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コラム②あなたのまちの「ふるさとの木」は何ですか?


明治神宮と同じ森があなたのまちにもあります

明治神宮の森は人工的に作られた森だと知っていますか?

明治神宮の森が「人によってつくられた森」という真実は、近年様
々なメディアに取り上げられています。約百年前に先人達によって計
画され、全国から十万本以上の献木によってつくられました。今では
自然に勝るとも劣らない立派な森になっており、初めて明治神宮の森
を見た人は人工の森とは信じられないほどです。
 造成当初はマツやヒノキなどの常緑針葉樹が多く植栽されましたが
、今の明治神宮の森は「その土地に本来生育する木」によって構成さ
れており、主に樹高二〇メートルほどのスダジイが森の林冠を覆って
います。「その土地に本来生育する木」とは在来種で太古の昔から日
本で世代交代を繰り返し、人や虫や鳥など様々な動植物を支えてきた
種類です。
 では、そんな「その土地に本来生育する木」によって構成された明
治神宮と同じ森があなたの地域にもあるのはご存知ですか? あなた
が子供の頃に遊んだ裏山、公園の林、秘密基地を作った森、思い出し
てみてください。あなたが気にしていなかっただけで、実は明治神宮
の森と同じスダジイの森だったかもしれません。
 スダジイという木は冬も緑色の葉っぱをつける常緑広葉樹に分類さ
れ、秋になると約一・五センチ前後のドングリをつけます。日本にド
ングリをつける木は約二十種類ありますが、その多くは渋みが強くて
食べても美味しくありません。しかし、このスダジイのドングリはフ
ライパンなどで炒って、殻を剥いて中の果実を食べると美味しく、人
によってはクリに似た味がするといいます。
 スダジイは関東以西に多く自生しており、子供の頃に食べたことの
ある人は、当時関東以西にいた人がほとんどだと思います。毎年、筆
者は秋になるとスダジイのドングリを拾い、炒って酒のつまみにして
います。スダジイのドングリはスーパーなどでは売っておらず、知る
人ぞ知る珍味で懐かしい味にも感じます。実は縄文時代の遺跡からド
ングリピットと言われるドングリの貯蔵穴が全国で見つかっており、
中には海水を利用し塩漬けにしていたともいいます。縄文時代にはス
ダジイ、イチイガシ、マテバシイなど渋みが強くないドングリを食べ
ていたとされ、当時は貴重な食料であったと思われます。スダジイのドングリを食べた時に懐かしいと感じたのはそういうことかもしれま
せん。

鎮守の森とは

 そんなスダジイが多く自生する場所があります。それが神社や仏閣
を囲む「鎮守の森」です。
 鎮守の森とは社寺林であることから開発や伐採を受けなかったため
、比較的自然に近い森が今も残っています。まさに明治神宮の森は人
がつくった「鎮守の森」であり、その森はあなたの地域にも存在しま
す。鎮守の森はスダジイなどの「ふるさとの木」(「その土地に本来
生育する木」)で構成されており、その種類は高木から低木まで様々
です。ふるさとの木はその土地本来の気候や風土に適している植物の
ため、何百年、何千年と未来に続き、その地域の動植物や生態系を支
え続けます。
 蛇足ですが、鎮守の森にも色々な種類があります。例えば、関東の
海岸沿いには耐塩性のあるタブノキが主役になる鎮守の森があります
。また、大分県にある宇佐神宮の森はイチイガシが主役になる鎮守の
森がありあます。
 これは日本が南北に長く、四季に富んでいるため様々な植物が生育
し、種類によっては分布が限られているという日本ならではの特徴か
ら生まれたものです。じつに面白い特徴です。

その森は本当の自然なのか

 一方、日本の林業を支えるスギ林は立派な経済林ですが、スギ林の
多くは「その土地に本来生育する木」や「鎮守の森」ではありません
。スギが本来生育するのは鹿児島県屋久島や秋田県仁鮒水沢や新潟県
佐渡島など、比較的降水量が多い地域とされています。当然のことな
がら、経済林として植林されたスギ林は、その地域に本来生育する動
植物の生態系を支え続けることが困難です。しかし、人間の主観をベ
ースとすれば、スギ林を「ふるさとの木」「ふるさとの森」と感じる
人もいるでしょう。例えば、地元にスギ林が多いとか、スギが県木に
なっているとか、子供の頃に遊んだ雑木林にスギが多かったという人です。筆者は、そのような人に出会ったとき、「あなたが住んでいる
地域に本来生育する木は何だかご存じですか?」と聞くことにしてい
ます。
 なぜそういう問いかけをするかというと、むろんスギ林が悪いとい
うのではなく、今や世界各国において「人工の自然」と「本当の自然
」の見分けがつかなくなってきているからです。多少そうであったと
してもさほど目くじらを立てることもないのですが、それが行き過ぎ
てしまった場合は、その国その土地本来の自然の特徴が失われていき
ます。その証拠に、過度に開発された都市域の景観は世界的に類似し
ています。

最後に

 筆者は、人間は自然を壊し、他の生物を絶やし、私腹を肥やすだけ
の生物ではないと信じていますが、今は何かにつけ本物と偽物の区別
がつきにくい時代です。自然一つについても、今こそ自国の「本当の
自然」を見つめ直すべきではないでしょうか。そのきっかけに「鎮守
の森」は最適なのです。
 そもそも日本という独創的かつ素晴らしい風景と文化を形成し、今
日まで支えてきたのは「本当の自然」と言っても過言ではありません
。昔、日本を訪れた外国人は「本当の自然」とそれを取り巻く歴史や
文化に日本を感じ、惚れ込んだに違いありません。
 これを機に、あなたの地域の「鎮守の森」にぜひ足を運んでみてく
ださい。日本本来の自然を体感できると思います。

コラム③へつづく

※このnoteは明日への選択4月号(平成30年)より加筆修正したものです

<著者>
株式会社グリーンエルム代表取締役社長
里山ZERO BASEプロジェクト代表
西野文貴

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