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感想文集・統合失調症をもつ人の著作を中心に

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統合失調症をもつ人の著作を中心に、感想文を書いています。作品中またはご自身の発信媒体で統合失調症をオープンにしておられる方々です。 感想を書きたいものはたくさんあるので、ゆっくり… もっと読む
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記事一覧

「夫婦でビョーキですが、幸せになってもいいですか?」冬樹コギ丸著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.16 コギ丸さんは統合失調症と発達障害をもつ虐待サバイバー。 夫の暁さんにはうつ病と発達障害。 そんな二人が支え合う日々を描いたコミックエッセイです。 表題のとおり「ビョーキ同士の夫婦のあり方」を中心に描かれていますが、コギ丸さんが子ども時代に母親から受けた虐待の影響があちこちに顔をのぞかせます。 私自身が虐待サバイバーなのでそこを中心に読まずにはいられませんでした。 そして、虐待後遺症と統合失調症の両方に苦しむ人に読ま

「飛べない鳥のかけるん」物語:かけるん 絵画:片岡洋子(kaede)を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.15 「飛べない鳥のかけるん」は 短くやさしい絵本ですが、読後に強い印象を残す作品です。 かけるんは飛べない鳥。飛ぶことに何度挑戦してもうまくいかないのです。 生きる意味を見出せずにいました。さらにこんなことを考えてもいました。 この一節は、宮沢賢治の「よだかの星」を思い起こさせます。 その昔「よだか」という鳥がいて、殺し殺される世界や虫の命をとる自身を悲しみ、自ら天へ還っていった。 かけるんもまた、そんな苦悩を抱え

「統合失調症になった話(※理解ある彼君はいません)―推しと福祉に救われて社会復帰するまでの劇的1400日―」ズミクニ著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.14 統合失調症で措置入院となり職も失ったズミクニさんご自身による実録漫画。 山あり谷ありの道のりが軽快なタッチで描かれた、力強い作品です。 本書を貫く大きな流れは、発症から治療、福祉の利用を経て再就職活動に至る経過です。 併行して、折々の出来事が数々の4コマ漫画となって添えられています。 川の流れとともに岸辺の風景を細やかに描くようなこの構成のおかげで、とても読みやすくなっています。 ズミクニさんは家族親戚に頼らない

「五行歌集 白つめ草」石村比抄子著を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.13 「2級」「3級」という冷ややかな行政用語に象徴される「友」と「わたし」の状況の差。 そんなことをあっさり飛び超えて「わたし」におもいきりの励ましを届ける友。 冷たいはずのお役所言葉が逆に温かさをまとうのが不思議です。 白つめ草は、統合失調症をもつ作者による五行歌集です。 五行歌とは “字数にこだわらず現代のことばをそのままに自分の呼吸で五行に分ける詩” (「五行歌の会」による) 本歌集には、統合失調症にまつわる経験

「わたし中学生から統合失調症やってます。―水色ともちゃんのつれづれ日記―」 ともよ著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.12 2018年に発行された本書は、統合失調症をもつ作者によるコミックエッセイです。 読むたびに私が感じるのは、こんなに人に説明しにくい、伝わりにくいあれこれが ”水色ともちゃん” の登場によって伝わってくるのはなぜだろう?という驚きです。 はじめに、明らかな発症に至るまでの日々が描かれます。 孤立して不安や焦りのなか無理を重ねてゆくこの時期の切迫感は、家族にもなかなか分かってもらえない。 その頃の短いエピソードがいくつ

「今日もテレビは私の噂話ばかりだし、空には不気味な赤い星が浮かんでる~統合失調症の私から世界はこう見えた~」 Himaco 著 を読んで

感想文集―統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.11 学校図書室に置いてほしいなあ。 中高生に読んでほしい。 実はHimacoさんの前作からそう思っていました。本作を読んでさらにそう思いました。 統合失調症は100余人に1人、中学校なら1学年に1人がいつかは発症する、多い疾患です。発症のピークは10代後半から20代にあります。 若い作者が統合失調症との暮らしを描き、苦悩を経て生の肯定を伝えるこの本を、生徒たちや周囲の方々に読んでもらいたい。 もしやがて発症したならば、

