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#24 思い出


しばらく黙って考えてみた

何も言わず、この2ヶ月、ずっと側にいてくれた夫


人手が足らず、買い物や掃除、家事、育児

お客さんの相手まで、そつなくこなしてくれた


松永家の親族として、長女の夫として

いろんな気配りをしながらふるまってくれた


彼なりにたくさんの想いがあって

それでも冷静さを保っていたのかもしれない


やっと終わった

やっと義父を偲んで、気を許していい時が来たのだ


私が初めて、夫を家族に紹介しようと実家に招いた日

父は

「会いたくない」

と言って、家に帰ってこなかった


夫じゃなくても、誰が来ても同じことをしただろう

一人娘を嫁にやることに対して、頑なに嫌悪感を持っている人だった


ボーイフレンドの話は一度もしたことがなかったし

家に招待することなんか、恐ろしくて考えたこともなかった


父に似て、私のボーイフレンドを毛嫌いしていた兄に

頭を下げて、なんとかと頼み込み

母とジンに後押ししてもらって


何度目かのチャレンジで、やっと父は夫を家に入れてくれた


お酒の苦手な夫は

その日のためにビールを飲む練習をし、洋服を新調し

挨拶の言葉を九官鳥のように繰り返していた


父は一緒にビールを飲んでくれたが

”お付き合いをしている”という話も

まさか結婚の”け”の字も、口に出すことはできなかった


ただ、真っ直ぐで人当たりのいい彼のことを

気に入ってくれたのは確かだった


それからすぐに私は妊娠した


夫と父の二度目の再会は

”できちゃった婚”の許しを得ることだった


私たちは、半殺しにされる覚悟で

もう一度、父の元に向かった


父はかつて、私をボコボコにした時のように

ものすごい剣幕で怒っていた


できることは、逃げずに立ち向かうだけだった

一生懸命、伝えた

「子どもを産みたい、絶対に育てる」


そして、父は言った

「これからは子どものことを一番に考えないかん

 自分のことより子どもが一番や

 それがおまえにできるがか!」


遺言になってしまった


思えば、ちょうどこの頃から

ガンは父の身体に住み着こうとしている


偶然なのか、必然だったのか

クソ意地悪な運命だ


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結納、入籍、結婚式、出産と季節が変わるにつれ

父は目に見えて、夫をかわいがるようになった


庭の手入れを手伝ったり

一緒に網戸の張り替えをしたり

ゴルフを教えてもらったり

テレビの前にかじりついて、一緒にサッカーの試合を見たり

飲みたくないビールを注がれたり


そんなことが夫は「嬉しい」と言ってくれた


最後に、ぎこちない手で、父の足にサロンパスを貼ってくれた


そんな、たった一年半の出来事を思い出しているのだろうか

夫はしばらく父の前で涙を流していた


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