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「イヌジニ」8

《8場》動物愛護センター・殺処分場

ドリームボックスの中にいる安西。

北田  「安西さん!出て来てください!安西さん!安西さん!」
安西  「他の方法を探そうって言ってるだけなのにどうして所長はそんな簡単に却下するんだ!そんなに殺処分がしたいのか!」
北田  「いいからとにかく出て来てください!みんな困ってるんです」
安西  「どうしても殺処分するっていうんならな、まず俺を処分しろ!俺だってこの世の中では大して役に立ってない。犬猫以上に不要な存在だぞ!」
北田  「安西さん変ですよ。こないだはまとめてここの犬を里子に迎え入れちゃうし。どうしちゃったんですか?」
安西  「北田くん、人間ってのはそんなに偉いもんなのか?」
北田  「へ?」
安西  「犬や猫を殺しちゃっていいくらい人間は偉いのかって聞いてるんだ」
北田  「そんなこと知りませんよ」
安西  「北田くん。君は殺処分をするとき少しも胸が痛まないのか?」
北田  「私だって人間です。痛まないはずないじゃないですか」
安西  「何で痛むんだ?」
北田  「え?」
安西  「犬たちがかわいそうだからか?」
北田  「そうですよ。かわいそうだからですよ」
安西  「何でかわいそうなんだ?」
北田  「そりゃ死ぬからに決まってるじゃないですか」
安西  「じゃあ殺さなきゃいいじゃないか」
北田  「安西さんも動物愛護法44条くらい知ってますよね!不要な動物や人間に危害を及ぼす動物は殺してもいいって法律です」
安西  「北田くん、じゃあ聞くが不要な動物ってどんな動物のことだ?」
北田  「要らなくなったペットのことですよ」
安西  「誰が要らないんだ」
北田  「飼い主に決まってるじゃないですか」
安西  「その飼い主は要らない動物を何で飼い始めるんだ?」
北田  「え?」
安西  「何で要らない動物を飼う?おかしいだろ?」
北田  「そりゃそうですが・・・でも殺さなかったらどうするんですか?毎日何匹の犬がここに連れて来られると思ってるんです?それ全部里子にして持って帰りますか?」
安西  「自分が飼ってた動物を要らなくなったから殺せって、平然とここに持ってくる。それは正しいことか?」
北田  「そんなこと分かりませんよ」
安西  「そんな簡単に捨てられて、犬たちだって納得できないと思わないか」
北田  「い、犬たちですか?」
安西  「どうなんだ?」
北田  「・・・禅問答だったら後にしてください。とにかくここから出てください」
安西  「禅問答じゃない!」
北田  「とにかく早く出てくれないと困るんです」

サクラに連れられてやって来る安西家の犬たち。

北田  「何ですかこんなに犬を連れてきて!」
サクラ 「お父さん!何してんの?」
グリコ 「死にたくなったのか?」
ハム吉 「チーズの後はオッサンかよ」
安西  「変な想像してるだろ。違うよ、所長に話しても駄目だったからストライキしてるんだよ」
北田  「あ、安西さんの娘さんですね」
サクラ 「どうも父がすいません」
安西  「サクラ、謝っちゃダメだ!」
サクラ 「あ、そうか。私も殺処分には反対なんです。脱!殺処分!」
北田  「お父さんをなんとかしてください!」
安西  「そうだ!お前たちもこの中に入れ!」
サクラ 「え?何言ってるの?」
ココア 「安西ってとことんバカね」
犬たち 「(呆れた台詞を各々)」
グリコ 「バカだけど私は好きだな。こんな人間」
サクラ 「グリコ・・・」
安西  「とにかく俺やサクラがこの中にいれば殺処分はできない。だからここで交渉してるんだ」

グリコ、ドリームボックスに入っていく。シコウとピカソも続く。
そこにやってくる館山所長。

北田  「あ、所長!ほらそこ。どいてどいて」
安西  「所長!もう一度話を聞いてください。所長!」
館山  「なんでこんなに犬がいるんです」
サクラ 「うちの犬です」
館山  「北田さん、安西さんを早く出しなさい。スケジュールが狂うと困るのは職員ひとりひとりなんですからね」
北田  「はい。すいません」
館山  「安西さん」
安西  「はい」
館山  「先ほどのお話、よくよく考えさせていただきました。いやいや実に感銘を受けました。ぜひとも私から県議会に上申させていただこうと思います」
安西  「え?本当ですか?」
館山  「勿論です。早速詳しい資料を作りたいので一緒に所長室に来ていただけませんか」
安西  「わかりました!ありがとうございます」
北田  「安西さん、良かったじゃないですか!」
サクラ 「ありがとうございます」
安西  「ああ!」

白けてる犬たち。
ドリームボックスから出ようとする安西。

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不要な命を処分することは動物愛護法で認められています。その対象のひとつに「家庭動物」の文字が。ペットが不要になったら殺してもいい。本当にそうなのだろうか。これから超高齢化社会に突き進んでいく日本にとって「不要な命」とはなんだろう。

舞台台本です。最重要部分以外は無料で読めます。 保護犬・保護猫の制度が浸透していなかった2015年初演。後に「雀組ホエールズ」の代表作の…

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