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酔いどれ雑記 97 ヘリオトロープ


漱石で一番好きな作品は『それから』だったのですが(といっても作品すべて読んだわけではないです)、今は『三四郎』が一番です。わたくしの好きな要素が色々詰まってるとでも言いましょうか、魅力的な登場人物がいて、筋は単純だけれど人の機微の描写が何とも言えず、切ない少女漫画を読んだような読後感。

『それから』は映画も観たのですが、代助が松田優作というのがあれですな、ちょっと格好良すぎやしませんかね。わたくしのイメージだと代助はもう少しもっさりした感じなんですよね。それと市電の中で花火とか原作には当然無い、よく分からん前衛的(?)なシーン、あれって果たして必要でしょうか。あの映画で特に印象的でグッとくるのは多分みなさんも同じじゃないかと思いますが、三千代が代助の前でラムネを飲む場面です。「さみしくっていけないからまた来て頂戴」などと言いながら。花瓶の水を飲むシーンもなかなかですが。うーん、やはり『それから』も捨てがたいなぁ......。

『それから』は「高等遊民」という言葉で有名ですが、『三四郎』には象徴的なものが2つありますね、「迷える子(ストレイ・シープ)」という言葉とヘリオトロープの香水です。やっぱりあの作品を少女漫画チックにしている要素はこの2つによるところが大きい気がしますが、どうでしょう。あざとい女とはちょっと違う、けれどただの清楚なお嬢様とも違う「新しい女」として描かれている美禰子、そして美禰子に憧れつつも熱烈に愛しているわけではなさそうな三四郎、なんともいい味を出している与次郎と飄々と生きている広田先生。ああ、あまり野暮で適当なことをだらだらと書きたくはありませんのでここでやめておきますが、甘く切ないヘリオトロープの香りが似合う女性にわたくしはなりたかった、いや、似合う女性に生まれたかったです。