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【読書録】『ドナウの旅人』宮本輝(&ウイーン・ブダペスト・ソフィア旅行記)

今日は、宮本輝氏の長編小説、『ドナウの旅人』(新潮文庫)。

東欧の大河・ドナウ川を見たい、と言って、突然、夫を残して出国し、17歳年下の男性、長瀬とドナウ川を下る旅をする、家庭の主婦、絹子。

その絹子を、娘である麻沙子が、2年前に別れたドイツ人の恋人シギィと、ともに追いかける。

3人の日本人と1人のドイツ人、母娘とその恋人の2組のカップルという、奇妙なパーティーが、物語の主人公たち。

彼らが、波乱万丈な出来事に遭遇したり、行く先々で様々な人々と出会い、雄大なドナウ川に沿って、上流から下流へ、7か国、東西3000キロにわたる旅をする。

その過程で、彼らが、それぞれの人生を振り返り、深い愛情や悲しみを胸に抱きながら、将来について悩んだり、逡巡したりする。そんな壮大な物語だ。

それぞれの登場人物に、深い物語があり、話が展開するにつれて、色々な背景事情が明らかになり、あっという結末が待っている。

登場人物の示す愛情を描写する表現が、とても豊か。あるときはほほえましく、あるときは悲しく、切なく、もどかしく、心が鷲掴みにされるような感覚を何度も味わった。

特に、繊細で微妙な女心を、男性の作者がどうしてここまで再現できるのか…。宮本輝氏の筆力に舌を巻いた。

西ドイツから東欧諸国へ旅をする過程で、現地の風景や、人々との交流の描写もリアルで、旅の醍醐味も感じさせてくれる。作者は、実際に、3000キロの旅程の取材旅行をしたようだ。

この、長い物語を読みながら、考えさせられる箇所がいくつもあったのだが、特に次のくだりが印象に残った。

恋人同士であれ、夫婦であれ、友人であれ、いったい誰がいつもいつも相手の求めるものに応じられるだろう。人は絶えず、このようにされたいと思うとき、されたくない行為を受けている。自分だって、きっと同じだ。相手が言われたくない言葉を、気づかずに口にしているときが多いに違いない。(上巻・p191)
どんな人間の人生も大河ですよ。(下巻・p442)

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さて、以下は、書評にこじつけての、海外旅行記になります。

こちらが本書に挿入されている、物語の舞台である国々の地図。ドイツがまだ東と西に分かれていたり、チェコスロバキア、ユーゴスラビアなどが分割される前だったりと、時代を感じさせる。

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私は、この小説に登場する都市のうち、ウィーン(オーストリア)、ブダペスト(ハンガリー)、ソフィア(ブルガリア)に、旅行したことがある。と言っても、この小説のようにドナウ川を下る旅ではなく、それぞれの都市を、それぞれ別の機会に、スポット的に訪問しただけだ。

これらの都市では、1人で行動し、地図を見ながら、自分の足で、観て回った。だから、それぞれの街の地理は、今でも大体頭に入っている。私がいつもつけている、旅ノート(こちらの記事ご参照)にも、現地で使った地図を貼り付けて、散策した道筋を記録している。

小説の舞台となった現実の場所が、自分の足で歩き、五感をフルに使って冒険した場所であれば、そうでない場合に比べて、その小説にずっと親しみがわき、感情移入できるものだと思う。

自己満足的ではあるが、これらの都市の写真データを集めてみた。

ウィーン

小説に出てくる、オペラハウス。実際に、オペラを観に行く機会に恵まれた。オペラも、建物も、とても素晴らしかった。小説では、ウィーンで音楽の勉強をする留学生たちが登場した。

外観。

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幕間(インターミッション)の時の様子。

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もう一か所、この小説に出てくる、豪華絢爛な宮殿、シェーンブルン宮殿(世界遺産)にも行った。

しかし、このときは、まだ、フィルムカメラだった。あいにく、ネガもプリントした写真も見つからないので(おそらく、実家の押し入れの奥深くにでも眠っているのだろう…)、こちらのホームページからお楽しみください。

ブダペスト

小説の中で、主人公ら4人が宿泊した、インターコンチネンタルホテルに、私も泊まった。

ブタペストに泊まる際には、とにかく景色の良い部屋に泊まりたいと思い、慎重に検討し、このホテルがベストだと考えた。そして、迷わず、ドナウ川側の部屋を取った。料金は高めだったが、大正解だった。窓からのこの景色は、どれだけ眺めても飽きなかった。ひたすら窓際に座って、ドナウ川を眺める贅沢を味わった。

夜遅く、チェックインしたときの夜景。ペスト側から、ブダ側を眺める。

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翌日の夕焼け。

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日没後の夜景。

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ブダ側の高台にある、漁夫の砦

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ブダ川とペスト側を結ぶ、くさり橋(セーチェニ橋)

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ソフィア

小説で、短いソフィア滞在中に絹子が訪れた、アレキサンダー・ネフスキー大聖堂。ブルガリア正教会の大聖堂で、ソフィアのシンボル。ネオ・ビザンティン建築様式の代表的な建物だそうだ。

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別アングルから。

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ついでに、(小説には出てこないが)ソフィアから日帰りで訪問した、リラの修道院(世界遺産)。ソフィアからは約117キロの山の中に位置する。アクセスは不便だが、とても神秘的で素晴らしい場所だった。

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別アングルから。

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フレスコ画が素晴らしかった。

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もう一枚。

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話を元に戻すと、東欧旅行をお考えの方や、宮本輝氏の描く豊かな感情描写にご興味のある方には、是非お薦めしたい一冊です。

ご参考になれば幸いです!


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