足が速くなってはいけない仕事。
夜の東京を走る。丁寧に整備された陸上トラックでは、同じタイミングで、同じ場所で、走るという同じ目的をもって家を出た、幾重にも偶然が重なり合ったランナーたちが、だんご状になって走っている。一言も言葉を交わしたことのない同士たちと風を切りながら、私は心の中でつぶやく。
「ずるい」
いきなり何なんだ。私は口角を上げながら走るようにしている(その方が苦しくない気がするからだ)。そんな、微笑みの国タイから来たようなランナーが、心で「ずるい」と唱えていると知ったら周りのランニングメイ