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【読書録】『のぼうの城』和田竜

戦国時代に小田原城の支城であった「忍(おし)城」(埼玉県行田市)が舞台の、和田竜氏の歴史小説、『のぼうの城』

10年以上前の作品で、直木賞にノミネートされ、本屋大賞第2位も受賞。漫画にもなり、2012年には野村萬斎主演の映画にもなった、大ベストセラーだ。

豊臣秀吉の小田原征伐の際、石田三成が総大将として、武州・成田氏の忍城の攻略を命じられた。三成は忍城を水攻めにしたが、忍城は落城せず、結局は小田原城が先に落城したことによる開城となった。

この史実をもとにして、忍城に立てこもる成田勢が、豊臣勢と比べて数で圧倒的少数で不利であるにもかかわらず、田んぼの地形や巧みな戦術で見事に応戦し、豊臣勢を苦戦させた様子を、痛快なエンターテインメント風に描いた作品だ。文章も現代風でとても読みやすいので、気晴らしの娯楽として楽しめる。

(以下、ネタバレあり。)

成田側の総大将である成田長親(なりた・ながちか)の人物像が、この作品の一番のみどころだ。領民からは、「でくのぼう」を縮めた「のぼう様」と、ニックネームで呼ばれていた。武術も苦手、領民の農作業を手伝っても不器用でかえって迷惑がられる。誰からも、うつけ者だと思われていた。

しかし、彼を支える家臣たちは名将ばかり。領民の士気も高い。石田三成の指揮する豊臣勢を派手に蹴散らす様子は、痛快きわまりない。

とはいえ、やはり、2万人の豊臣勢に対し、成田勢は500人。水攻めに一時は絶対絶命となる。しかし、この苦境において、ついに彼の本当の力量が発揮されることとなった。ここからはこの物語のクライマックスで、ページを繰る手が止まらず、一気に最後まで読んでしまう。

ところで、「のぼう様」の人柄やふるまいと、それを取り巻く家臣や領民との関係性を見ていると、会社などの組織でのあるべきリーダーシップについて考えさせられる。

一切の隙がなく、何事もすべて完璧にこなしてしまう、スーパーマンのようなリーダーも必要かもしれない。しかし、時には失敗もし、弱みも見せ、周りが放っておけず、ついつい助けてあげたくなるような、人間味のあるリーダーのいるチームのほうが、メンバーが一致団結して、より強固なチームワークが形成されるのではないか。そんなことを考えさせられた作品だった。

とても楽しい上に、学びも得られる素敵な小説です。よろしければぜひご一読を!

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