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【ミャンマー】食生活による健康リスク・その対応策について

1. ミャンマーの食生活は国民の健康リスクとなり得る

 前回の記事でミャンマーの食生活について詳しく取り上げました。

前回記事「【文化の交差点:ミャンマー】食生活について」

 その中で、ミャンマー料理の、味が濃い・お米をたくさん食べる・油を使った料理が多いという3つの特徴をご紹介しました。

 料理の味が濃いということは塩分濃度が高い、米をたくさん食べるということは糖分の摂取量が多い、油を使った料理が多いということは脂質の摂取量が高いということに、それぞれ言い換えることができます。これらは、一般的に健康によくないと考えられます。 
近年、ミャンマー人の食生活による健康リスクについては、国内外で問題視されています。現在、どの程度の健康リスクを抱えており、そのためにどんな対策が行われているかについて説明していきます。

2. ミャンマー人が抱える健康リスクとは?

 ミャンマーでは日本のような健康診断制度がなく、全国的に健康についての調査が為されてきませんでしたが、2014年に初めてPMC(米国国立医学図書館 国立衛生研究所)によって調査されました。その結果、糖尿病の全国有病率は10.5%、前糖尿病(糖尿病予備軍)は19.7%と、成人男性の約30%は糖尿病リスクを抱えているということが分かっており、他国と比較して高い健康リスクを有していると言えます。

 また死亡要因別に見てみると、肥満や高血圧に起因する生活習慣病が上位を占めており、肥満や高血圧の改善は全国的な課題と言えます。

  さらにミャンマーでは、2021年7月の新型コロナウイルスの爆発的感染拡大によって約2万人の死亡者が出ており、コロナによる死亡率は、全世界の平均の2倍以上(ミャンマー国内死亡率約3.6%に対して全世界死亡率が約1.5%)であるということがわかっています。その原因の1つとして、生活習慣病等の持病を持っていたコロナ患者の死亡率が通常コロナ患者よりも高かったという報告があり、ミャンマーでは、国民の健康意識の改革が急務になっています。

 国民の健康意識が低いことの主な要因として、健康促進するための食育、そして健康診断の仕組みが十分に整備されていないためだと考えられます。実際、食育の促進及び健康診断の仕組み構築に向けた活動を実施している事例があるので、紹介します。

3. 国民の健康意識を高める「食育」の取り組み


 「食育」とは、食事や栄養に関する知識の提供だけではなく、食に関する仕事をする人々への感謝の気持ちを育んだり、行事食や多文化の料理を知る中で、自分たちのアイデンティティの再確認の機会を提供したりするなど、食に対する全般的な関心を育む目的があります。日本では幼少期から盛んに行われていますが、ミャンマーでは、教育課程にはほとんど食育の内容が含まれていません。食育の知識が損なわれると、栄養の偏り、「食べているのに」栄養不足に陥るなど、生活習慣病につながるリスクが高くなります。

  ミャンマーでの食育の取り組み事例としては、Japan Heartカンボジアの栄養管理部が、2021年の8月より、ミャンマーの養育施設と提携し、オンライン食育授業を実施しています。
(Japan Heart 活動レポート「ミャンマーとカンボジアを繋ぐ、オンライン食育授業を実施しています」)

オンライン食育授業の様子①(出所: Japan Heart 活動レポート

  オンライン食育授業内では、三大栄養素の食品群やその役割を伝え、その上で自分の食生活を見直したり、お菓子やファストフードの関わり方を考える時間が設けられました。その中で、ミャンマーの子供たちに馴染みのある食材やお菓子を用いたり、クイズを挟んだりなどの工夫をすることで、最後まで子供たちの興味を引く授業を行っています。

