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【読書録】『誰も教えてくれなかった 子どものいない人生の歩き方』『誰も教えてくれなかった 子どものいない女性の生き方』くどうみやこ

今日ご紹介するのは、子どものいない女性の生き方にフォーカスし、子どもがいない女性も、一人一人が幸せな人生を送ることができるよう、ヒントを与えてくれる本。

『誰も教えてくれなかった子どものいない人生の歩き方』が2018年、『誰も教えてくれなかった子どものいない女性の生き方』が2020年刊行。

私自身、子どもがいないことにより、これまでの人生で、時々、生きづらさを感じることがあった。そんな私にとって、どんぴしゃりのトピックなので、2冊合わせて読んでみることにした。

著者のくどうみやこさんは、ご自身が子どものいない人生を送っている。著者自身が当事者であるからこそ、子どものいない女性に寄り添ったメッセージが続く。読み続けていくうちに、「そうそう、まさにその通り。」「そういう話がずっと聞きたかった」と頷けるような情報やコメントが満載だ。以下、この2冊の本の内容を書き留めておく。

『誰も教えてくれなかった 子供のいない人生の歩き方』

タイトルでは、子どものいない「人生」ということで、性別には触れていないが、男性の話ではなく、あくまで子どものいない女性にフォーカスされている。

まず、第1章で、著者の体験を共有してくれている。著者は、31歳で結婚し、仕事が忙しく、出産問題を先送りしていたところ、42歳のときに子宮頸がんが発覚し、子宮全摘手術を受け、子どもをもたない人生が確定したということだ。

次に、第2章では、子どもがいない女性13人のストーリーを紹介している。子どもを持たない人生となった理由や、苦しさや悩みのほか、どのような思いで人生を送っているかを紹介している。13とおりの人生であり、どの方のお話も参考になる。

第3章は、子どもがいない女性の意識調査である。このような調査結果をあまり見たことがなかったので、新鮮だった。以下、ごく一部をご紹介する。

●子どもを持たなかった理由(複数回答)。
多いほうから、「タイミングを逃した」「病気による体の事情」「育てる自信がない」「努力したが授からずあきらめた」「チャンスがなかった」。最も少なかった回答は「最初から子どもは持たないと決めていた」。

●子どもがいないことで感じたことがあるもの(複数回答)。
多いほうから、「子どもがいる友人との距離感」「親に孫を見せられない申し訳なさ」「子どもがいる人と話が合わない」「産んだほうがいいという社会的プレッシャー」「子育て経験がないための大人としての未熟さ」。

●子供がいる人から言われて傷ついた言葉
「産んでいない人にはわからない」「子どもは産んだほうがいい」「子どもがいないと自由でいいよね」「子どもがいなくてかわいそう」

第4章は、専門家からの見解の紹介。脳科学、不妊、母性、心理学、社会学の5つの分野の専門家が、それぞれの立場から、子どもがいない女性に関する見解を述べている。

このうち、脳科学者の黒川伊保子氏の見解に注目した。彼女は、男性脳と女性脳の違いについて興味深い著書を出していて、私も何冊か読んだことがある(いつか記事にしてみたい。)。その彼女が、子どもを産んだ女性の脳と、子どもを産んでいない女性の脳には違いがあるというのだ。以下、特に印象に残った箇所を書き留める。

子どもを持った女性の脳は、自分が大切なものを強くデフォルメして、そうではないものを矮小化する。つまり偏りが生じ、客観性が薄れ、ものを公平に見ることができない、言わばアンフェアな脳。幼な子の母親は、一時期「自分の子どもが、この世のすべて」と思わないと、子育てなんてとうていできないから。また、母性を自分の子供以外にはあまり使えない。

子どもを産まない女性は、組織全体のバランスを見ながら、人を見守り育てることやプロジェクトを育んでいくことを安定してできる。社会や周囲に対して、公平にまんべんなく母性を使うことができる。

