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[小児科医ママが解説] おうちで健診:言葉の遅れに、言葉”以外の”遊びが大切なワケ。ご自宅でできること。受診の目安。

「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。


言葉シリーズとしては、今回がラスト。

今までは、言葉の典型的な発達や・言葉の発達が遅れる原因、また、「様子を見て」と言っている小児科医が実は頭の中で考えていることなどを、書いてきました。


今回は、言葉の発達という視点からみたときに、ご自宅でお子さんと関わるときのポイント・心がけ、また言葉の遅れで「受診する目安」を、まとめとして挙げてみたいと思います。


主な参考文献はこちら。

●「健診とことばの相談―1歳6か月児健診と3歳児健診を中心に」
(中川信子、ぶどう社、1998年)


言葉のトレーニング・訓練。ではなく。
「伝えるって楽しい!」と思える、からだ遊びを。


うーん。
たしかに周りが喋っていることは理解できていそうだし、そこまで心配なわけじゃないんだけど・・・なんか家でできることないかなぁ。

とモヤモヤしている親御さんのご相談もよくいただきます。

ありがち、というか、どうしてもやってしまいがちなのが・・・

親「これ、りんご!りんご!ね、りんご!ほら言ってみて、り・ん・ご!!」とりんごを指差しながら、とにかく「りんご」連呼。

子「・・・」

みたいな状況です。

「りんご」というワードを使って誰かに何かを伝えたい!とお子さんが思わない限り、つまり、お子さんが「りんご」という単語を覚えるのに必要性を感じない限り、いくら親御さんが何度伝えたところで「りんご」という言葉は覚えられないでしょう。


私たち大人もそうですよね。

はい、じゃあ今日から毎日ベトナム語3時間勉強してください!って言われても、別にベトナムで暮らすわけじゃないし、日常で使う必要性がなければ、苦痛じゃない人はいないはずです。

逆に、家族の転勤で来月からベトナムに行くことになった、とか、一世一代のチャンスの仕事でベトナム語が必須、といった場合は、がぜん、ベトナム語を勉強するモチベーションが上がると思います(というか上げざるをえないというか)。


お子さんの場合は、言葉を話す必然性にくわえて、そもそも「誰かに何かを伝えるって、楽しい!」という気持ちがなければ、お子さんが自発的に喃語や言葉を発することは考えにくいでしょう。

なにかの言葉を覚えさせる・トレーニングする、という視点ではなく、「伝えるって楽しいよね」という気持ちを一緒にはぐくんでいく、そんなニュアンスです。



ただ、子どもの音をマネるだけでもOK!
「子どもの発した音に、何らかの反応をする」のがポイント。


じゃ、何をすればいいのよ、と。
まずは「声かけ」でできる工夫がいくつかあります。

【言葉の発達からみた「声かけ」の工夫】

ゆっくり、はっきり話す。

●お子さんが体を動かすリズムにあわせて、動きに音をつける。
例)「(階段をあがりながら)よいしょ、トン・トン」

日常の挨拶に、イントネーションをつけてみる。
例)「オーハーヨッ」

●視覚や触覚と一緒に、声をかける。
例)「(肩をたたいて、空を指さしながら)お空にヘリコプターが飛んでるね」

お子さんの気持ちを代弁してみる(親御さんの想像でOK)。
例)「(帰ろうとしたらぐずった時に)まだ遊びたいよねぇ」

●お子さんが発した音を、ただマネする。
例)「(ダダダババ、と言ったら)そうだね、ダダダババ、だね」


たぶん、無意識にしている親御さんもいらっしゃると思います。
その場合は、今まで通り、続けていただければそれでいいんです。

「何かを教える・親から伝える」というよりは、「お子さんの行動に、親御さんも音や行動で反応する」ので十二分なんです。


外で「よいしょ、トン・トン」とか子どもに言うのは、どうも恥ずかしい。
「オーハヨッ♪」とか楽しそうに言う元気、残ってない。

そんな場合は、ただ「子どもの音のマネをする」だけでも十分でしょう、と私は思います。

とにかくお子さんが何か音を発した、というときに、何かしらの反応をしてあげられるのがベストです。



言葉の発達に欠かせない「からだ遊び」の大切さ。


もう一点、声かけ以上に大事かなと思うのは「からだを使って遊ぶこと」

は?

と思うかもしれませんが、何かを伝えたい!という気持ちを育むのに、必要不可欠なのが「からだ遊び」です。


「何かを伝えたい!」という気持ちは大事です。
さらに突っ込むと、「伝えたい!」と思える体験や出来事がないと、そもそもそういう気持ちも生まれないわけです。

赤ちゃんや子どもは、聴覚よりも「触覚」が発達して生まれてくるとも言われています。「皮膚は第二の脳」という専門家もよくいますね。

どんな感覚でもいいのですが、言葉に関連する聴覚だけではなく、五感から刺激が入力されるような、からだ遊びが大切になってきます。


冒頭の参考文献にあげた中川信子さんの本は、1990年代と発行は古いものの、本質的なメッセージは2020年になった現在でも十二分に通じます。

からだの脳・こころの脳
「健診とことばの相談―1歳6か月児健診と3歳児健診を中心に」(中川信子、ぶどう社、1998年)

