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真夜中に毒入りチャーハンを食べて暮らしたいのだ

金がないので来月の家賃払えないなぁどうしようなんてもさくさしていたら、たまたま出会ったポーランド人カップルの住んでいるウェアハウス(倉庫を改造した15人が住むアパート兼スタジオである)にしばらくタダで置いてもらえることになり、私はまたそこで新たな人々と暮らしている。
画家やミュージシャン、看護婦に学生に刺繍職人などまたキャラクターも様々である。
以前のウェアハウスがヒッピーファミリーパーティーオールナイト系だったとしたら、こちらはどちらかというとアースナチュラルオーガニック系のバイブスが家中に漂っている。
部屋にはきちんと窓が付いているし、
シンクだって綺麗だし、皆夜の22時には自室に戻る。
大体において行動が遅い私は、夜中帰って来てひとりインスタントラーメンをすすることになる。

00時すぎ、この日もいつものようにひとり台所でぼーっとしていたら、アダム(前のウェアハウスに住んでいた時のルームメイトでよく不思議な食材を求めてスーパーを巡業している)から突如チャーハンの写真が送られてくる。

真夜中にこの人は一体なぜ食べかけのチャーハンの写真を私に送りつけてきたのだろうか?
謎ばかりが高まるが何かの間違いだろうな、と携帯をおいて深夜台所孤独モードを継続する。
遠くの話し声が聞こえるくらい静かな夜だ。
するとまたメッセージ、

「早くおいでなくなるよ」

かっと目頭が熱くなるのを感じた。
すぐさま短パンにくたびれたTシャツのまま家を飛び出しアダムたちが住むウェアハウスへと走った。

文字通り私は走った。

走れば2分の距離である、
全く遠くないのに、私はこの新居に越してから一度も訪れていなかった。

なんだかわからないけど、戻ってはダメだと勝手に思っていた。

でも私は、毎日毎日みんなのことを考えていた。

今ロジャーがきっとピラティスをやっているころだな、きっとモニカがスティービーにキレて喧嘩をしているころだな、キキのお散歩の時間だな、そろそろヴァネッサが仕事を終えて帰ってくる時間だな、そんな全てが私の身体にしっかりと染み付いていて、それは私にとってロンドンそのものだった。

やたらエモーショナルなまま懐かしいウェアハウスに到着した私は開けっ放しの玄関に駆け込む、
「みんな〜〜〜!!!」
と叫びながら台所に突入する、そこには50人前はありそうなチャーハンの大皿があり、それで、やっぱりみんながいた。

キキがくりくりのシッポをちぎれんばかりに振りまわしながら私に飛びつき、チャーハンくれこいつらみんなケチなんだわと私に語りかけてくる。
盛大なお出迎えは以上である、
私のエモーショナル状態なんて構わず皆チャーハンに夢中である。

食え食えとモハメドが私に大盛りのチャーハンを手渡す、
その辺に転がっていた脚立に腰掛けて私はみんなと一緒に夢中でチャーハンを食べ続けた。

そういえば、こんな大量のチャーハンどっから来たの?

と聞くとチャーハンを運んできたというロジャーはマァ、とかウン、とか言ってごまかしている。
するとアダムが神妙な顔で、なんかロジャーずっとごまかすんだよ、多分俺たちみんな毒盛られてるのかもしれないよ、というと皆笑っていた。

毒なのか涙なのかわからないが、
私の鼻の奥がツーンと音をたてた気がした。

私はやっぱり、真夜中に皆で毒入りチャーハンを食べるような家で暮らしていたい。

で、いつ帰ってくんの?

と当たり前のようにアニータが私に聞く、
私も当たり前のように「すぐ」と答えた。


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