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子供たちが教えてくれた多様化する社会との付き合い方 - 映画『はなれていても』と中野吉之伴さんトークイベント・レポート 

 石炭の中でも水分や不純物の多い褐炭は、ドイツではエネルギー源として今でも多く採掘されています。ドイツ映画『はなれていても』は、採掘地の拡大により生まれ育った村を失った11歳のベンと、シリアからの難民タリクの友情を描いています。お互いの境遇を思いやる少年たちの、爽やかな交流が心に響くこの映画は、今回の映画祭でYFFF2022グランプリを受賞しました。6月4日にかなっくホールで上映された映画と、トークイベントの様子をレポートします。

 みなさん、こんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第65回は、映画祭スタッフのかめがお届けします。

中野吉之伴さんによるトークイベント

 『はなれていても』の上映に先立ち、ドイツで子供たちのサッカー指導にあたる中野吉之伴さんをZoomにお招きして、約20分間のトークイベントを行いました。ドイツサッカー協会A級ライセンスをお持ちの中野さんは、SVホッホドルフU19チームの監督と、U15チームのコーチをなさっています。ベンと同年代のお子さんを持つ父親として、子供たちのサッカーをめぐる一喜一憂には、親の立場から感じるところも多かったようです。また、大人からは見えない子供たち同士の世界や日常の様子に、ご自分の子供たちも実際にこんな感じなのかもしれないと興味を寄せられていました。

特別な光景ではない支援の輪

 映画にはシリア難民の少年タリクが登場します。戦火のシリアを逃れ、苦労してドイツへ渡ってきたタリクは、旅の途中で実の兄と離ればなれになります。一人になってしまったタリクは、青少年ハウスに預けられ、ベンの通う学校へ転入し、教育を受ける機会を提供されます。ドイツではこのように、多くの難民が社会に受け入れられ、共存することがごく当たり前の日常として存在します。中野さんも様々な国からやってきた子供たちの指導を経験されてきました。国籍や境遇による違いを意識することなく、一人の人間であるように接することは、何も特別なことではありません。中野さんご自身も日本からドイツへと移り住んだときに、多くの人々に助けてもらった記憶をお持ちとのこと。それを忘れることなく、機会があればいつでも困っている人々に手を差し伸べることを心がけているそうです。

変わりゆく社会で子供たちはしなやかに生きる

 中野さんのお話を聞きながら、子供の世界は大人よりも、変化の波をダイレクトに受けることが多いのだろうと感じました。ドイツに限らず、日本でも様々な国の人々が暮らしています。私の知人は東京のある町で小学校の教師をしていますが、最近では海外からの子供たちがクラスの半数を超え、休み時間には日本語以外の言葉が飛び交っているそうです。子供たちは大人よりも多様な関係の中で育ち、互いを受け入れ、助け合って生きています。『はなれていても』で示される子供たちの優しさや思いやりは、これから変わっていく社会をどう生きて行けばよいか、子供たちが進んで実践し、私たち大人に教えているのかもしれません。

©Weydemann Bros. GmbH

ワールドカップ初戦で日本とドイツが対戦

 ところで11月半ばから開催されるFIFAワールドカップ・カタール大会では、初戦で日本とドイツが対戦します。ドイツでの盛り上がりについて中野さんにお聞きしましたが、6月の時点ではカタール大会の話題まだほとんど出ていないようでした。対戦相手としての日本は、与しやすしと思う人もいる一方、ブンデスリーガで活躍する多くの日本人選手の存在などから、警戒する必要があると考える人もいるそうです。いずれにしても、ドイツは前回のロシア大会では予選敗退だったので、どの国が相手であろうと全力で挑んでくることは間違いありません。

 『はなれていても』の上映は、残念ながら2回で終了してしまいましたが、これからも未来を担う子供たちも楽しめるような、良質な映画を紹介していければと思います。今後のヨコハマ・フットボール映画祭にもぜひご期待ください。

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