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全国自然博物館の旅④岩手県立博物館

宮沢賢治が愛した岩手県の大自然。生命豊かな海と森を有し、季節によって生き物たちは様々な顔を見せてくれます。大地からは貴重な古生物化石が数多く産出していて、なんと恐竜まで発見されています! かねてより見たかった標本がたくさんあるので、羽を伸ばして本館に行ってみました。


岩手の大地で繰り広げられる大発見

本館は自然科学と人文科学を総合的に研究している博物館です。自然科学分野だけでも、生物学と地質学に関するかなりの知識を本館から得ることができます。

県内屈指の大型博物館です。きっと驚きと不思議に満ちた時間を過ごせるでしょう。

見どころはたくさんありますが、なんと岩手県では恐竜や古代の大型哺乳類の化石が出土しており、その標本を本館で展示しているのです。古生物マニアならぜひ訪れておきたいです。
なお、岩手県の誇る作家・宮沢賢治は化石に関心を抱いていたようで、著作『楢ノ木大学士の野宿』の中には恐竜が登場します。古生物を愛する賢治の郷土で恐竜化石が発見されたのは、本当に素晴らしいことだと思います。

そして、各地の自然環境の特色について学ぶことも筆者の大きな喜びなので、地方博物館巡りは本当に楽しいです。岩手の自然マスターになる意気込みで、ぜひじっくり観覧しましょう。

博物館の2階のグランドホールからは、岩手山を拝むことができます。この日は、頭が雲で隠れていました(笑)。

古代から現代まで岩手県を探究

大昔の岩手には、巨大恐竜も古代クジラもいた!

意気揚々と入館し、まずは正面ホール。人々を圧倒するのは、巨大なマメンチサウルス! この竜脚類恐竜(カミナリ竜)に近縁だと考えられる化石が、岩手県の白亜紀中期の地層から発見されています。

その名はモシリュウ! 日本で初めて恐竜と認定された化石ーーつまり日本産恐竜の第1号です。彼らは、長い首と尻尾を備える大型植物食恐竜でした。

大型植物食恐竜マメンチサウルス。ジュラ紀中期の中国に生きていました。岩手県産のモシリュウに近縁な可能性があります。
岩手県の恐竜モシリュウの上腕骨(右)。マメンチサウルスのもの(左)と比較すると、同じ竜脚類のものであるとわかります。

なお、化石の保存状態が不完全なこと、生息年代にずれが大きいことなどから、モシリュウが正式にマメンチサウルス類の仲間であるとは確定していません。しかし、太古の岩手県を巨大な恐竜が闊歩していたことは紛れもない真実です。
今後もしかしたら、県内でモシリュウに次ぐ恐竜化石の大発見があるかもしれません。

モシリュウやマメンチサウルスの他にも、多くの恐竜と出会えます。こちらは中型の角竜類カスモサウルス。白亜紀後期の北アメリカに生きていました。

中生代末期の生物大量絶滅後、岩手県にも哺乳類たちの時代が花咲きました。新生代の動物化石も多数発見されており、特に県産の古代クジラが有名です。
なお、本館の化石展示は観覧順路の序盤と終盤ーー2つのエリアに分かれています。どちらにも古代クジラの骨格があるので、とことん岩手の古環境を学びましょう。

岩手県産の古代クジラ、マエサワクジラの展示。ヒゲクジラ類の一種で、現生種より小型でした。
岩手県南部の平泉町では、古代のイルカの化石が発見されています。このヒライズミイルカは、淡水に生息するカワイルカの仲間です。

巨大な古生物は、恐竜やクジラだけではありません。500万年前の岩手県では特大の海鳥が空を舞い、2~3万年前にはバイソンなどの大型の陸上哺乳類が地上にひしめき合っていました。
本館の化石展示を見ればわかるように、この地には想像以上の巨大動物相があったことがわかります。これほど生物化石の豊かな岩手県に生まれたのですから、宮沢賢治が古生物の物語を著したのも頷けますね。

ハナイズミモリウシ。数万年前の岩手県では、バイソンの大群が歩き回っていたのです。
約500万年の岩手県に生きていた巨大な海鳥の模型展示。広げた翼の長さは、なんと約5 mにも達します。

