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【読書録】『NO RULES』リード・ヘイスティングス / エリン・メイヤー

今日ご紹介する本は、『NO RULES』『ノー・ルールズ』)。副題は、『NETFLIX and the Culture of Reinvention』(日本語の副題は『世界一「自由」な会社、NETFRIX』)。

NETFRIX共同創業者・会長兼CEOであるリード・ヘイスティングス氏と、INSEAD教授である、エリン・メイヤー氏の共著。

簡単に言えば、言わずもがなの急成長を遂げたNETFRIX(ネットフリックス社)の企業文化について深堀りする本。日本の企業文化との大きな違いに、驚かされる。外資系企業に勤める私にとっても、「そこまでやるのか!」という驚きの連続だった。

そして、この本の大きな特徴は、創業者であるリード・ヘイスティングス氏の自社についての語りだけではなくて、第三者の視点から、エリン・メイヤー氏の語りを織り込んでいるところである。

エリン・メイヤー氏の有名な著書『The Cultural Map』(邦題『異文化理解力』)については、別記事で少し触れた。これは、異文化理解に一石を投じる、たぐいまれな名著だ。彼女が共著者であることにより、この本の信頼性が大いに増していると思う。

以下、例によって、この本『NO RULES』を読んで、私が学んだポイントを要約してみよう。

この本では、ネットフリックス社が、何年にもわたって試行錯誤を繰り返し、進化したうえで到達した正しいアプローチとして、3つの柱を軸に話を進めている。それらの3つの柱とは、次のとおり。

1.能力密度を高める
2.率直さを高める
3.コントロールを減らす

これら3つの柱について、ネットフリックス社の取った方策や、実際の具体例に基づくストーリー、取るべきステップなどが豊富に述べられている。以下、私なりに理解したところを要約してみる。

1. 能力密度を高める

第1段階:有能な人材だけを集める
第2段階:個人における最高水準の報酬を払う
第3段階:キーパーテストを実施する

「最高の同僚」(=クリエイティブで、次々と成果を上げ、協調性に富む優秀な人材)だけで構成される職場環境を整える(第1章)。

成果連動型ボーナスは使わない。代わりにその原資を給料に上乗せする。クリエイティブな仕事には、脳がある程度の自由を感じる必要がある。成果次第で高額報酬がもらえるかどうかに脳の一部が集中していると、イノベーティブなアイデアが湧いてくる「自由な認知ゾーン」に没入できず、パフォーマンスが悪くなる(第4章)。

優秀な人材が集まる環境では、最高水準の報酬を払い続けることが長期的に見ると最もコスト効率が良い。人件費を負担しきれなくなったら、一部の社員を解雇することで、個人の給料は下げずに総人件費を引き下げ、能力密度の維持を図る(第4章)。

社員に対して、人脈を広げて、自分とチームの市場価値を常に把握しておくよう指導する。他社からの誘いの電話を受けたり、面接受けたりすることも含まれる。その結果に応じて給料を調整する(第4章)。

「キーパーテスト」(同業他社の同じような仕事に転職するといってきたら必死に引き留めるか)を使って、マネージャーが部下のパフォーマンスを厳格に評価できるようにする(第7章)。

誰かを解雇する必要があると気づいたら、本人にとって屈辱的で、組織にとってコスト負担の大きいPIPのようなプロセスを実施する代わりに、その資金を使って十分な退職金を払う(第7章)。

2. 率直さを高める

第1段階:フィードバックを促す
第2段階:組織の透明性を強化する
第3段階:フィードバック・サイクルを促す

頻繁に率直なフィードバックを、「4A」ガイドラインに従って与え合う。(4Aとは:①Aim to assist =助けようという気持ちで、②Actionable=行動変化を促す、③Appreciate=感謝する、④Accept or discard=取捨選択できる、受け入れるかどうかは本人次第)(第2章)。

ジャーク(協調性のない嫌なやつ)は排除する(第2章)。

会社の秘密を公表することによって社員の当事者意識とコミットメントを高めていくことができる(第5章)。

組織再編や解雇といった社員の人生に影響しそうな決定をする際には、結論が出るのを待たず、なるべく早く社員に伝える。それによって社員の不安が高まり、注意力が低下するかもしれないが、そうしたデメリットを補ってあまりあるほどの信頼感が生まれる(第5章)。

経営者が、自分の失敗を率直に語り、他のリーダーにもそれを促せば、組織全体の信頼感や善意が高まり、イノベーションが活発になる(第5章)。

フィードバックが必ず交換されるような仕組みを導入する。実名を明かした上での書面による360度評価と、ライブ360という仕組み(第8章)。

3. コントロールを減らす

第1段階:休暇、出張、支出に関する規定などを撤廃する
第2段階:意思決定の承認を不要とする
第3段階:コンテキストによるマネジメント

ルールを撤廃して自由を与えることで支出が少し増えたとしても、ルールの少ない環境がもたらすスピード感や柔軟性などがもたらす利益には到底及ばない(第3a章、第3b章)。

