見出し画像

[小児科医ママが解説] おうちで健診:指しゃぶりはいつまでOK?やめたほうがいい?

「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。

今回は「指しゃぶり」についてです。

「指しゃぶり、いつまでしていてOKなの?」「なんで指しゃぶりはやめたほうがいいの?」そんなことを、今回の記事でみていきます。

※指しゃぶりが続く原因や、やめる方法、受診の目安については、次回の記事でご紹介します。

主な参考文献はこちら。

UpToDate
“Oral habits and orofacial development in children”

小児科と小児歯科の保健検討委員会「指しゃぶりの考え方」
吸指癖防止薬の臨床的効果について


指しゃぶりは、赤ちゃんの成長における、大事な過程。


赤ちゃんは産まれる前から、指しゃぶりをしています。

赤ちゃんがお腹にやどって14週目(妊娠4ヶ月くらい、やっとつわりが少し軽くなってきたという方もでてくる頃ですよね)には、口に手を持っていく赤ちゃんの様子が観察できます。

24週目(妊娠7ヶ月のはじまり)くらいには、指を吸う仕草もしています。

産まれた後、新生児(~1ヶ月)のころはそこまで目立ちませんが、生後2~4ヶ月になると、口のそばにきた指や物を、とにかく吸いたがる傾向がでてきます。自分の手をよーく見るのもこの頃ですよね。

手や指をしゃぶることは、赤ちゃん自身が自分の体を認識したり、また周囲の世界を認識したりするために必要な段階だと言われています。

その後、つかまり立ちや伝い歩きなどが始まると、指しゃぶりをしているとこうした動きができないので、指しゃぶりは少しずつ減少していきます。
でもまだ眠いときなどは、一生懸命指をしゃぶっている赤ちゃんも少なくありません。

口の近くにきたもの・周りにあるものをどんどん口に入れていく。
もちろん、お母さんのおっぱいや、哺乳瓶を吸うという「栄養学的」な面で、しゃぶる・吸うという行為は大事なのは間違いありません。

が、赤ちゃんが周囲の世界を学んでいく一つのツールとしても、指しゃぶりは大事な行為なんですね。



1歳代から徐々に減るが、3歳になっても20%は指しゃぶりする。


では、1歳を超えてきた頃に、実際にどれくらいのお子さんが指しゃぶりをしているのか。日本のデータを見てみましょう。

【1歳を超えて、指しゃぶりをしているお子さんの割合】

●1歳2ヶ月 28.5%
●1歳6ヶ月 28.9%
●2歳0ヶ月 21.6%
●3歳0ヶ月 20.9%
●3歳時健診にきたお子さん全体 12.9~19.4%(地域差などあり)

小児科と小児歯科の保健検討委員会「指しゃぶりの考え方」


どうでしょう。

1歳代から減ってくるとはいえ、まだ3歳になっても20%ちかく・5人に1人のお子さんは、指しゃぶりをしています。

総括的な数字なので、寝る前だけ指しゃぶり、というお子さんもいれば、日中結構ずっとしゃぶっている、みたいなお子さんもいて、程度はバラバラです。

いずれにせよ、結構いるな~という印象だと思います。

また他の研究などでも共通しているのは、4歳以降になると、さらに指しゃぶりをするお子さんの割合は減少します。

3歳6ヶ月までに80%のお子さんで指しゃぶりが消失する・平均3.8歳で指しゃぶりをしなくなる、といったデータが報告されています。
(参考:吸指癖防止薬の臨床的効果について


3~4歳までは、指しゃぶりしてOK。


お子さんが大きくなってくると、周りの目もあるし、クセになったら・・・という心配から、「うーん、そろそろ指しゃぶりやめさせたほうがいいのかな・・・」と気になるものです。

結論から言えば

3~4歳になって自然にやめられるなら、それでOK。

3〜4歳でも、指しゃぶりが全然減らない・クセが強くなる場合は、何らかの対応をしたほうが良いかも。

ということです。

○歳までOK・○歳こえたら絶対ダメ!という厳密な区切りはありません。
小児科医、(小児)歯科医、臨床心理士・・・などなど、指しゃぶりが長引いた時に治療にかかわる専門家の間でも、かなり実は意見がばらつくところです。

たとえば、日本小児歯科学会は「3歳までは、指しゃぶりしてもOK。4歳すぎても、頻繁に指しゃぶりが続くようなら、何らかの対応を」というスタンスです。

また4歳以下であっても、指しゃぶりが習慣化しそうなお子さんには、早めに何らかの指導をしたほうがいいのでは?というのが、歯科全体の見解です。


世界各国の論文などを集めて、最新の医学的な見解をまとめてくれているUpToDateというオンライン文献でも「3歳までには指しゃぶりをやめよう」としています。


一方で、米国小児科学会のBright Futuresがもとになっている「正常ですで終わらせない! 子どものヘルス・スーパービジョン」(阪下和美、東京医学社、2017年)では「4歳までは問題なし」ともう少しゆるい見解です。