組織には「産んだ脳」と「産んでいない脳」の両方ともあるべき。どちらがいいとかではなく、二つの脳は、発想の仕方、人に対しての目線が異なる。

男女の脳と同様に、「子どもを産んだ女性」と「産んでいない女性」では脳が違う。育児中は別の生き物になっている。話が合わないのは当然。男性は子どもを持っても脳が変化しない。

子どもを産まずに成熟した女性脳の資質を、アガサ・クリスティの「ミス・マープル」(※注:未婚の老婦人探偵)に見る。公平で冷静で、慈愛に満ちた慧眼の持ち主。独特の魅力で周囲の人々に慕われる。

子どもがいる女性の脳は、産んだことを境に位相が変化する。対して、子どもがいない女性は、母性をあまねく社会に照射できる脳として成熟していく。産まない人生に誇りを持ってほしい。

最後に、第5章は、子どもがいない女性の人生を好転させるための著者からのアドバイス。この本の肝とも言える部分だ。ここは、著者からの温かく力強いメッセージを直接に感じ取っていただきたいし、アドバイスの内容によっては、それぞれの立場で、刺さるところ、刺さらないところが大きく違ってくると思う。従って、ここでのまとめは控えたい。ぜひ、本書を読んでみてください。

『誰も教えてくれなかった 子どものいない女性の生き方』

第1章「子どものいない女性にある心のくぼみ」では、前著に掲載した意識調査の結果から、子どものいない女性の置かれた状況について考察を展開している。以下、なるほどと思ったポイントを書き留める。

結婚して子どもを持つのが普通だと言われ続けてきた昭和生まれの世代は、ずっとそのジレンマと闘いながら生きてきた。長年信じてきた価値観と現実のずれを調整するのは難しい。

少子化が進み、女性たちは罪悪感を背負わされた。

子どもがいないことの責任は女性に押し付けられる。子どもは女性だけでは生まれてこないのに、子どもがいないことで精神的な圧力がかかりやすいのは女性側。

子どものいる家族像を押し付ける同調圧力がある。世の中にはまだ、女性は結婚したら子どもを持つのが普通といった考え方がはびこっていて、子どもがいないだけで批判を受けたり、色眼鏡で見られたりする。

子どものいない女性たちが本音で話せる場がない。

子どものいない人生を歩むにあたって参考になるロールモデルが身近にいない。

第2章「生き方多様化第一世代」では、男女雇用機会均等法施行後に社会に出た、現在40代半ばから50代半ばのアラフィフ世代(私もどんぴしゃである)について述べている。

この世代は、女性が働くことの制度がきちんと整っていないまま社会に飛び込み、常に変化の渦中に置かれながらここまできた。社会が転換しようと動き出したが、現実は簡単に変わらなかった。世の中の価値観より私たちの生き方が先に代わり、そこにゆがみが生じてしまったから生きづらさを感じる。

さまざまな価値観が入りまじる現代。多様な人が一緒に生きる社会を実現するためには、お互いの生き方を否定するのではなく、尊重して受け入れる寛容さが大切。まずは自分の生き方を尊重すること。

この章では、そのほかにも、子どもを持たなかった多様な理由や、自分の中にある「アンコンシャス・バイアス」に気づくことや、自分の中にあるダークサイドを消すこと、異なる事情の女性同士で交流することなどのアドバイスがある。

第3章では、「子どものいない人生を受け入れるプロセス」として、子どものいない人生を受け入れる過程で経る5つの心情期について紹介するとともに、そのような過程を経た7人の人生の歩みを紹介している。

第4章「子どものいない人への社会の遷移」。著者は、令和から、価値観の幅が広がり、多様な生き方が受容されていくと予測する。また、昨今、筆者自身による発信を含め、子どもを持たない生き方にスポットが当たり始めているという。企業の取り組みや行政の動きに注目するとともに、養子縁組の選択肢が普及してほしいとも述べる。

