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The Lost Universe 古代の巨大霊長類たち①サルの始まり

前回の記事にて絶滅動物についての記事を作っていこうと宣言しましたので、まずは私が哺乳類の中で最も好きな霊長類について書いていきたいと思います。

古代の巨大なサルたちがメインテーマですが、まずは霊長類の始まりと進化の歴史を追っていきます。


霊長類は人気者

一般的にサルと一括りにされて呼ばれる霊長類。人に近いようでいて、人ではない。そんな中庸的で不思議な魅力を持つ彼らは、人類進化の手がかりを握るキーパーソンとして、世界中の生物学者や古生物学者に注目されています。
それだけでなく、私たちの日常の娯楽においても、彼らの活躍を目にする機会が少なくありません。

可愛いおサルさんたち

日本の動物園で見るサルには大小様々な種類がいますが、彼らに対して可愛いというイメージが先行する人は多いと思います。手の平サイズのちっちゃなマーモセット、ふさふさのオマキザル、人間の子供みたいな仕草が愛らしいゴリラの赤ちゃん……といった具合に、たまらなくキュートなおサルさんたちとの出会いを目的に動物園に来る人は多いと思います。その証拠に、日本には霊長類に特化した動物園がいくつか存在し、可愛らしい小型のサルと至近距離で対面できる生体展示が人気です。

見た目の可愛さもさることながら、彼らの魅力は時折見せる人間らしい行動や表情だと思います。ニホンザルにおいては赤ちゃんが雪玉を転がして遊んでいたり、成体のメスたちがハグして挨拶する姿(抱擁行動)には感激を禁じえません。
もしかすると、私たちは、サルたちに人間のあるべき真の姿を求めているのかもしれません。

霊長類小説ブーム?

高度な知能を有し、人に近い形質を備えるという特性ゆえか、サルたちはフィクションの世界でも大活躍しています。著名なパニック映画『猿の惑星』シリーズ、霊長類学者たちがゴリラと共に秘境サバイバルを繰り広げる『コンゴ』など、銀幕では数多くの名作が人々を魅了しました。
そして近年、日本国内では、霊長類を題材にした小説が続々リリースされています。

著・須藤古都離『ゴリラ裁判の日』(2023年, 講談社)
手話をマスターしたメスゴリラが、人間に対して裁判を起こすお話。メフィスト賞の選考委員に大絶賛されたという力作です。

著・増田俊也『猿と人間』(2022年, 宝島社)
凶暴化したニホンザルの大軍勢が襲いかかってくるアニマルパニック。恐ろしい表紙から作品の内容が見て取れますね。

著・美原さつき『禁断領域 イックンジュッキの棲む森』(2023年, 宝島社)
舞台はアフリカのコンゴ。ボノボ調査に向かった科学者たちが、謎に満ちた新種の霊長類との衝撃的な出会いを果たします。

このように、大衆向けエンターテインメントの中で様々な霊長類が大活躍しています。ただ、小説の中のサルたちはフィクションとしての娯楽性が優先されており、生態や能力についてやや誇張されている面があることも事実です。

一概にサルといっても、形態や習性もかなり多様です。それでは、霊長類とは一体何者なのでしょうか。

霊長類とは何者か

『人は万物の霊長』という言葉があります。
つまり生命進化の最高到達点(それが果たして事実なのかは別にして)として、人間を含めたサルは霊長類と呼称されます。

では、何を持って霊長類と定義されるのか。
まず、その分類の大枠について見ていきましょう。

霊長類の定義

「サルとはどういう動物?」と訊かれると、多くの人は「人間に近い知能の高い動物」と答えるかもしれません。一般的なイメージに合致した回答だと思いますが、生物学的には決して『知能が高い=霊長類』という等式が成り立ちません。
全ての霊長類に当てはまる特徴を挙げますと……

  • 両目が前方を向いている(立体視ができる)

