#26 見えないモノ
お葬式から二日後、面白い話を聞いた
うちの斜め向かいには、郷土料理屋さんがある
瓦屋根の立派な門がまえの料亭で
四万十の海の幸、山の幸が豪快に彩られた生きた料理は
命をいただいているような、、ありがたい気持ちになる
その料亭の奥さんが訪ねて来た
どうしても話したいことがあるというので
私も気になって聞いていた
「松永先生は、ずっと入院されていたんですよね?
つじつまが合わないんですけど
私、一週間前に松永先生を見たんです」
何を言っているんだろう?人違いちゃう?
母の顔にもはてなマークが浮かんでいた
「暑い日だったんです
私、いつものように、外の階段を二階に上がる途中
お宅の庭を手入れしている松永先生を見たんです
暑いのに、精が出ますねって
心の中で思ったのを覚えているんです
白いTシャツとグレーのズボンを履いていました
そのことがどうしても気になって、主人に話してみたんです
そしたらね、主人も見たっていうんです
時間も場所も違うんですけど
玄関先でいつものように
庭の手入れをしているところを見てるんです
その話をしてたら
うちの従業員も見たという子がいて
よーく思い出してみると、●日の金曜日なんです
同じ日に三人も見てるってことは
やっぱりあれは松永先生ですよ
帰ってきて、庭の手入れをしよったがですよ
これは奥さんに言わんといかんね
という話になったわけなんです」
まさに、半信半疑、不思議な感覚だった
母は涙を浮かべて、話はじめた
「お父さんね、もう、家に帰りたいって言いよった
連れて帰ろうと何度も思うたけど、やっぱり無理やってね
それやのに、もう帰る!って言ったことがあったがやけん
庭の木が枯れちょうぞ!水やっちょけ!って言うたときもある
本当に家に帰っちょったがかもしれんね」
私は日記帳をめくって●日(金)を探した
その日は昼から、私が父に付き添っている
(今日は文句も言わず、静かに眠る日やなぁ)
と思ったことを覚えている
病室でマンガを何冊か読み終えていたからだ
母が戻ってきて、交代した
「後で、ソウタを連れてまた来るわ」
と言うと、父ははっきりと
「よっしゃ、6時に連れて来い、6時ぞ」
と言った
「へんなお父さんやね
時間なんかそんなに気にしたことないのに
まぁ、6時に来てやって」
そんな会話をした
その後も、母が付き添っている間
たまにふと目を開けては時計を見てまた眠る、を繰り返していたという
父はその日
家に帰って庭の手入れをして
約束の6時に病室に戻ってきたのかもしれない
その日、家には夫とソウタが留守番をしていたはずだ!
慌てて夫に聞きに行く
「ねえ、●日(金)だけど、庭にお父さんおらんかった?」
「えっ、ごめん・・・・
昼寝してたわ・・・・・・・・・」
これが、世にも奇妙な物語りの結末である
葬式が終わって、誰もいないときに、こっそり骨壺を開けた
そして、私は少し大きめの骨を一つ盗んだ
これくらいなら、バチは当たらないだろう
それをどうしたいのかはわからなかったけど、欲しかった
持っていたかった
いつか、これをどうしたいのかがわかる日まで
「お父さんは今までよりも、ずっと近くにいてくれてるんちゃう?」
夫は、その骨を見て言った
ソウタは時々一人で
「きゃきゃきゃっ」
と笑いながら遊んでいることがある
一人じゃないんだろう
お父さんがそこにいるんだな
「ソウタの友達になる」
と言っていた
ふと、そう思うときがある
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