第5章は、「子どものいない人生を豊かにする9つの考え方」。文字どおり、9つの視点から、子どもがない人生を豊かにするためのアドバイスを述べる。前著のアドバイスと併せて読むと、一層、考え方の幅が広がり、自分らしい人生を考えるヒントをもらえると思う。

感想

まず、よくぞこのテーマに取り組んでいただいた、と思った。

著者が『…人生の歩き方』の前書きで書いている。「子どもがいないことは、センシティブな問題であり、タブー視されていた。それゆえ、子どものいない人生がどういうものなのか、見えにくくなっていた。」 これには全く同感だ。

この点にスポットを当て、関係するデータや情報とともに、当事者の方々の生の声を、これでもかというほど紹介してくれる。さらに、著者から、同じ立場にある当事者を優しく勇気づけるメッセージのシャワーを浴びることができる。

今まで、子どもがいないことにより、生きづらを感じてきた当事者の女性たちにとって、救いとなる本だと思う。こういう本を世に出してくださった、著者のくどうさんに感謝したい。

ところで、上記で紹介した、黒川氏のコメントにおける「産んだ脳=アンフェアな脳、産んでいない脳=公平な脳」という図式には、少々驚いたし、違和感を抱いた。私の周りには、子どもを産んだ女性でも、とても公平な人もいるし、産んでいない女性でも、とても不公平な人もいて、この図式から外れる女性の具体例を何人も知っているからだ。

ただ、「母性をあまねく社会に照射できる脳」というフレーズには、もしかすると当たっているかも、と思うところもあった。

私は、管理職になり、部下を持つようになってから、色々なタイプの方々をまとめていかなければならなくなった。必ずしも、一緒に気持ちよく働ける人ばかりではなく、いつも憎まれ口をきく人とか、全くやる気のない人とかもいて、腹が立ったり、悩んだりすることが多々あった。

でも、そのうち、この人たちも、むかしは子どもで、この人たちを愛している親や家族に大切に育てられてきたんだ、と思うと、一人一人が大切に思え、その人たちが仕事人生を楽しめるよう、できるだけのことをしてあげたい、と思うようになった。

これって、もしかしたら、私に子どもがいないために、その分、行き場のない母性を、部下のみなさんに注ごうとしているのかな? これが「産まない脳」の作用なのかな? などと、考えさせられた。

素朴な疑問

そして、この2冊を読んで、次のような疑問を持った。

この問題、男性社会ではどうなのか? 男性社会では、子どもがいないことを非難されたり、同情されるような形で、マウンティングを受けることはないのか? 子どもがいないからといって、生きづらい思いをすることはないのか? 上記の黒川先生のコメントによると、子どもを持つか持たないかで、男性の脳には変化は生じないらしいが…。

以前、『負け犬の遠吠え』という本と言葉が流行った。要は、女性は、結婚して、かつ、子どもを持たなければ負け犬だ、ということだが、男性はそういう風には言われないのか? 男性社会に身を置いたことがないのでわからないが、少なくともこちら側から見ると、苦労しているのは女性ばかり、のように見えるのだが…。

また、このような状況は、外国でも同じなのだろうか? 外資系企業に勤めていて、子どもを持たないことについてのマウンティング的発言は、日本人社員からは受けたことがあるが、外国人社員からは、記憶の限り、受けたことがない。むしろ、結婚や子どもを持つ・持たないといった話は、こちらから自己開示しない限り、詮索してこないと感じる。外国ではこのトピックはどのように扱われているのだろうか。同調圧力は日本特有のものなのか。

どなたか、もしお分かりの方がいらっしゃったら、是非教えていただきたいです。

終わりに

子どものいない女性のみなさん、子どもがいないことが理由で、つらい思いをされることがあれば、是非本書を読んでみてください。どちらか1冊をまずお読みになるなら、個人的には、出版年順に、『…人生の歩き方』からお読みになると良いと思います。

そして、男性や、お子さんをお持ちの女性にも、ぜひ、本書を読んでいただき、多様な価値観や生き方があることを感じていただけると嬉しいです。

ご参考になれば幸いです!


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