統合失調症だからって絶望することない with こまつ 【統失インタビュー 制作:ナツミ】 を視聴して

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.10 ~中高生に、もし統合失調症になっても希望はあるよ、絶望しなくていいよと伝えたい~ (こまつさん) ナツミさん制作の統失インタビューシリーズ(※1)のうち、こまつさんの登場回です。 こまつさんは高校生のときに統合失調症を発症し、紆余曲折ののち、現在は特例子会社で働いておられるそうです。 インタビューは、病気の経過、仕事のこと、不調のときの過ごし方、自ら執筆した小説について・・・と進みます。 お仕事の話では、特例子

【シバックス体験談】統合失調症による被害妄想の生きづらさ4選 を視聴して

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.9 被害妄想が起こりやすい場面とその対処方法について、シバックスさんが経験に基づいて親しみやすく解説された動画です。 ちょっとネタバレになりますが、こんな場面が挙げられています。   1 女子高生の笑い声   2 同僚の談笑   3 扉を閉める音   4 SNSの投稿・コメント あるある! と共感する方が多いのではないでしょうか。 シバックスさんが実践しておられる対処法は多彩です。 各場面について、なぜ気になるのか過

「陰性症状で辛い方、安心してください」がじゃまるの【がじゃらぼ】統合失調症研究所 を視聴して

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.8 ~陰性症状が来たらまずは安心して。  陰性症状が来たということは、回復期が来るということだから~ 統合失調症をもつyoutuber がじゃまるさんは、このことを繰り返し強調しておられます。 統合失調症にかかった人やその周りの人に広くおすすめしたい動画です。 陰性症状とは、統合失調症の症状のうち、意欲や関心の消失・感情がなくなる・考えにくくなる・身体が重く動けない・極端な疲労などの状態です。 その恐ろしさは、症状自

「四月某日」業(ゴウ)~独り言だと言われても~作 を読んで:唱和

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.7 この印象的な一文で始まるのは、「四月某日」という詩です。 作者は 業(ゴウ)~独り言だと言われても~ さんです。 上のリンクからぜひ読んでみてください。 私は詩に感想文を書くことができません。 詩は真珠のようで、私の言葉など滑り落ちてしまう。 それでもこの詩について何か言いたくて、和歌でいう返歌ならどうかなと思いつきました。 といっても和歌も返歌もよく知らないので、「返歌の方法」を調べてみました。 なるほど・・・

「統合失調症の不思議」黒木淑子著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.6 この一文に集約されるように、著者は自らの統合失調症体験について、その不思議さを率直に克明に綴っておられます。 医学的には病気であっても、自ら体験すれば「不思議」と言い表すのがふさわしい。 それが実感というものでしょう。 おそらく多くの人が、患者として医療を活用しながらも、自身の経験を「脳の病気」の一言でまとめられると何かが取りこぼされているような感覚を抱くのではないでしょうか。 著者がどのような不思議を経験し、ど

「喪失感をどうしたらいい?」 児玉朋己 著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.5 「喪失感をどうしたらいい?」  私が体験した、統合失調症回復のためのステップ7+1 児玉朋己著 こんな問いかけで始まるこのエッセイには、喪失感に向き合ってきた著者自身のこれまでの道のりと対処が静かな筆致でつづられています。 著者の30代は統合失調症の消耗期だったそうです。 陰性症状のため身体も頭も動かないまま時間ばかりがすぎ、「自分には30代がなかった」という喪失感を抱えるようになったそうです。 その後いくつかの

「木村きこりの統合失調症ライフ カミングアウト編」木村きこり著 を読んで

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.4 木村きこりさんはアーティスト・漫画家で、統合失調症をもっておられます。 この作品は、美大生時代に統合失調症をカミングアウトした経緯を自叙伝的につづられたものです。 テンポのよい漫画で、とても読みやすいです。 同時に内容は深く、決意への過程、周りの反応、カミングアウト後の思いなどが描き込まれています。 カミングアウトまでには山あり谷あり。 一般に重大な決心をするとき、その理由は一つではないことが多いように思います。

「統失インタビュー」ナツミ を視聴して

感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.3 ナツミさん「統失インタビュー」シリーズの感想文です。 統合失調症をもつyoutuber ナツミさんは 「発病前よりもハッピーで自分らしく」をキーワードに、素敵なコンテンツをたくさん発信しておられます。 中でも私が大好きなのが「統失インタビュー」 ナツミさんが聞き手になり、統合失調症をもつ方や周囲の方をインタビューする企画です。 出演者一人一人が体験に深く根差したお話をされ、聞きごたえがあります。 ナツミさんのインタ