見出し画像

なぜ「さやか星小学校」をつくろうと思ったのか<前編>

私は“流し”の臨床家、研究者


はじめまして。
2024年、長野県に「さやか星小学校」の設立を目指している学校法人西軽井沢学園の理事長・設立者の奥田健次と申します。

「さやか星小学校」は日本初、デジタルテクノロジーと行動分析学をかけあわせたインクルーシブな先進教育を行う小学校です。

本校は、今までの「教育のあたりまえ」をすべて疑い、子どもたちの未来のためになにをしたらいいのかを追求した新しい小学校です。

詳しくは、本校HP(https://www.sayakaboshi.jp/)をご覧ください。

さて、このnoteでは、さやか星小学校についてもっと詳しく掘り下げるために、私がどうして今回このような小学校を設立しようと思ったのか。その経緯や、私の教育に対する想いをお話しさせていただきたく筆を取りました。

まずは、私自身のお話をさせてください。


私は、“流し”で臨床、やっています。

“流し”というのは、例えばギターなどの楽器を持って、どこへでも出向いて演奏するような、いわばフリーの立場の実力者。

他には、板前さんとか大工さんとか、はたまた医師もあるかもしれません。
職人肌、職人気質が高くて、組織に所属していられない人たちなのかもしれません。

10年前に常勤で働いていた大学教員を退職しました。
そもそも、大学院生の頃に「(臨床)研究の道を目指す」と決めていたのですが、同時に師匠に「大学などに就職ができなくても研究はやりますし、できます」と宣言していました。

たまたま思ったよりも早く20代で大学教員になったものの、その院生時代の宣言は忘れてはいませんでした。

仕事は主に、臨床活動とそれらに関する支援方法の研究です。臨床活動には、発達につまずきのある子どもや、不登校に関する相談も多かったです。

「不登校の仕事をやりたかった」というわけではありません。発達につまずきがある、学習につまずきがある子どもの支援をしていると、自然に不登校のケースに出会うようになりました。

そして、不登校の相談を引き受けていると、かなり多くの割合で虐待、特にネグレクトや育児放棄にあたるケースとの出会いが起こります。

そうすると、児童相談所との連携が必要となるのですが、児童相談所はネグレクトや育児放棄について「後回し」にする場合がほとんどでした。
今でもその傾向は変わりません。

まるで、身体的虐待が起こって分かりやすい証拠が出てくるのを待っているか、親子関係で殺傷事件が起こるのを待っているかのようにすら思えます。

今度は、虐待の問題とそれを見殺しにする行政機関の姿を山ほど見ると、私は「子育て」をなんとかしないといけない、なんとかならないかと、自然に思うように至りました。

こうなりますと、発達障害の支援という、なんとなく限定されたような話ではなくなります。「すべての子ども」「すべての親子関係」が、私の支援対象となったわけです。

不登校、いじめ、虐待の問題が抱えるジレンマ


不登校や虐待の問題については、状況によっては保護者と対峙しなければならない状況が生じます。

私の見る限り、スクールカウンセラーの多くはそれを避けているように思えてなりません。

保護者に厳しめのことを伝えて逆上でもされたら、学校や教育委員会に苦情を言われてしまう。したがって、結局は「励ますだけの人」に収まってしまうのではないでしょうか。

学校不適応や不登校の問題を扱っていると、今度は自然と「いじめ」の問題にも出会うものです。

これについては、今度は保護者だけでなく学校側や教育委員会と対峙しなければならないわけです。

学校や教育委員会は、基本的に問題を矮小化しようとします。

あるいは、「それはいじめではない」とすることで、学校側が「何もしていなかった」との批判や責任を逃れようとします。これは本当に恐ろしいことです。

「わが町には痴漢ゼロ、暴力ゼロです」と自慢する警察がいるとします。

しかし、もし「それは痴漢ではありません、あなたの同意のようなものがあったのですから」とか、「確かに叩かれたのかもしれませんが、指導の一環だったとも言えます」とか言って、その警察が事件として扱わない場合、事件件数としてゼロとなります。

それで「治安の良い町」と言われても納得いきません。

学校や教育委員会側に雇われているスクールカウンセラーは、ここで学校側の問題を鋭く指摘し続けると、翌年以降、仕事を失ってしまうでしょうから、自分の職をかけて立ち上がるスクールカウンセラーはほとんど不在です。

(さらに詳しく知りたい方は、拙監訳書『いじめ防止の3R:すべての子どもへのいじめの予防と対処』(学苑社)の、監訳者あとがきをお読みください。)

その中で、「学校や教育委員会のいじめ隠しと闘ったために、雇用を更新してもらえなかった支援者は私に連絡を」と呼びかけたが、今のところそのような人は一人もいません。

このように、問題と向き合えば向き合うほど、解決したいと思えば思うほど、自分の仕事を失うかもしれないという不安から、本当の解決を目指す「嫌われる勇気」「職を失う勇気」を持つ専門家が減っていくというジレンマが、教育の業界にはあるわけです。


ないならば、自分で作ってしまおう。最小の幼稚園を設立。


そんなジレンマをたくさん目の当たりにしてきたなかで、子どものためになる真の教育を、どうやったら実現できるのか。

一人でこうした問題に向き合ってきた中で、ふつふつと湧き上がってくるものがありました。

「誰にも忖度することなく、真の理想の教育を行う学校を、自分で作ってしまおう。」

これはもう奇跡としかいいようのないことですが、数年前に自分が購入していた中古の別荘の真ん前に5,000坪の広大な土地の購入を勧められました。

子どもの頃から馴染みのある軽井沢周辺で、どうせやるなら、もう誰にも邪魔されるものはないので、自分の教育の理想を追求することを優先しようと決意しました。
 
資産家でもない私が現実的にできそうなこと。

それは、「長野県でいちばん小さな幼稚園」なら、なんとか新築できそうだということでした。
 
ところが、それでもゼロから何かを生み出すことは、本当に骨の折れる仕事でした。株式会社ならすぐに出来たのですが、学校法人のような公的機関を設立するのは並大抵なことではありません。明治に入ってすぐの「学校を必要としている時代」であれば、むしろ社会的要請があるわけで、それほど難しくはないとすら思えてしまいます。
 
今日この少子化の時代に、しかも学校があちこちにある時代に学校を立ち上げることは、相当なる逆風があったことは言うまでもありません。幼稚園の設置認可と学校法人の認可を受けるまでに、数年かかってしまいました。
 
ようやく、長野県に幼稚園と学校法人の認可を受けることができ、2018年4月、サムエル幼稚園を開園することができました。

自分が借金をして購入した土地も建物も、すべて学校法人に寄付しました。
そして、創立者・理事長として運営をしていますが、私は学校法人からも幼稚園からも給与も謝金も一切、受け取っていません。

この幼稚園は、まず理想追求のために設立したものですから、それで良いのです。私は変わらず“流し”の臨床家として生計を立てることができていますので。


次回は、サムエル幼稚園を運営して得た学びや気づき、そして今回の「さやか星小学校」設立までのお話をします。

2022年10月2日(日) 12:00~13:55
BSフジ<サンデードキュメンタリー>『密着2000日 自閉症児に輝ける人生を 闘う!出張カウンセラー』 出演します。