オンライン授業の娘と、定年を迎えた父。
ひとことで片付けてしまえば——————ウザい。
そんな感情を持っていたし。オンライン授業で昨年2月からずっと、実家に滞在していたけど。
翌3月に退職した父と、一緒にお昼を食べたことが一度もなかった。。
「餅を食べたい。」
父がそう言っていたと、母から聞いた。
いつもは母が用意したお弁当か、コンビニか、近くの中華などで、昼食を済ませる父。
餅を食べたいとなると、母は昼間仕事でいないから、父が自分で焼かないといけない。
それは、面倒だなと思った。
代わりに焼いてあげよう、とはならないけど。
どうせ「調理器具はどこ」とか、焼き加減がどうとか、騒がしく聞いてくると思ったから。
どうせ呼ばれるだろうからと、私はその昼、キッチンの隣の居間にいることにしたのだが。
12時30分:
自分もお腹が空いたので、父の隣でお昼を作ることにした。本当はタイミングが被るの、嫌だったけど。
目玉焼きを作りながら、父を横目で見ると。
意外にもちゃんと、母に言われた通りにレンジで温めてから、フライパンに餅を並べて焼いていた。
——やるじゃん。意外となんもしなくていいかな。
と、思ったけど。餅につける「砂糖醤油」の醤油があきらか多くて、砂糖が少なかったから
「それだとめっちゃ、からいよ」
とだけ、伝えておいた。
不運にも、私がお昼の支度を終えるのと、父の餅が焼き上がったのが、同じタイミングで。
いつもは2人で卓を囲むなんて絶対ないけれど、わざわざ別室にいくのも決まりが悪いから、同じテーブルにつくことにした。
「おお、うまい。うまい。」
と、満足そうな父。
私は斜め向かいの席で、なんとなくTVの方を向いて食べながら、これまでの父との関係をぼんやりと思い返していた——。
「お父さんのこと、好き!」
そんな風に言っていたのは、はるか昔のことで。
順調に年を重ねて、多感な時期に突入した娘の私はここ数年、父親を嫌悪するようになっていた。
自分でもわからないけど。なんかやな感じがする。
嫌い、というより、苦手。
大きな声とか、大げさな身振り手振り、とか。
「俺が俺が」という話し方とか、全部イヤ。
そう思っていたし、三姉妹と母親でグルになり、父親ネタで盛り上がっていたこともあった。
けれど、大学の先生が
“おじさん、というのは寂しいものなんです。
家のためにと仕事を頑張っても、家族には煙たがられるし。頑固だから、言い返してしまうし。
認めてくれる人もいなくて、寂しい生き物なんです”
と、言っていたのを覚えていて。罪悪感をなんとなく感じていた——。
思い返せば。
部活や受験、自動車学校。いつも送り迎えしてくれたり、私よりも私のことを気にかけてくれていたのは、父だった。
今までずっと、つっけんどんな態度を取っていたのに、相変わらず(お節介だけど)声をかけてきて。
なんとなく欲しいと言った、キラヤ(スーパー)のクリームパンを探して、わざわざ別の店舗まで買いに行ってくれたり。
新しいテーブルを組み立てるのを手伝っただけで、優しい子だと母に言ってくれたり。(判定甘すぎ
考えてみたら私は、なにかを与えるどころか、マイナスですらあったのに、父からはたくさんのものを受け取っていた。
それと同じことを自分ができるかな、て考えたら、多分できないだろうな、と思った。
たぶん、忘れる。
これまでの恩をあげればキリがない。
けれどやっぱり、嫌だなと思ってしまうこともあるし。恩を綺麗に忘れて、冷たい態度を取ってしまうことも、あると思う。
けれど、『悪くないな。』と思った。
お昼を一緒に食べるのも。
これまでは私がわざとタイミングをずらしたり、わざわざ別の部屋に行って、食べたりしてたから。
まあ、一緒にいたって、大した会話もないし、TVに頼ってしまったりもするけど。
悪くないな、と。
小生意気な娘で、すみません。
なんとなく今日も、テーブルを囲んで
お昼を食べました。
おわり。
協力して、組み立てたテーブルと椅子です。
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