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The Lost Universe 古代の巨大ネコ①ネコの始まり

ネコと言うと可愛いペットを想像するかもしれませんが、自然界でのネコ類は極めて高いスペックを有する肉食動物なのです。ライオンやトラを見ればわかるように、ネコの仲間は食物連鎖の頂点に君臨しています。
太古より、ネコ科の動物は獰猛なハンターとして、他の生き物に恐れられてきました。古代種の中には、現在のライオンやトラをはるかに凌ぐ猛者たちがいたのです。


ネコとは何者か?

ネコと聞いてイエネコを想像する人が多いと思いますが、ネコ科というグループには実に様々な仲間たちが含まれます。無敵の百獣の王ライオン、時速100 kmで大地を駆けるチーター、高山生活に適応したユキヒョウなど、生息環境も生態も多様性に富んでいます。その強さと適応力は驚異的であり、ネコ科動物はオーストラリア・南極・マダガスカルを除くほとんど全ての地域に棲んでいます。

ネコは運動能力が極めて高く、跳躍が得意です。このように、マンションの塀の上にも容易く登れます。

家庭のネコも、野生のネコも、好きな人はとても多いと思います。可愛くてかっこいいネコとは、いったいどのような動物なのでしょうか。

ハンティング能力に優れたネコ科動物

イエネコを見ていると忘れがちですが、本来のネコとは肉食の哺乳類です。分類学的に言うと、食肉目ネコ科に属します。地球上で屈指の技能を有するハンターであり、体の随所に捕食者としての特徴が見られます。
まずは、その目です。獲物との的確な距離を測るために、彼らは立体視ができます。加えて、網膜の構造が特殊であり、暗い場所でも高い視力を発揮します。

お昼寝中のスナドリネコ(鳥羽水族館にて撮影)。眠っているネコは可愛いですが、他の動物からすれば、とても恐ろしいハンターなのです。

そしてネコ科動物最大の武器と言えば、その強靭な顎と歯牙です。犬歯はとても大きく、獲物に致命傷を与える恐ろしい凶器となります。また、舌にも微小な突起があり、舌で舐めて肉を削り取ることもできます。
さらに、イヌ科とは違って、ネコ科動物は脚の爪を積極的に武器として使用します。この爪は脚先の「鞘」に引っ込めることができ、格闘時や木に登るときに出して使います。隠し剣のようで、とてもかっこいい。まさに究極のハンターですね。

陸上生態系の上位に君臨する百獣の王

人間社会の中にいると、セントバーナードやボルゾイなどの大型犬を見る機会が多く、「ネコよりもイヌの方が強そう」と思う人が多いと思います。しかし、自然界においては状況が一変します。ネコ科とイヌ科が共存している地域においては、ネコ科の生態系地位はイヌ科よりも高い傾向にあります。

人気の高いホワイトタイガー(NIFRELにて撮影)。トラは力強さと優美さを併せ持つ名ハンターです。

イヌ科のリカオンは優勢なハンターですが、はるかに巨大なライオンには歯が立ちません。また、トラはイヌ科のドール(アカオオカミ)を捕食することがあります。イヌ科動物で最強と謳われるハイイロオオカミでさえ、ライオンやトラとの体格差は歴然です。
ライオンに代表されるように、ネコ科動物は百獣の王です。ホッキョクグマやヒグマに次いで、大型のネコ科たちは陸上捕食者としては極めて大きな体とパワーを備えているのです。

すさまじく強くてかっこいいネコ科動物たち。これほど洗練されたハンターたちは、永い時の中でたくましく進化してきました。

ネコ科動物の進化

恐竜時代が終わり、新生代に入ると、徐々に哺乳類が地球の覇権を握っていきます。しかし、最初からネコたちが上位捕食者だったわけではありません。
ネコやイヌなどの食肉類が頂点に立つ前は、肉歯類というまったく別系統の肉食動物が生態系の最高位に君臨していました。肉歯類の中には最大級のライオンやトラにも負けない大きさの種類がいて、彼らは世界中で繁栄しました。やがて、その地位を食肉類たちが奪い取るわけですが、そこに至るまでの道程はとても永いものでした。

肉歯類ヒエノドンの骨格(国立科学博物館にて撮影)。食肉類が誕生するまで、彼らは陸上生態系の王座に立っていました。

ネコの祖先とネコのそっくりさん

ネコの祖先は、イヌの祖先と共通しています。その動物とは、約6500万年〜約4800万年前(新生代暁新世〜始新世)にかけて北アメリカに生息していたミアキス類です。ミアキス類の中で草原へ進出したものがイヌ科への道を歩み、森林環境への適応を極めたものがネコ科へ進化していったと考えられています。
ただ、ミアキス類の子孫が直系でネコ科になったわけではありません。その中には「ネコのそっくりさん」とも言うべき、強力な捕食者たちがいました。代表的なグループがニムラブス科であり、ネコ科に近い特徴を備えていました。

ホプロフォネウスの骨格(群馬県立自然史博物館にて撮影)。ニムラブス科の肉食獣であり、体重160 kgにも達する大型種でした。

ニムラブス科の中には現生のジャガーよりも大きな種類も存在しており、新生代における恐ろしいハンターでした。しかしながら、環境の変化に適応しきれず、約900万年前(中新世後期)には絶滅したと考えられています。

食物連鎖の頂点に駆け上がるネコ

ミアキス類から進化を重ね、約2500万年前(漸新世)に最古のネコ科動物が誕生しました。当時の陸上生態系には肉歯類など数多くのライバルがひしめき合っており、ネコはそう簡単に上位捕食者の地位に割り込むことはできませんでした。
歴史的な超ハンターとしてのネコが誕生するのは、新生代中盤~後半に入ってからです。我々の知っているライオンやトラはもちろん、長大な牙を備えることで有名なサーベルタイガーも生まれました。ネコ科は捕食者として超ハイレベルな「完成形」と言っても過言ではなく、瞬く間に地上のあらゆる範囲に拡散していきました。

ライオンとトラの頭骨(北海道大学総合博物館にて撮影)。どちらも属のレベルでは共通していて、とても近い種類なのです。

永い地球の生命史を見ても、ネコ科は群を抜いて優秀なハンターたちです。その優れたパワーとスピードは、多くの動物たちにとって計り知れない脅威です。
ネコ科が隆盛を極めた時代、更新世。当時は、ライオンを超えたライオンーー真なる百獣の王が生きていました。次回からは太古に支配王朝を築いた捕食者たちの実像に、詳しく迫っていきたいと思います。

【参考文献】
著:Gillian Kerby, 訳:今泉忠明(1986)『動物大百科 1 食肉類』平凡社
成島悦雄 (1991)『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』東京動物園協会
遠藤秀紀(2002)『哺乳類の進化』東京大学出版会
Prothero, Donald R.(2006) After the Dinosaurs: The Age of Mammals. Bloomington, Indiana: Indiana University Press. pp. 9.
Sorkin, B.(2008)A biomechanical constraint on body mass in terrestrial mammalian predators. Lethaia (4): 333–347.
冨田幸光(2011)『新版 絶滅哺乳類図鑑』丸善出版

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