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【紙の本で読むべき名作選#5】「翔ぶが如く」で電子書籍を越えてゆけ!

仕事ができる人になりたい時、占いに使うべき本!

仕事ができる人」って、なんなんでしょうね?

特に仕事で何かうまくいかないと悩んだ時、私は司馬遼太郎の『翔ぶが如く』文庫版10冊を並べて、目を閉じて適当な巻を抜き取り、適当にパラパラとページをめくって、適当なところで止めます。

一種の占いのようなものですが、この歴史小説は、「組織と組織がガチンコで張り合っている中、一人の人間がどう動くべきか」のアイデアの宝庫なのです。「仕事ができる人」とはこんなものかもしれない、と膝を打つキャラが続々登場します。

物語としては、明治時代初期の西南戦争の前後を扱った群像劇です。近代国家を作るために明治政府の官僚となって生きることを選ぶ人たちと、それについていけないと政府を離脱して故郷へ帰った人たちが、内戦で激突し殺しあう結果となります。司馬遼太郎の他の作品、『竜馬がゆく』や『坂の上の雲』と比較して、とても暗い話です。私も十代の頃にはまったくピンと来ない作品でした。

ところが、自分が大人になると、この小説がめちゃくちゃ面白く、かつ含蓄の深いものになってきます。「汚れ仕事をあえて選んだ男たちのガチな群像劇」と言いますか。

組織を飛び出した人たちより、組織の中で汚れることを選んだ人たちが格好良い歴史小説!

そうなんです。『竜馬がゆく』のような「自由に時代を渡り歩いた男」の物語とは、この『翔ぶが如く』は対極にあるのです。それゆえ、ある程度、この世の中の仕組みや深みがわかってきたオッサンでないと、本作はピンと来ないかもしれない。

西南戦争を描いた通俗的な小説では、「組織を飛び出して近代化に対抗した反乱軍に好意的で、組織にとどまって廃刀令や廃藩置県のような強引な西欧化を進めた明治政府が悪役」となることが多いのですが、この小説は両者に公平なのです。

「そうは言ったって、誰かが刀を取り上げる命令は出さなきゃいけないし、誰かが士農工商の階級も廃止を宣言しないと、国が前に進まないだろう!」と、組織に残って恨まれる仕事に飛び込み、暗殺されたり、ノイローゼで病死したりしていく、政府側の人たちも格好良く描かれています。ただしこの格好良さに気づくには、自分も「組織」という中で相当に揉まれないといけないかもしれませんが。

「パラパラとページめくり占い」をやると見えてくる仕事のティップス:大久保利通、伊藤博文、木戸孝允、山縣有朋

つまり歴史の教科書でいえば「英雄というよりも官僚的な、地味なキャラ」とされがちな、大久保利通や伊藤博文、木戸孝允ら山縣有朋などが大活躍する物語なのですね。

冒頭に挙げた「ページをパラパラとめくって、適当なところで止める」占いをやると、以下のようなエピソードがボンボン出てくる。

・続々と届く「暗殺」の脅迫状を握りつぶしながら、「俺が一人で決着をつけるしか、なか」という名言と共に西欧化政策をどんどん出していく大久保利通
・征韓論争という政府の大危機を、あくまでも「オオモノたちのところを訪問して周り、一人一人説得する」という政治の正攻法で切り抜ける伊藤博文
・危機においては、普段憎み合っていた相手とも、私怨をあっけなく忘れて協闘する木戸孝允
・反乱発生に際して、すかさず「全てを捨てて東京だけを守る戦略をとるべし」という的確な企画書を書き上げ献策する、スピード感の山縣有朋

通俗小説では「頭の固いイジワルな人たち」「英雄たちの時代を終わらせたつまらない人たち」と見なされがちな、これらの人物こそが、今日の日本の礎石なのだ、と喝破した、たいへんなパーセプションチェンジを要求してくる本です。それゆえに、坂本龍馬や高杉晋作を格好良いと思っている十代二十代のうちは、まだわかりにくいかもしれません。

オッサンになるとこのような、「汚れながら、憎まれながら、嫌われながら、誰かがやるべきことをやる」人たちの価値がわかります。

とにかく、そのように一筋縄では読めない、含蓄の深い大作です。パラパラ占いをやるためにも、これは文庫でコレクションしてヨレヨレになるまで読み倒すことをオススメします!

※本記事は以下、「紙の本で読んでほしい名作選」マガジンの一記事となります↓


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