仮説と検証 学術論文の考え方と企業経営への応用

少し前のnote「マネジメントを考える」で仮説・検証について記しました。しかし実際に仮説・検証を行うのは容易ではありません。
そこで今回は、学術論文を書く視点から説明したいと思います。

・学術論文とは
この話をする前に、学術論文について少し説明したいと思います。例えば大学を卒業している方なら、多くの方が卒業論文を書いていると思います。そもそも大学は学問研究のための研究機関であり、研究している学問を教育するための機関です。そのため元来卒業論文は研究論文という扱いになります。
とは言え多くの方は「そこまでハードルを上げられても」と思うのではないでしょうか。
実際に卒業論文と修士論文にはかなりの開きがあります。ただし、これは特に日本の特徴で、海外では卒業論文も学術論文としてのレベルを求められることが少なくありません。
例えば経営学や経済学分野では博士課程から学会に入会できます。僕はまず日本経営学会や日本商業学会、交通経済学会などに入会しました。
入会には厳密な規定があります。この分野では最低条件として、博士課程の学生以上であることや論文ならびに研究業績が求められ、推薦が必要になります。
各国によって多少の違いはありますが、基本的には変わりません。
学術論文とはこうした学会論文誌や大学紀要、学術雑誌などに掲載された論文と、こうした場で実績のある方が書いた著者を指します。ただし研究者の著書で、一般的に論文だと捉えられているものの中には、該当しないものもありますが、これは学術論文を書いた方でないと見分けがつかないかもしれません。

・仮説型論文
仮説型論文とは、研究対象のテーマに対して仮説を述べるための論文です。主に新たな視点や方法を示したり、これまでにない考え方を提示することを目的とします。これまでの研究実績から今後の変化を予測(予備仮説)を積み重ね、データ収集・分析から、論理的な仮説形成を行います。
ここで勘違いしてはいけないのは、研究者はそれまでの研究過程で常に仮説・検証を繰り返しており、決して「思いつき」では理論を述べない点です。むしら多くの方より、極めて論理的な思考を積み重ねて仮説を立てます。

・検証型論文
検証型論文とは、現在示されている仮説論理を、現在の事象に当てはめて検証することを目的とした論文です。例えば僕の専門分野であれば、経営学や経済学の仮設を実際の社会の動向に当てはめて、どれだけ実効性と論理的整合性があるかを示すなどです。
特に近代経済学の数理モデルなどは、証明された数式が実態経済をどれだけ正確に分析できるか、また様々なケースにおいて、付帯条件や論理外となる条件を明確にします。

さてこれまで記してきたように、仮説・検証において、研究者(学者)は最先端にいると言っても過言ではないと思います。
勿論、アナリストや民間の専門家、実務家にも優れた方はおられます。しかし、特に検証という場面において、研究者の言葉が重視されるのは、検証結果を論理化、また定義化するという点においてプロフェッショナルであるが故ではないでしょうか。

実は研究者は、唯一プロフェッサー(プロフェッショナル)が名詞として職名となる仕事ですから。
多くの‘本当の’研究者は、フライドとそれ以上の責任を持って取り組んでいます。

・企業経営における仮説・検証
企業経営においても、仮説・検証のプロセスから今後の戦略や舵取りを考えることが重要です。
ではどのようにして行えば良いのでしょうか。

・現状把握
企業経営について考えるにあたり、まず現状の把握を行います。自社の経営状況、業務内容、業務状況、自社の品質や課題などを列挙します。
次に自社の環境を把握します。業界や市場、経済の動向、消費者の動向などです。

・理論による分析
把握した現状を経済理論や経営理論に従って分析し、自社の状態を客観的に把握します。

・仮説を立てる
自社の現状について、これまでの動向と理論による分析から、今後の課題や直面するであろう問題の仮説を立てます。
また産業構造や収益構造、市場、顧客の動向など、特性が類似する産業や企業の動向を元に、それらの分析の基となる理論に従って、自社が事業を行う業界が、今後どのように変化するかについて仮説を立てます。

・検証する
自社や業界の動向の仮説を、再度直面している課題や必要な理論によって仮説を検証します。
また仮説に基づいた戦略や課題解決の方法を実施し、仮説とのずれを見つけます。
仮説・検証において最も必要なことは、どちらも理論によって演繹することです。この時つい帰納的な分析になることが多いようですが、それでは経験概念的になってしまいます。何かを分析するとき唯物史観で行います。

こうしたプロセスを経て、自社の目的を定義することで仮説・検証を実地に役立てます。

この時大切なのは、思い込みや世相、トレンドに流されず、例え分析結果が予想したものや望んだものと異なっても、客観的に受け止めて適切な道を見つけることです。


今、多くの企業が新型コロナウイルスによる危機とその後について心配しています。戦略提案のため、分析内容をお伝えすると、必ずしも受け入れられないことも少なくありません。とはいえ「このままでは危ない」と言っても、何の具体性もなく、真剣に受け止めることは難しいです。

僕は企業経営のお手伝いをさせて頂くとき、予測される最悪の状況の、一つ手前の状況を具体的に伝えるようにしています。

殆どの場合、これで仮説・検証の流れと分析結果を理解して頂けます。

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