一般的な小児科医の間でも、概して「4~5歳をすぎたも、指しゃぶりをしていたら、何か指導した方がよいだろう」という意見が多いとされています。
歯科の先生などと比べると、ややゆるーく指しゃぶりを許容する傾向にありますね。


これらを総合すると、まぁ3~4歳の間に徐々にやめていければOKなんじゃない?というところです。

先ほど書いたように、3歳までは20%近くのお子さんが指しゃぶりをしていて、でも4歳になるまでにさらに減少してくるんでしたね。
3歳こえたら、即、指しゃぶりの治療!やめさせなきゃ!と不必要に焦る必要はないです。


むしろ「3歳くらいまで・つまり指しゃぶりをしていて良い時期においては、指しゃぶりを制限しないほうが逆にいいのではないか?」という考え方もあります。

これについては、次回の記事「指しゃぶりの原因」のところでも触れますね。


指しゃぶりをやめたほうがいい理由 
①歯並び・口呼吸・舌足らず(発音)
②指の炎症


では、3~4歳になる頃には、どうして指しゃぶりをやめたほうがいいのか。
理由を大きくわけると、上記の2つになります。

それぞれ少しくわしく見てみましょう。


①歯並び・口呼吸・舌足らず(発音)


指しゃぶりで、ずっと口の中に指が入っていることで、歯茎や歯を物理的に圧迫してしまうなどして、歯並びに影響が出ることが分かっています。

指しゃぶりによる歯並びの影響
小児科と小児歯科の保健検討委員会「指しゃぶりの考え方」

写真1:「上顎前突」上の前歯が前方にでる。
写真2:「開咬」上下の前歯の間に隙間があく。
写真3,4:「片側性交叉咬合」上下の奥歯が横にずれてしまい、上下で歯の中心がズレる。

一日の間でどれくらい指しゃぶりをしていたら、どこまで歯並びに影響があるのかという詳しい%については、信頼できる大きなデータがありません。

が、先ほど書いた3~4歳をこえても、頻繁に指しゃぶりをしている場合は、こうした歯並びの影響を考えることが大事という見解です。

また、指しゃぶりをずっとしていることで、口呼吸のクセがつくのも一つの合併症です。

口呼吸の何が悪いの?というのは、ハッキリ医学的なエビデンスが証明されたわけではないのですが、顔面が長細くなってしまう場合もあるので、あまりよろしくないだろうということです。
(①Eur J Orthod. 1995;17(6):491. , ②Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 1991;22(2):125. など)

また顎や舌にも影響が出るため、舌足らずになるリスクも報告されています(サ・タ・ナ・ラ行がうまく発音できない構音障害)

指しゃぶりをしていたから、全員が必ずこうなります、というわけではないのですが、3~4歳をこえてもやめさせないリスクは、こういう点にあるわけです。



②指の炎症

これはとくに3~4歳にならなくても、小さな赤ちゃんでも、ずっと指しゃぶりするクセがあると、指の炎症を起こしてしまうリスクがあります(医学的には、ひょう疽や蜂窩織炎などという状態です)。

指に限らず、皮膚の上には常在菌がいます。
普段は悪さをしませんが、ずーっとしゃぶってふやけたり、歯で傷ついたりした皮膚は、バリアが弱くなりがちです。

そこから常在菌が、皮膚の下に入り込んでしまうと、感染を起こしてしまうリスクがあります。

お子さんの全身の状態が良ければ、塗るお薬だけで対応できることもありますが、ひどくなると、飲むお薬や、点滴での抗生剤が必要になることもあります。

3~4歳になって皮膚もバリアが強くなると、ちょっと指しゃぶりしたくらいで、こうした感染を頻繁に起こすことは普通はありません。

が、皮膚がちょっと弱め・強い力で指しゃぶりをする・歯で皮膚をよく傷つけてしまうという場合は、とくに注意してあげたい合併症です。


いかがでしょうか。

3歳頃では、まだ20%くらいのお子さんが、指しゃぶりをしている・していてOK。

●歯並びや発音のことを考えると、3~4歳にかけて徐々にやめられたらベスト。自然にやめるようになるのも、このお年頃。


そんなポイントが伝われば幸いです。

次回は指しゃぶりが長くつづく原因。指しゃぶりをやめる方法。また受診の目安があるか。そんな事を見ていきます。

(この記事は、2023年2月2日に改訂しました。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?