#28 天空を自在に奔る竜
父とだけは、竜馬の話をしたことがある
その頃、NHKでは”新撰組”を放送していた
父はおっさん特有の歴史マニアだった
竜馬と新撰組、太平洋戦争や明治維新などについて
2人で好きなようにしゃべりまくった
その会話は多分、噛み合ってない
「今度、赤ちゃんができたら、私が名前つける
”リョウ”って名前にするが」
「竜馬の”リョウ”か、おまえが考えそうな名前や
もし女やったら、おりょうの”リョウ”やな」
全てを説明しなくてもズバリ、確信をついてくる
父との会話が心地よかった
ー時間を早送るー
2006年1月18日
私は病院のベットに横になっている
父と同じように点滴につながれて
一人ぼっちの24時間は長く、寂しく、虚しいや
狭い箱に入れられて、身体は言うことを聞かず
自由を失った人間は
一枚一枚、羽根をむしり取られていく鳥のように
だんだん弱気で無気力な廃人へと変わっていく
何度も差し替えられる点滴の針は
次第に恐怖の時間になり
腕には血が漏れた青いアザがいくつも消えずに残る
こんな日々が一体いつまで続くのか
次はどんな治療をされるのか、恐い
臆病になる自分を見つけ
どこかにあるならば安息の地に逃げ出したくなる
お父さん、こんな思いをずっとしてきたんやね
今ならわかるよ
点滴をイヤがったお父さん
ナースをイヤがったお父さん
「もう、イヤになった」と言ったお父さん
今わかっても、遅かったね
あの時のお父さんの心の叫びに
私は真剣に答えてあげられてなかったね
ごめんね、本当にごめん
辛かったね、恐かったね、泣きたかったよね
もし、そこにいるなら聞いて
今はまだペタンコのお腹には
ちっちゃなちっちゃな命がいる
原因不明の急な出血で
病院の廊下は私が歩いた道だけ
真っ赤なレッドカーペットができていた
個室にいるのに
すぐそこにあるトイレにも行っちゃいけないって
「身体を起こしたら、責任取れない」
と、ドクターから厳しく言われたよ
それでも、一生懸命生きようとしている
それは、あなたですか?
メガネをかけた
おっぱいよりお酒が好きな
元気な男の赤ちゃんに逢えると信じて
今度こそ、絶対、絶対、私が守ってみせる
だから
「がんばらなくっちゃ。オレも、おまえも」
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