オンライン食育授業の様子② ミャンマーの子供達に馴染み深い食材を用いて栄養素の説明を行う(出所: Japan Heart 活動レポート

オンライン食育授業の様子③ クイズをすることで、子供たち主体的な授業への参加を促す(出所: Japan Heart 活動レポート

 Japan Heartの栄養管理部は、直接的な医療介入だけではなく、日々の食事摂取が人々の健康に与えられる可能性を広げることを目的に、カンボジアを中心に、食育の知識が乏しい地域での教育活動や、現地の調理師の指導などの活動を行なっています。今回のミャンマーでのオンライン食育授業でも、ミャンマーの子供たちに食育を行って、健康における日々の食事摂取の大切さを伝えています。

4. 国民の健康意識を高める「ヘルスチェックシステム構築」の取り組み

 健康診断の仕組みが不足していることは、国民の健康意識が低い要因の一つです。定期的に自分の健康について把握できていないと、食生活・運動習慣を改善するきっかけが失われてしまいます。

 日本においては、国民健康保険、企業保険や学校などで健康診断を気軽に受けられる土台が整っていますが、ミャンマーでは、このような健康診断の仕組みが国内ではほとんどありません。健康診断を実施している病院は少しありますが、受けられる病院が都心に限られている上にとても高額で、ごく一部の国民しか健康診断を受けることができません。したがって、郊外に住む国民は健康診断というシステムを知らない可能性もあります。

 ミャンマー政府も、国民の健康意識の低さを問題視しており、WHOと共同作成した、国の中長期の医療・保健の取り組みである「Myanmar Health Vision 2030」において、国民の健康意識向上を、5つの重要課題のうちに取り込んでいます。
 具体的に政府は、各地域の保健センターと連携し、ヘルスリテラシーの向上のために、定期的に国民の健康を確認する仕組み構築を進めています。

 一方で、2021年の軍事クーデター以降、ミャンマーの政情不安により、WHOとの共同プロジェクトが十分に進行していないことも懸念されています。医療現場でも、クーデターに対する不服従運動として、医師や看護師が職務を拒否して、人材不足に陥っている医療施設もある(出所: 日本経済新聞「ミャンマーでコロナ禍深刻に クーデターで医療人材不足」)ため、医療サービスの供給不足が国内で大きな課題となっているようです。

 今日のミャンマーでは、現在の政権下でどのように医療サービスを拡大していくかが今後の障壁となっています。

4. まとめ

 前回、今回の記事に続いて、ミャンマーの食生活の話から始まり、医療健康サービスの現在の課題について説明していきましたが、いかがでしたでしょうか。
 私たちが行っているミャンマーの食品ECサイトを立ち上げ、運営サポートの取り組みの中で学んだミャンマーの食生活、そして健康問題についての記事でした。よかったらサイトにもぜひ遊びに来てください!(日本から商品の購入はできません)

 私たちも、今は小さい取り組みですが、ミャンマーの食との接点を持っている立場として、これらの医療・健康の課題に取り組み、ともに改善していく働きをしていきたいと思っています。
 また、今回は2本に渡ってミャンマーについて紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。ミャンマーについてより深く理解し、好きになってくれると幸いです。それではまた次回お会いしましょう!


参考

1. Trip anthropologist「Culture through Food in Myanmar」
https://tripanthropologist.com/culture-through-food-in-myanmar/

2. National Library of  Medicine「Measurement of diabetes, prediabetes and their associated risk factors in Myanmar 2014」   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6407671/#:~:text=Prevalence%20of%20diabetes%20in%20Myanmar,associated%20with%20diabetes%20and%20prediabetes.

3. 経済産業省「新興国等のヘルスケア市場環境に関する基本情報ミャンマー編」2021年
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/iryou/downloadfiles/pdf/countryreport_Myanmar.pdf

4. Japan Heart 活動レポート「ミャンマーとカンボジアを繋ぐ、オンライン食育授業を実施しています」
https://www.japanheart.org/reports/reports-cambodia/food_education_200902.html

5. WHO「Country Corporation Strategy - Myanmar」
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/136952/ccsbrief_mmr_en.pdf










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