まず①五感を使ってからだから感じる。

それを②こころで感じる、つまり誰かに伝えたい!伝えるって面白い!という気持ちが芽生える。

その最後のステップとして③「言葉」があると。

別に、医学的な数値やエビデンスを示している図ではないですが、子どもの発達や、「ことば」というものをどうとらえるか、という点で非常にわかりやすい図だと思います。

この書籍には(言葉の発達というポイントから見ると)「具体的にどんな遊びをすればいいか?」というのも書いてくださっています。
下記に抜粋して紹介いたします。

言葉の遅れ自宅で出来ること1
「健診とことばの相談―1歳6か月児健診と3歳児健診を中心に」(中川信子、ぶどう社、1998年)
言葉の遅れ自宅で出来ること2
「健診とことばの相談―1歳6か月児健診と3歳児健診を中心に」(中川信子、ぶどう社、1998年)
言葉の遅れ自宅で出来ること3
「健診とことばの相談―1歳6か月児健診と3歳児健診を中心に」(中川信子、ぶどう社、1998年)
言葉の遅れ自宅で出来ること4
「健診とことばの相談―1歳6か月児健診と3歳児健診を中心に」(中川信子、ぶどう社、1998年)


さきほどの声かけと同じく、ん?まぁ普段こんな遊びしてるよ。と思う親御さんもいらっしゃると思います。その場合は、ぜひそのまま続けてあげてください。

それだけで十分、もう「からだの脳」「こころの脳」を刺激してあげられています。

結果としてことばがいつ出るかは神のみぞ知る、というところですが、土台を作ってあげられていることが、何より大切です。


うーん、ちょっと子どもに付き合うの疲れちゃって、正直毎日テレビ何時間も見せてるし、外にも出してないなぁ・・・という場合は、親御さんの無理ない範囲で、週に1回とかでもいいので「今日は『からだの脳』を鍛える日!」と決めて、なるべく体を動かす時間を作ってあげれば良いでしょう。

外に無理やり連れ出したところで、家の中が好き!というお子さんもいますし、ご妊娠中や体調やすぐれない親御さんもいらっしゃるでしょう。
決して親御さんが無理をしすぎないことです。




「言葉の遅れ」で受診をする目安。


さて3回にわたって見てきた「言葉の遅れ」。
まとめもかねて、言葉の遅れで受診を考える目安を、ご紹介しておきます。

【「言葉の遅れ」で受診を考える目安】

<年齢ごとの指標>
●1歳:喃語が全く出ない。指さし・バイバイなどの動作がない。
●1歳4ヶ月:一語文が出ない。
●2歳:二語文が出ない。
→ まずは1歳半健診で、診察や相談を。
→ 「様子を見て」と言われた場合も、2歳で再度、相談できるとベター

<どんな年齢にも当てはまる考え方>
●(どんな年齢でも)周りの言っている意味は、分かっていそう。ジェスチャーなしでも、周囲の人と、意思疎通とれる場面がある。
→ 多くは2~3歳になると言葉が増えてくる(表出性・発達性言語障害)。とくに訓練や治療は必要ないが、集団生活で促されることはよくある。
→ 緊急の受診や相談の必要はない。が、上記<年齢ごとの指標>に当てはまる場合は、今後、数ヶ月~年単位で定期的に相談できる場所があると良い

●(どんな年齢でも)意思疎通が全くとれない。音への反応がにぶい
→ 難聴のスクリーニング、また全体的な発達の評価のため、医療機関を受診できるとベター

●(どんな年齢でも)前までできていたことが、できなくなった。
例)前はできていたお座りが、姿勢がグニャグニャしてできなくなった。前は反応していた呼びかけに、反応しなくなった。
→ 発達退向の状態。難聴や発達の評価のため、医療機関を受診できるとベター。


上記に当てはまるからといって、必ずしも聴力や発達に異常があり、今後一生に影響する!というわけではありません。
言葉の発達は、本当に個人差が大きいんでしたよね。


ただしお子さんの発達を、数ヶ月~年単位で定期的に見てくれるかかりつけを持つことで、必要な検査をのがさないこと。また、親御さんのお悩みを吐き出す窓口があることにつながります。

受診せずモンモンとするようりも、そのほうが親子ともどもベターだよ。だから一度相談してみてね、というスタンスです。


なお受診した結果、とくに大きな・緊急性のある病気や異常はないけれども、言葉の療育(スピーチセラピーなど)を勧められることもあるかもしれません。

色んな方法がありますが、「各専門家が、お子さんの発達段階にあった、関わり方をしてあげることで、『お子さんが知る・伝える喜び、そして話せる喜びがより実感できる』ためのもの」という目的は共通しています。


親御さんも納得して、また物理的にも無理なく通える・続けられそうならば、ぜひ取り組まれると良いでしょう。
親御さんとしても「(療育の先生たちを見て)私たちも、こうやって話しかけたり・遊んだりするといいのかな、っていうお手本になっています」というお声をよく聞きます。


3回にわたって、言葉の発達について見てきました。

個人差が大きいからこそ、つい周りのお子さんや、色んな意見を聞いて、不安になってしまうものです。

不安になることがわるいことではなく、不安だからこそ・もう少しくわしく知ることで、モヤモヤとうまく付き合っていくお助けになれば幸いです。

(この記事は、2023年1月28日に改訂しました。)

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