スピード感があるイノベーティブな会社では、重要でリスクの大きい意思決定を下す権限は、職位にかかわらず、組織のさまざまな階層に分散すべき(第6章)。

社員に何をすべきか指示するのではなく、彼らが優れた意思決定をできるように、あらゆるコンテキストを提供し、議論を重ね、しっかり足並みをそろえる。前提条件やリスクを明確に説明し、ビジョンと目標について認識を一致させる(第9章)。

「自由と責任」のカルチャー

以上の3つの柱でネットフリックス社が実現したのは、ひとことで言えば、「自由と責任」のカルチャーだ。

社員に守るべきプロセスを与えれば、自らの判断力を働かせて考える機会を奪ってしまう。そうではなく自由を与えれば、質の高い判断ができるようになり、説明責任を果たすようになる。それによって社員の幸福度や意欲は高まり、会社も機敏になる(p18)。

そして、「自由と責任」のカルチャーは、「ルールと手順」のカルチャーと対照をなす。「ルールと手順」を選ぶべき事業もあるが、イノベーションを生むには、「自由と責任」のカルチャーがワークする、ということだ。

この本のタイトルが、『NO RULES』つまり、「ルールをなくす」というタイトルであるのも、このことを意味するのだろう。

感想

これほど読み応えのあるビジネス書に出会ったのは、久しぶりだった。

何度読んでも、目から鱗、の驚き。ショックとすらいえる。

日本企業にとっては、脅威だと感じた。ネットフリックスのような企業がどんどん出てきたら、旧態依然とした日本の企業文化では、到底、太刀打ちできないように思える。

1.「能力密度を高める」については、日本のカルチャーや、日本の法律の環境では、できないことばかりだ。終身雇用が前提だから、一旦従業員を正社員として雇用したら、その後パフォーマンスが下がっても、容易に解雇できない。年功序列的な給与規定にしばられると、スーパースターを獲得し、最高水準の報酬を支払い続けるのも困難だ。

こういう点で、日本の企業は、生産性の低い人材を社内に長く留めおいたり、海外企業とのAI人材の獲得競争に負けてしまったりして、ビジネスの競争力を大いに阻害していると思う。強い危機感を感じている。なんとかならないものだろうか…。

2.「率直さを高める」について。フィードバックを与え合うことの奨励は、私の勤務先でもやっている。しかし、名前を出してフィードバックを行うことにためらいを覚える社員は多い。まして、みんなに囲まれてライブでフィードバックを受けるというのは、日本のカルチャーでは、かなり恥ずかしかったり、屈辱的に感じるのではないか。気持ちの面で、ハードルが高いだろう。

実際、この本の第10章で、「率直さに対する考え方は国によって異なる」ということを説明するくだりがあるのだが、ここで、フィードバックを求められて、慣れておらず泣き出してしまった日本人社員ミホさんの例に触れられている。しかし、ミホさんも、練習の末に明確かつ行動改善につながるフィードバックができるようになったという。この点は、訓練次第で何とかなるのかもしれない。

3.「コントロールをなくす」も、規則に縛られることに慣れている日本人や、日本の企業文化においては、とてもハードルが高いだろう。休暇規定をなくす、経費に関する規定をなくす、上司が指示するのではなく、社員に広く意思決定権を与える…。こういうことができる素地は、まだまだ多くの日本の会社には十分に育っていないだろう。

私の会社も、まぎれもなく「ルールと手順」寄りの会社だ。私は経営者ではないから、私ひとりの力で、会社のカルチャーを「自由と責任」のカルチャーにシフトさせることは困難だ。ただ、少なくとも、自分のマネージするチームにおいては、チームのクリエイティビティを高め、パフォーマンスを飛躍的に向上させるため、「自由と責任」のカルチャーを醸成したいと思った。

実際、私は、私のチーム運営上のモットーとして、部下の皆さんにはできるだけ権限を委譲するようにしてきた。意思決定をできるだけ現場で行い、承認プロセスを簡潔にすることが、効率的に成果を上げる近道だし、部下の皆さんたちの成長にもつながると信じているからだ。

ただ、まだまだ、マイクロマネジメントをしたがる上司は多い。社内のあちこちで、上司の承認を得るために、膨大な時間と労力が使われているのを見て、もうちょっと何とかならないものかなあと、嘆かわしく思っている。(実は、私の現在の上司もそういうスタイルで、自由が好きな私は、かなり難儀をしている…。)

起業家、経営者の方にとっては言うまでもなく、管理職の方にとっても、チーム運営にとって大いなる気づきを与えてくれる名著だと思う。

ご参考になれば幸いです!

※本書の共著者のエリン・メイヤー氏の名著、『異文化理解力』はこちら。外資系企業はもちろん、海外とビジネスをする方には、自信をもっておすすめします!


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