【読書録】『ひとり酒、ひとり温泉、ひとり山』月山もも
今日ご紹介するのは、月山もも氏の旅行エッセイ、『ひとり酒、ひとり温泉、ひとり山』(KADOKAWA、2020年)。
著者は、人気ブロガーで、「山と温泉のきろく」というブログを運営している。
こちらのブログには、著者が、女性ひとりで温泉宿へ宿泊したり、山に登ったりした記録が、詳しく綴られている。
私がこのブログを知ったきっかけは、Google検索だった。温泉好きの私は、暇さえあれば、行きたい温泉宿の情報を検索しているのだが、かなりの確率で、このブログに行きつくのだ。
そして、その都度、検索でヒットした記事に引き込まれ、じっくりと時間をかけて読んでしまう。
女性ひとりで温泉宿に泊まり、女性ひとりで登山に出かけるという著者の旅のスタイルを、素敵だと感じるのだ。
そして、女性の一人旅ならではの独自の視点が盛り込まれている。同じように女性で一人旅を好む私にとって、とても参考になる。
だから、彼女が本を出版していると知るや、すぐに本書を入手して読んでみた。
以下、特に印象に残った箇所を、少し引用させていただきたい。
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まず、「はじめに」では、ひとりで旅をすることのメリットが、端的にまとめられていた。
これらのくだりに、大いに共感した。ひとりで好きなものに向き合う喜びは、かけがえのないものだ。私にとって、女ひとり旅は、周りの目が気になったり、不安を感じたりして、最初こそハードルが高かった。しかし、いざ慣れてしまうと、これほど楽しいものはない。
有名観光地であっても、興味がなければスルーする。メジャーな旅行雑誌には載っていない、マニアックな場所に行ってみる。旅の予定を、その日の天気や体調や気分によって、臨機応変に変更する。一目惚れした場所には、他の場所へ行くはずの時間を削ってでも、長居する。この身軽さが、実に良い。
もうひとつ、私の一人旅の楽しみを付け加えるとすると、地元の人や、他の旅人との交流がある。
たまたま、旅の途中で出会った人と友達になり、話し込んだり、食事や観光の一部をご一緒したり、そこからメールアドレスやSNSの連絡先を交換して、以後、長い交流が続くこともある。これぞまさに、一期一会。同行者がいれば、一人のときほどは、現地で出会った人との交流に時間を割けないだろう。
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次に、本編を見てみよう。本書の構成は、第1章「ひとり酒」、第2章「ひとり温泉」、第3章「ひとり山」、第4章「ひとり旅」。
本編では、著者が「ひとりご飯とお酒」「ひとり温泉旅」「ひとり登山」を始めた頃のエピソードを交えながら、ひとりで楽しむことの素晴らしさと、そのために、色々なハードルを越える秘訣やノウハウをまとめている。
私は、「ひとり酒」はあまり好まない。また、「ひとり山」は、登山の経験が乏しいこともあり、現在のところ、それほど興味はない。
しかし、「ひとりご飯」「ひとり温泉」「ひとり旅」は大好きだ。特に「ひとり温泉」には、ここ数年、ドはまりしている。だから、第2章は、特に熟読した。
本書では、著者お薦めの温泉宿がたくさん紹介されている。そして、この本が他の温泉系書籍と異なるのは、一人温泉客の観点から、「一人温泉に優しい宿」の具体的な6つの条件を挙げていることだ。これは、私のような、いわば「ひとり温泉ガール」には、とても参考になる観点だ。
確かに、温泉旅館からすると、複数人で1室をシェアする客のほうが効率が良いだろう。だから、1人客はあまり受け入れたくないという事情も分かる。
実際、少なくとも休日や休前日には、2人以上ではないと予約を受け付けてくれない宿も多い。また、一人で泊まると料金がかなり割高になるお宿も多い。
だから、「一人旅にやさしい宿」の特徴をまとめてくれると、宿選びの際に重宝する。
ちなみに、上述の著者のブログ「山と温泉のきろく」においても、紹介する宿について「一人旅に優しい度」として、100点満点で点数をつけている(なお、上記の各要素のほかに、フリーWifiが完備されているかどうかもひとつの要素となっている。)。こちらも大変参考になる。
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以下、雑感。
本書を読んで、著者は、きっと孤独を心から楽しめる方なのだろうなという印象を受けた。私も、どちらかというと、かなり上手に孤独を楽しめる方だとは思う。しかし、おそらく、孤独に対する耐性は、著者ほどは強くなさそうだ。
私は、一人旅が大好きで、急に時間ができると、しょっちゅう、ふらりとひとりで出かける。
しかし、旅の間、誰とも話をしない時間が長くなると、ふと、寂しさを感じるときがある。
そんなときは、地元の人や他の旅人と、挨拶したり、会話してみるようにしている。
たとえば、田舎の温泉で、地元のおばちゃんたちと一緒にお湯につかりながら、他愛のないお喋りをする。マニアックな温泉宿で出会った、温泉マニアの旅人たちと、どこの温泉が一番好きか、と、温泉談議で盛り上がる。こういう瞬間が、とても楽しい。
中には、話しかけられて迷惑そうにする人もいる。しかし、大抵は、こちらから声をかけると、にこにこと応じてくれる。
また、たまには、誰かと一緒の旅もしたくなる。家族や、大好きな友人との旅は、理屈抜きで、とても楽しい。
しかし、家族や親しい友人であっても、何日間も連続して、同じ空間で時を過ごしていると、だんだん疲れてくることがある。そして、しばらくの間、ひとりになりたいな、と思ったりする。
私には、幸いにも、私の旅のスタイルと、とても波長のあう旅友(タビトモ)がいる。彼女とは、1週間以上の長期の旅行に、もう何度も出かけた。彼女とは、ちょうどよい距離感を保てる。たとえば、昼間は別行動して、夕食に集合してそれぞれの1日を語り合うなどして、単独行動の時間と、一緒に過ごす時間をミックスする。長年のつきあいで、自然と、このようなスタイルが出来上がってきた。
ここまで書いていて、有名ブロガーの「ちきりん」さんのブログ「Chikirinの日記」の「何度も一緒に旅行できるということ」という記事を思い出した。彼女のブログ記事の中で、私が特に大きく共感したもののひとつだ。ここにリンクを貼っておく。
この記事で、ちきりんさんの言っていることと、本書の著者の月山もも氏の言っていることには、共通点があると思う。
旅において、ひとりの時間を確保したい人がいる。孤独な時間と、孤独でない時間の最適なバランスは、人によって大きく違うだろう。それゆえ、おそらく、一人旅と、誰かと一緒の旅の最適なバランスも、人によって違うのだ。
友人との旅行が、実はそれほど楽しくないかもしれない、と思っているそこのあなた。一人旅を試してみては? この本が、そんなあなたの背中を押してくれるかも。
ご参考になれば幸いです!
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