岩手の海と森に広がる生命たち

岩手県の海では3つの海流が交じり合い、多種多様な魚たちが集まってきます。海草が繁茂する海底環境も、たくさんの海洋生物を育んでいるのです。

そんな豊かな岩手の海の世界を、本館では模型や液浸標本で解説してくれます。巨大なヒロビレイカを見ると、海洋生物の神秘性を感じられます。

ハダカイワシ類を襲うヒロビレイカの実物大模型。胴体の長さが1.4 mもある巨大なイカです。
深海魚テンガイハタの液浸標本。実はあまり泳ぎが得意ではないという一面が可愛いです(笑)。

陸生動物たちの展示は、かなり種数が豊かで、見せ方に様々な工夫が施されています。
かっこいいイヌワシの生態再現ジオラマをはじめ、鳥類の剥製標本がとても充実! キツツキの仲間が一堂に会する集合展示は壮観の極みです。

高山に生息するイヌワシのつがいをイメージしたジオラマ。猛禽類のかっこよさがあふれ出ています。
キツツキの仲間たち、大集合! 色合いも体の大きさも様々です。
哺乳類の剥製もたくさんあります。こちらは日本の絶滅哺乳類ニホンカワウソで、とても貴重な標本です。

個人的に萌えたのは、ハエトリグモとヒメボタルの拡大模型。特に前者はモフモフで、くりくりした眼が超可愛い! 
マニアックなところでは、ヒルやウズムシに関する展示が興味深かったです。液浸標本もあるので、苦手な人にもこの機会にじっくりと形態を見てほしいです。

モフモフなハエトリグモの200倍拡大模型。めちゃくちゃ可愛い! 台座下部から中に入ると、クモの視界を体験することができます。
強烈なファンを持つヒルやウズムシたち。ちなみに、コウガイビルは正確にはヒルではなくプラナリアの仲間です。

そして、観覧順路の最後に並べられた野生動物の写真は、生命力を感じられて素敵でした。岩手県のことが好きで、この素晴らしい自然環境をたくさんの人に知ってほしいという想いが伝わってきます。

岩手県の美しい野生動物たちの写真。ぜひ来館して、命の営みの瞬間を見てみましょう。

資料の一つ一つから、研究に携わる学芸員さんやスタッフさんの岩手県への愛を感じました。郷土の自然環境の素晴らしさを深く知っているからこそ、人の心を動かせる展示ができるのだと思います。

本当に、岩手県に乾杯です!

実は、さかなクンも本館を訪れています。こちらのサインとイラストは正面ホールで見られます。
生き物好きの人なら、長時間の滞在になることは確実! 2階のレストランでしっかりランチ休憩しましょう(笑)。

岩手県立博物館 総合レビュー

所在地:岩手県盛岡市上田松屋敷34

強み:モシリュウやマエサワクジラなどの県産の貴重な動物化石標本、拡大模型やジオラマによる視覚的インパクトの強い展示、県内の動植物・鉱物に関する膨大な標本数と学術的知見

アクセス面:公共交通機関で向かう場合、JR盛岡駅前から松園バスターミナルまで30分ほどバスで移動し、そこからバスの乗り継ぎor徒歩で博物館へ向かいます(トータルの移動時間は60分くらい?)。なお、自ら車を運転すればJR盛岡駅から30分足らずで到着しますので、レンタカーや自家用車を使える状況ならぜひ活用すべきです。博物館の近くには無料の駐車場があります。

「モシリュウと会える博物館」と聞いたら、恐竜マニアは絶対テンションが上がるはず! 
生き物好きの子供たちも、岩手県の自然環境に対する好奇心がきっと強まるでしょう。モシリュウや古代クジラを通して日本の古生物に改めて関心が芽生えると共に、古今問わず岩手県には生命があふれているという事実を理解させてくれます。
ジオラマ・写真・大型立体物を用いた視覚的インパクトの強い展示はわかりやすく、学芸員さんの工夫と遊び心が伝わってきます。博物館の広大な設計からは、未知の世界に誘われているような感じがしてワクワクします。

なお、先述の通り、本館では人文科学の展示も楽しめます。自然科学分野と合わせて資料はとても豊富であり、ぜひじっくり時間をかけて観覧しましょう。

本館は人文系の資料も展示しています。岩手県の郷土文化も、とても興味深いです。

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