見出し画像

#25 理観

そして、私たちは家に帰った


ソウタ、久しぶりにソウタを抱いた気がする

ソウタはじいちゃんとお別れをすることができたのだろうか?


出棺のとき、ソウタが

「じーちゃん!」

と叫んだと誰かが言っていた


私にも、その声が聞こえたような気がする

ソウタ、あなたがどれほどおじいちゃんに愛されていたかを伝えなくちゃね


あなたがママのお腹にいる時

パパはその子に「ソウタ」という名前をつけた

パパが昔、留学していた

ニュージーランドの青くて大きな空を想って、つけたんだって


ママは少し躊躇っていました

字画はいいのだろうか?

大人になっても恥ずかしくない名前と言えるだろうか?


色々な人に相談してみるのだけど

誰かの意見を聞けば聞くほど

あれやこれやとオススメの名前が出てきては、混乱するばかりでした


もちろん、何気なく、おじいちゃんにも相談してみたよ

おじいちゃんはキッパリとこう言いました


「オレはそんな名前、ひとつもえいと思わん」


「おまえら親が、これやと思うて、自信を持ってつけた名前やないがか?

 字画がどうの、漢字がどうの、グダグダ悩むがやったら

 そんな名前つけるな」


何かが吹っ切れた

そうだね、人の意見なんか関係ない

二人で自信を持って言おう


「うちの息子の名前は、ソウタです」


出産前の3ヶ月と、出産後の2ヶ月、合計5ヶ月を

ママは大阪を離れ、おじいちゃんのいる高知で過ごしました


おじいちゃんはソウタが産まれてくるのが楽しみで、楽しみで

「10月産まれのソウタに見せちゃらないかん」

そう言っては、丹精込めて菊の花を育てていたよ


ソウタと、その後たくさんの孫が産まれてくることを願って

ある日、ベビーベットを買ってきたよ


ソウタが産まれる頃には、この腹痛も治ると信じて、頑張ったよ

ソウタの存在が、おじいちゃんのガンをやっつけていたんだね


ソウタが産まれて1週間の入院中

おじいちゃんは仕事帰りに毎日病院に来てくれた


おばあちゃんは

「私の出産のときは1度も来んかったくせに!」

と怒っていました


ソウタを家に連れて帰ると、ベビーバスでお風呂に入れてくれたよ

本当はその時もずっと、お腹が痛くて

あなたをバスの中に落とさないかと、心配だったみたい


あなたはおじいちゃん子で

おじいちゃんに抱かれるとすぐに眠っていたんだよ

ママが抱いても泣き止まないくせにね


友達が来ると

「オレの孫や」

って、自慢していたよ


産まれて、ひと月経つと

一緒にお風呂に入れるからって

仕事から早く帰って来るようになった


お宮参りには、一緒に行くと言ってついて来てね

初節句には、大きな凧を作ってくれた

校長室で一生懸命作ってたって、事務長さんが教えてくれたよ


画像1


高知の田舎では

松永家長男の息子、つまり跡取りが産まれた時にだけ

家紋が入った、大きな大きな凧を揚げてお祝いするんだけど


ソウタのために作ったオリジナルの凧の背には

あなたの”蒼”という文字が

爽やかなブルーで刻まれていました


入院してからも、ソウタを連れて行くと

おじいちゃんは笑顔になりました


「あなた達が来たときだけ、松永さんは笑っていますよ」

って、白衣の天使が教えてくれた


理由なんかなく、ただ無償で、あなたの全てを愛してくれた

たった10ヶ月のあなただけのおじいちゃんでした





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?