問題をどう扱うのか 改善・解決・解消の違いと目指すべきゴール

僕は多くのデザイナーの方とお付き合いがあります。この中で「デザインは全ての問題を解決する」という言葉を聞きます。
デザインが単に色や形を決めることではないという考え方や実例を多く学び、非常に興味深いことがたくさんありました。

しかししばらくしてふと思ったことがあります。それは解決で止めてよいのかということです。
学問研究の視点から見たとき、不十分に感じてなりません。そこで考えた結果、こんな風に考えました。

デザイン=全ての段差にスロープをつける
学問研究=世の中から全ての段差をなくす

この時、全ての段差をなくすという考えに、「そんなことは不可能」とか「どれだけの時間がかかるんだ」といった意見が出ると思います。でもこれは私たちの身の回りにたくさんあることです。例えば癌治療に取り組むお医者さんもいれば、癌をなくす研究をしているお医者さんもいます。どちらかが優れているわけではありません。それぞれの努力からヒントやチャンスを得ることもたくさんあります。私達の社会はそうして発展してきたのですから。

前置きが長くなりましたが、こうしたことから、今回は「改善」「解決」「解消」について考えてみたいと思います。

それぞれについて辞書には以下のようにあります。

・改善
悪いところをあらためよくすること。
・解決
問題のある事柄や、ごたごたした事件をうまく処理すること。
・解消
今までの状態や関係、約束などが消えてなくなること。 
                          ※大辞泉より抜粋

余談ですが、「改善」のみ「改(あらたまる」で、「解(とく)」ではないですね。あらためて気付きました。

この違いを例えば企業の問題に当てはめて考えてみましょう。

ある工場で慢性的に人手が足りないとします。募集してもなかなか人が集まりません。

この時、、、

工場の人の数に合わせて、生産量を減らすことにします。とりあえず人手不足という問題は何とかできました。これが「改善」です。
生産量が減れば売り上げも下がりますが、とりあえずは工場で働く人に無理をさせたりすることはなくなります。

次に賃金を大幅に引き上げることで人手を確保したとします。生産量を維持し、人手不足も解消しました。これが「解決」です。
可能なら生産量を増やすことで利益率を維持できるでしょう。

最後に生産を自動化しました。これで作業者を確保するという問題は起こりません。これが「解決」です。
既存の熟練作業者は一部の修正や仕上げのみで基本的には管理を行うだけなので、品質や生産量も向上させられれば、投資コストはすぐに回収できるでしょう。

これは非常に単純化した事例ですから、実際にはなかなかこうはいきません。しかし改善・解決・解消の違いはお解り頂けたかと思います。
そしてさらにお気付きの方もおられるでしょう。改善→解決→解消の順に、より革新的な考えが必要になります。

日本は独自の慣例が多い国です。これはビジネスでも同様で、規制緩和が推進された時期など、多くの企業が日本の取引慣行にとらわれ、海外企業に苦しめられました。
今テレワークの推進が求められている中でも、前時代的な常識が妨げになっている例を多く聞きます。
とある町づくりに参加した時、その地域(問屋街)の経営者から、40年も前に唱えられた問屋無用論の不満を聞き、顔には出しませんが呆れたことがありました。

時々、経営者向けの講演などで、「世界最高の性能のカセットテープを作っているのに売れないと言う経営者をどう思うか」という話をします。多くの方は笑いますが、その後の懇親会などで例え話と変わらないことを言う方が少なくありません。

改善・解決・解消は、全く違うように見えるかもしれませんが、僕は一連の考えだと考えます。
最終的に問題を解消する意識がなければ、改善もできないのではないでしょうか。また解決をゴールにしていては、解消できないだけでなく、解決案も陳腐なものになると思います。

「昭和の常識、平成の非常識、令和の、、、」などという言葉を耳にします。僕は学生さんに「常識が良識とは限らない」と話しています。これは僕の経験上の感覚ですが、常識という言葉を多用する人ほど、その人の思い込みを伝えていることが多いように感じます。

問題に直面したとき、すぐに実現できなくても、解消することをゴールに取り組んで頂ければと思います。

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