROが唯一真剣に打ち込んできた分野だ。

あなたもどこかで経験しているのではないだろうか、真剣に打ち込んでも報われなかったことを。

その上、くだらない奴が報われていたりもする。「アングラのせいにしてきた」――つまり大衆的でポップな音楽ではなく本質的なアングラの音楽をやっているので、そもそものパイが小さいし理解者も多くはない。

だから「芽が出ない」。しかし、GADOROは他の曲の歌詞(例えば「クズ」等)からもうかがえるのですが、自分一人で多くを背負おうとする人間なので、それも本当は自分の責任だと考えようとしている。

この後もリリックは続いていくけど、一旦置きます。


輪入道のバースの入りが、絶妙に想像をかき立てる

「捻じ曲がったパイプ キティちゃんのサンダル
 メリケンサック 無くなる時間の感覚
 血だらけの制服 千葉の片田舎
 帰り道耳に入れたイヤホンから般若」

客演している輪入道もこの言葉運びが絶妙で、何度聴いても職人芸だなと感嘆させられます。

どこに焦点を当てるのか、どういう順番で言葉を置くのか。全ては語らない。ゆえに強く伝わるものがある。


まず、「捻じ曲がったパイプ」「キティちゃんのサンダル」「メリケンサック」と視覚的な情報を並べる。

それによって説明せずとも人物像が立ち上がってくる。「喧嘩」「不良」とか言わなくてもわかる。

そしてこの後のタイミングで挟まれる「無くなる時間の感覚」という言葉。この内面的な情報が、すごくいい味出してる。

次の「血だらけの制服」で大体の年齢や立場も明らかになる。「千葉の片田舎」で場所も明らかになる。リリックの密度が濃い。


この流れからの「帰り道耳に入れたイヤホンから般若」が締まること締まること……!

般若」というのは、J-HIPHOPを聴いている人ならだれでも知っているレベルのラッパーです。HIPHOPはそのルーツからして、仲間内にだけわかる秘密の暗号のような側面もある音楽なので、そこもいちいち説明しません。

この一行の描写によって、この人物(学生時代の輪入道)の頭の中が自然と想像させられる。

その言葉のさし加減が本当に絶妙でヤバいですねー。


後半の輪入道の「ラーメン屋のベタベタのテレビで紅白見る」から始まるバースや、他のGADOROのリリックも大好きです。興味がある方は記事の冒頭にも貼ったMVがYoutubeにあるので、ぜひ聴いてみてください。

ちなみに、この曲が含まれるGADOROの2ndアルバムの『花水木』は、amazonプライム(無料体験でも)の方なら無料で丸ごと聴けます。

「真っ黒い太陽」の他には、「光と崖」「BLACK SHEEP」あたりがすごく良かったです。

輪入道の『左回りの時計』も同じく無料で丸ごと聴けます。amazonプライムにせよSpotifyにせよ、この手の音楽配信サービスは洋楽に強く邦楽に弱いイメージだったけど、最近は邦楽も増えてきてますね。

『左回りの時計』なら、「モラトリアム」と表題曲の「左回りの時計」が良かったな。これについてもそのうち語ってみたい。

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