帰納法と演繹法 演繹法が難しい理由

ロジカルシンキングの講義では、「帰納法」と「演繹法」について説明します。ロジカルシンキングを学ぶうえでは必修ですね。例題などで説明されている事例や練習問題などではできるのに、実際に普段の生活ではなかなか実践できないという話をよく聞きます。
僕が博士課程の時、ある先生から「最近の学生は、コンピューターは強いんだけど、そもそも勉強が足りないのか、機能的にしか考えられない。博士なんだから演繹的に考えなさい。」というお説教を頂きました。
この頃はパソコンや携帯電話、インターネットが急速に普及していった時期で、レジュメやレポート、論文なども当然のようにパソコンを使って作成していました。(ちなみに僕の大学の卒論の時はワープロでした)
誰もが簡単に作れますから、当然のように図表やグラフを多用します。論文内でしっかり文章で論証しないことを指摘した言葉でした。
ちなみにこの先生は、常に原稿用紙と方眼用紙をカバンに入れておられました。

さて、なぜ演繹法を実践することが難しいのかについてです。

・論理的に考えることに慣れていない
以前、「思う」と「考える」の違いについて記しました。人は自分の専門分野など以外は、意外と「思った」ことで判断することが多いです。それでも論理的に考えることに慣れている人は、普段の生活の中でも、比較的多くのことを「考えて」判断します。これが「考える」ことに慣れているかどうかの違いです。
「考える」力は筋トレと同じで、簡単に身につけることはできませんが、訓練を続ければ誰でも身につけることができます。普段の生活の中でも、思いつきではなく、何が適切かを考えると良いでしょう。例えばインターネットで情報を得る時に、その情報が正しいのかを考えるだけでもトレーニングになります。

・国語力
物事を考えるうえで、言葉や文章の意味が解らなければ何も始まりません。実は勉強ができない人の、原因の一つがこれに当たります。なぜならテストの問題が理解できていないからです。
まず言葉の意味が解らなければ考えることすらできません。単純に語彙力が低いことが原因となります。また長い文章が読めないというのも同じで、読解力が低ければ物事の内容を適切に把握できません。
先日、清掃会社の社長さんが、自宅内の消毒について色々なことを教えて下さいました。家庭用の洗剤などの成分にも表記してある内容だから簡単とのことでしたが、さっぱり解りませんでしたし、すぐに忘れてしまいました。
皆さんもコマーシャルなどで「○○10%配合!」などと書かれていた時、感心してもそれがどのような効果があるのか実際には解らないといった経験があるのではないでしょうか。僕は洗剤の成分を見たこともありませんし、気をつけたこともないからです。
このような人は往々にしてデマや風評に左右されやすい傾向にあります。言葉の意味を曲解していたり、文章の最初と最後だけしか読まなかったりすると、こうした傾向に陥りやすいのです。

・演繹するロジックを知らない
演繹法を実践するうえで、一番難しいのがこの点ではないでしょうか。
演繹法では、演繹すべき理論や原理原則(前提条件)を知らなかったり、適切でないものを選択すると、間違った判断に至ります。ロジカルシンキングの基本問題の場合、一定の年齢以上であったり、一般的な常識や道徳を有していれば解答できる問題が設定してあります。よほど知識が足りなかったり、考えが偏っていなければ誰でも判断できる設問になっています。
しかし生活の中で演繹法を活用するためには、その問題について前提となる理論や原理原則を理解していなければなりません。
例えば僕は自分の研究や企業経営のお手伝いをする時、経営学や経済学、マーケティングの高度な理論を用いて判断します。様々な問題に対して、どの理論を用いればよいのかが解ります。しかし専門外で知識のないことは全く解りません。
以前、初心者向けの誰でも育てられる水耕栽培キットをもらいました。僕は植物について恥ずかしいほど(実際に恥ずかしいのですが)無知です。しかし誰でも育てられるということで挑戦したところ、双葉までしか育てられず見事に失敗しました。その後花屋さんにその話をすると、「双葉までは種の中の養分で育つ」と言われ、本気で落ち込みました。
世の中のことで演繹法を実践しようとすると、実は多くの分野の知識を必要とします。だから難しいのです。

演繹法を実践するために三つの点を挙げました。ここまでの理由を見ると不可能なように思えるかもしれません。しかし悲観する必要はありません。多少の差はあれ仕事や趣味など、誰でも演繹法を使用しています。
まずは自分の得意分野から、どんなことが演繹に当てはまるのか考えてみるとよいでしょう。

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