  • 親指が他の指と向き合うようについている

ロリス類の剥製標本(東京大学総合研究博物館にて撮影)。他の霊長類と同じく、両目が前方を向いています。

なお、これらはあくまで霊長類に共通する基本ポイントであり、キツネザルやニホンザルやチンパンジーでは、それぞれ体の構造に大きな差違があります。広い意味で同族の生物であっても、科レベル、種レベルで見たら大きく異なる点がたくさん見受けられます。
名前の通りネズミサイズのネズミキツネザルから、人間よりもずっと大きなゴリラまで、霊長類は多様性に富んでいます。では、そんなバラエティ豊かな彼らはいったいどのような過程で地球上に生まれたのでしょうか。

サルはネズミやウサギの親戚?

人の祖先はサル。では、サルの祖先は?
それは、はるかな太古ーー恐竜の時代に生まれたネズミやウサギとの共通祖先です。きっと見た目は、愛らしい小ネズミのように見えたことでしょう。彼らの中から森の樹上世界へと進出する者が現れ、霊長類への第1歩が踏み出されました。

最古の霊長類につきましては、約6500万年前(暁新世前期)の北アメリカに生息していたプルガトリウス・マッキーベリ(Purgatorius mckeeveri)とされています。しかし、発見された化石が断片的であり、霊長類よりもさらに原始的なプレシアダピス類に含めるべきという説もあります。プルガトリウスの見た目はサルっぽくはなく、さしずめ木登りの得意なネズミといったところでしょう。
プレシアダピス類の一群より派生した霊長類は爆発的に多様化し、知能を発達させて、我々人類へとつながっていくのです。

プレシアダピス類の復元模型(ミュージアムパーク茨城県自然博物館にて撮影)。
プレシアダピス類を霊長類に含めるのか否かは、研究者の間でも意見が分かれています。

プルガトリウスを除外した場合、最も古い霊長類の化石としましては、約5700万年前(新生代暁新世末期)のモロッコで生きていたアルティアトラシウス・コウルチィ(Altiatlasius koulchii)が挙げられます。アルティアトラシウスの化石も断片的なものではありますが、歯の構造から霊長類である可能性が高いとされています。

霊長類の進化をめぐる不思議

遺伝子研究による推定ではプルガトリウスよりも古いプレシアダピス類が存在しており、その進化は約8000万年前(白亜紀後期)に始まったとされています。原始的なプレシアダピス類から、優れた目と知能を有する霊長類への大躍進。その架け橋となるミッシング・リンクの化石が発見されたとき、霊長類学や古生物学はエキサイティングな発展を遂げると思われます。
小さくか弱い存在だったプレシアダピス類は、強大な恐竜の影に怯え、ときに他の哺乳類と争いながら、命をつないでいったことでしょう。

白亜紀の環境大変動を経て時代は新生代へと移り、いよいよ霊長類が地球上に誕生します。しかし、恐竜の血脈を継ぐ大型陸上鳥類(恐鳥類)が世界中で大繁栄し、霊長類を含めた哺乳類は追い立てられることになります。恐鳥類が原因かは定かではありませんが、何らかの環境変動や生存競争が原因となり、北アメリカ大陸における霊長類は絶滅してしまいます。
生き残った霊長類は森の中でしたたかに生き延び、繁栄の機会を伺っていました。やがて恐鳥類が滅び哺乳類の時代が到来すると、霊長類も爆発的な多様化と分布域拡大を果たし、その結果、様々な形態のサルたちが生まれていきます。

その中には、現生の大型類人猿にも負けないーーあるいはそれ以上に大きなサルたちの姿もありました。
次回は、そんな古代の巨猿たちの世界をご案内したいと思います。

【参考文献】
日本モンキーセンター(2018)『霊長類図鑑 ーサルを知ることはヒトを知ること』京都通信社
高井正成・中務真人(2022)『化石が語るサルの進化・ヒトの誕生』丸善出版
AMY MCKEEVER(2021)『霊長類は恐竜を見ていた 最古の化石発見で説を裏付け』 日経ナショナルジオグラフィック社

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