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【読書録】『読みたいことを、書けばいい。』田中泰延

元電通コピーライターの田中泰延氏による、文章術についての本、『読みたいことを、書けばいい。』

メディアでこの本が紹介されていて、面白そうだと思って手に取った。

文字がとても大きい。そのうえ、大事なところは、太字を使って強調している。だから、とても読みやすい(本記事の、これ以下の引用箇所の太字部分は、全て原文ママ)。

文章術の本なのだが、くすっと笑わせてくれるギャグのような記載や、ちょっとひねった冗談などもあり、エッセイのようなテイスト。このノリは、関西出身者のものに違いない、と思ったら、やはり、著者は、大阪生まれの人だった。

メッセージは明確だ。タイトルどおり、自分が読みたいものを書きなさい、というものだ。たとえば、noteに何か書きたいが、何を書けばよいか、とか、記事を書いてもあまり読まれない、など、書くことについて悩んでいる人にとっては救いになるだろう。

自分がおもしろくもない文章を、他人が読んでおもしろいわけがない。だから、自分が読みたいものを書く。
それが、「読者としての文章術」だ。(p6-7)
わたしが言いたいことを書いている人がいない。じゃあ、自分が書くしかない」。
読み手として読みたいものを書くというのは、ここが出発点なのだ。(p102-103)
書いた文章を読んで喜ぶのは、まず自分自身であるというのがこの本の主旨だ。満足かどうか、楽しいかどうかは自分が決めればいい。しかし、評価は他人が決める。他人がどう思うかは、あなたが決められることではない。(p114)
(...)評価の奴隷になった時点で、書くことがいやになってしまう。
他人の人生を生きてはいけない。書くのは自分だ。だれも代わりに書いてくれない。あなたはあなたの人生を生きる。その方法のひとつが、「書く」ということなのだ。(p115)

しかし、著者は、単にひとりよがりで、自分の内面を語るだけでは、面白くないという。「寒い寒い」と触れ回る男や、「ブロッコリーが嫌い」と告白する女を例に出して、「つまらない人間」と、一刀両断にする。

つまらない人間とは何か。それは自分の内面を語る人である。すこしでもおもしろく感じる人というのは、その人の外部にあることを語っているのである。(p142)

つまらない文章にならないためには、外部のファクトを調べることが重要になるという。そして、既に過去に書かれていることをベースにして、その先の話をせよと説く。

書くという行為において最も重要なのはファクトである。ライターの仕事はまず「調べる」ことから始める。そして調べた9割を棄て、残った1割を書いた中の1割にやっと「筆者はこう思う」と書く。
つまり、ライターの考えなど全体の1%以下でよいし、その1%以下を伝えるためにあとの99%が要る。「物書きは調べることが9割9分5厘6毛」なのである。(p147-148)
調べたことを並べれば、読む人が主役になれる。(p148)
巨人の肩に乗る」という言葉がある。12世紀のフランスの哲学者、ベルナールの言葉だ。歴史の中で人類がやってきたことの積み重ねが巨人みたいなことだから、我々はその肩の上に載って物事を見渡さない限り、進歩は望めない、という意味だ。(p176-177)

そして、書く対象に「感動し」「愛する」ことがコツなのだ。

わたしが愛した部分を、全力で伝える」という気持ちで書く必要があるのだ。愛するポイントさえ見つけられれば、お題は映画でも牛乳でもチクワでも良く、それをそのまま伝えれば記事になる。(p183)
それでも愛が生じなかったら、最後のチャンスとして、どこがどうつまらなかったか、なにがわからなかったか、なぜおもしろくなかったかを書くしかない。
「つまらない」「わからない」ことも感動のひとつで、深堀りしていくと見えてくる世界があり、正しい意味で文章を「批評」として機能させることができるはずだ。(p184)

そして、最後には、「書くことは生き方の問題である」とまとめる。

書くことは、孤独と向き合うための手段であり、生きるうえでの幸せ、だという。書くことを職業としてきた著者ならではの、深いコメントだ。

このくだりでは、それまで炸裂していた彼一流のギャグは一切登場せず、おちゃらけた全体のトーンとのギャップに、グッと引き込まれた。

人間はだれしも孤独だ。書くことは孤独と向き合うための「手なぐさみ」なのかもしれない。孤独の本質とは、ひとりであるということだ。なぜひとりで生まれ、なぜひとりで死ななくてはならないか、だれも答えられない。だがその孤独の中でしか知りえないことがある。(p246)
自分が読みたくて、自分のために調べる、それを書き記すことが人生をおもしろくしてくれるし、自分の思い込みから解放してくれる。何も知らずに生まれてきた中で、わかる、学ぶということ以上の幸せなんてないと、私は思う。(p247)
自分のために書いたものが、だれかの目にふれて、その人とつながる。孤独な人生の中で、誰かとめぐりあうこと以上の奇跡なんてないとわたしは思う。(p248)

ところで、Amazonでこの本を紹介しているページの口コミを読んで、驚いた。面白くない、つまらなかった、ガッカリだったという、批判的なコメントがとても多いのだ。星5つ中、星1つ、という、辛口な評価も多い。

確かに、この本のテイストは、ふざけているとも思える表現が多く、真面目な読者が普通の本だと思って読むと、びっくりするだろう。この本には、著者がいたるところに仕込んだ冗談や、オモシロ表現が満載だ。さすが、元電通のコピーライターだけあって、発想が面白い。私は、幸い、その独特のノリを素直に楽しむことができた。しかし、著者のおちゃらけ的なノリについていけない読者だと、アレルギー反応が出てしまうかもしれない。

(ちなみに、地方出身の私には、大学入学時に、初めてコテコテの関西人に会い、関西のノリに触れたとき、うわっ、ついていけない…、と、ドン引きし、冷めた目で見てしまった経験がある。だから、その辛口コメントの感覚は、何となく分かる。でも、その後、その関西のノリが、少しずつ心地よくなっていったのだが…)

しかし、それも、著者が、他者の評価を気にせず、忖度することなく、堂々と自分の読みたいものを書いた結果なのだ。万人受けする必要はなくて、自分が楽しめれば、それでよいのだ。読みたいことを書く、ということを、実例をもって示した、ひとつのお手本として読めばよいと思う。

ご参考になれば幸いです!


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