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【殺人企業~実録・裏社会の人間との闘いの日々~】第二章:起業➁久我さん

第二節:久我さん


就職活動を全滅した私の運命を変えた人…

恩人、師匠…今となっては一言で言い表わせれない人。

お店で一番信頼していた久我さん。

この人には現役当時、一番信頼していたからこそ…


家族、仕事の話とありとあらゆる話をしていた。


久我さんは、白髪の天然パーマの短髪に身長が185cm以上ある大柄な体。


目が二重でクリっとしていて森のくまさんみたいな愛嬌のある顔だ。


その特徴からか、すごく目立つ存在だった。


また、頭の回転も速く、いつもユーモアに長けていて…


アルバイトであるにも関わらず、お客さんにも人気があった。


何故か、久我さんは、お店の店長でもないのに発言力があって、お客さんも含め、女の子達からも絶大な信頼を集めていた。



お客さんにいたっては久我さんの事を店長だと勘違いしている人も多くて、


「えっ!?あの人、店長じゃないの??」


「店長は瀬名君だって(笑)」


久我さんが店長じゃない事実に驚くお客さんに私が何度か突っ込みを入れる事もあった。


私が大学生だった当時…


私と出会った久我さんは30代半ばだったにも関わらず白髪だった。


若い頃、家業で親が多額の借金を背負って、それを返すのに寝ないで働いていた結果、髪が真っ白になったと言っていた。



最初は家業があるのに、何で夜のお店で働いているのだろうなんて疑問に思っていたが…


いつも親身に仕事や身内の相談を聞いてくれていた事から、私は自然と久我さんに心を開いていった。



久我さんに相談していたのもあって、私は父が病気になってから5年間ナンバーから落ちた事がなかった。

自分でもこの仕事が楽しくて如何にお客さんの話を盛り上げるか、新しい知識を増やしたりと努力や自己投資は惜しまなかった。


いつも締め日になると…


「久我さん!!どうにか今月も達成できたー!!」と久我さんに報告するのが当たり前になっていた。



時には「あのお客さん、超ムカつくんですけど!!」と愚痴を言い…


「じゃあ、こうやって仕返ししてやりましょ(笑)」と久我さんと作戦を練るのも楽しかった。



だけど、私も年齢的にあまり長い事、夜の仕事をしている訳にもいかなくなっていた。


この仕事をやって5年…。


父の病気も良くなっていたのもそうだが…毎年毎年、自己記録との追いかけっこにも疲れを感じていた。


正直、毎日来る指名客の顔ぶれにも疲れていた。


同じ事の繰り返しにも飽きていたのかもしれない。



私は貯金もちゃんとしていたので、卒業したら、その資金を元手に投資など何かしようとも考えていた。


だからかな?


あっさり年収何千万と言う給料と地位を捨てる事が出来たのかも。


それと、この頃は記録を達成して、簡単に指名も取れる事から調子に乗っていて、何でも出来る気になっていたのかもしれない。



あらゆる逆境をバネにして自分は稼いで成り上がった。


有名大に落ちて、就職活動もダメだった自分。


だけど、将来この仕事をずっと続けていくのは何とも言えなかった。


華の命にも限界がある。


一応、私も女だし結婚も考えていたし子供だって一人ぐらいは欲しかった。


そんな悩みを抱えていた私はお店を辞める1年前ぐらいに久我さんの送りの車の中で話していた。


「系列の社長の椅子が空いているから手塚さんに言って推薦して貰える様にしときますよ!凛華さんならいけますよ!」


「そんな事、出来るんですか??」


まさに、逆境の中で頑張って来たからこそ、白羽の矢が立ったと言う状況に私の心は躍った。



「凛華さんはナンバー上位ですし、歴代のナンバーを作り上げて来た手塚さんですから出来ますよ!!」


力強く久我さんに言われた。



手塚さんとは、私のいた店舗の元社長でありグループの専務だ。


私が現役時代の時、手塚さんはお店の中にはいなくて基本的に外の車の中で待機してマンガを読んでいるイメージがあった。


また、性格は基本クール。日焼けした肌にイケメン。
長身からか近寄りにくく従業員に対しては厳しかったが女の子には優しかった。


「ただ、その為には記録を作らないといけないので、そこを目指しましょう」


久我さんに力強く言われた、その言葉が私の脳裏のうりに刻まれた。


アルバイトだけど頭の回転が速く、アイディア性などに優れた久我さんを信頼していたので、まずは記録を塗り替える事だけに集中する事にした。



そんな彼が別の顔を持っているなんて………


最初の1年は別として…


約4年、ほぼ毎日、顔を合わせていたのに彼の本当の顔を見抜けなかったのは自分の洞察力が無かったからなのか…


人を疑う事を知らなかったからなのか…


自分が子供だったのか…


それとも、彼が彼の中に秘めている凶暴性などを上手く隠していたからなのか…


だけど、あの最後に会った日、最後まで私は久我さんを信じていたかった。


一回りも離れた人が誰に対しても優しい人が、豹変する姿なんて見たくなかった。


あの瞬間、豹変した彼を見た時、私の中で彼に対して何かが音を立てて崩れた。


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