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「イヌジニ」2

《2場》岸根公園・高台

気持ちいい緑。オリビアが片脚を出して座っている。
そこへやってくるご機嫌なシコウ・ピカソ。

ピカソ 「もう勘弁してくださいよ」
シコウ 「お前、そりゃ幾らなんでも早過ぎなんだよ」
ピカソ 「もういいじゃないですかその話は」
シコウ 「だってよ、初めて会ってすぐに告白するなんて有り得ないだろ」
ピカソ 「いや、でもマジで可愛かったんですよ」
シコウ 「可愛かったら尚更だろ。お前俺たちはエリートなんだぜ。そんな簡単に交尾を迫るようなことしたら品がないだろうが」
ピカソ 「いや、交尾とかやめてください。自分プラトニックなんで」
シコウ 「何がプラトニックだよ。毎晩俺の横でゴソゴソやってるくせに」
ピカソ 「え?ゴソゴソなんてしてませんよ」
シコウ 「してたじゃねえか。小声で『すずちゃん』とか囁いてたし。何が『すずちゃん』だよ。お前そんなに広瀬すずが好きなの?ロリコンなの?」
ピカソ 「いやいやいやいや。やめてくださいってこんな大衆の面前で」
シコウ 「どうなんだよゴソゴソしてただろ?」
ピカソ 「すいません。ゴソゴソしてました」
シコウ 「そうだよ。そう言えばいいんだよ。男は堂々とゴソゴソしてりゃいいんだって」
ピカソ 「はい。今日からは堂々とゴソゴソします」
シコウ 「(木があるので)おい、お前そっちな。俺こっちやるから」
ピカソ 「あ、はい」

二人、立ちションする。

ピカソ 「ふう。マーキング、無事完了いたしました!」
シコウ 「ご苦労」
ピカソ 「(よろめいて肩を借りる)あ、ちょっとすいません」
シコウ 「お前、何ションベンした手で触ってんだよ」
ピカソ 「量が多かったんでクラっとしちゃいました」
シコウ 「言い訳か?」
ピカソ 「言い訳です。すいません」
シコウ 「すいませんじゃねえよ!汚ねえ手で触りやがって」

ピカソを蹴り飛ばすシコウ。
オリビアにぶつかって倒れるピカソ。

オリビア「うるせえなあ」
シコウ 「あ、オッサン、なんか言ったか?」
オリビア「うるせえって言ってんだよ。ガキどもが」
シコウ 「おい、オッサンが何か言ってるぞ」
ピカソ 「あれ?シコウさん、このオッサン、首輪してますよ」
シコウ 「首輪だあ?」
オリビア「どっか行け、クソガキ」
シコウ 「汚ったねえ首輪だな。汚くなったから捨てられたか、オッサン」
オリビア「・・・」
シコウ 「この脚も動かねえみたいだな(と、脚を蹴り上げる)」
オリビア「・・・」
シコウ 「何もできねえくせに生意気なんだよ!」
ピカソ 「この役立たず」
シコウ 「生きてるだけで邪魔なんですけどー」

ピカソもオリビアを蹴る。
まったく抵抗できないオリビア。

シコウ 「俺たちはお前とは生きる世界が違うんだよ」
ピカソ 「ねえ、動かないですよ」
シコウ 「・・・」
ピカソ 「死んじゃったんじゃないすか?」
シコウ 「こんなんじゃ死なねえよ。なあオッサン」
オリビア「殺せ」
シコウ 「殺せだ?あんた全然分かってねえな。殺すはずねえだろ。俺たちはエリートなんだよ。あんたを殺すほどバカじゃないし、お人好しでもないの」
オリビア「殺せ」
シコウ 「俺たちの首輪、見える?俺たちは血統書付きなわけ。あんたは俺たちの暇つぶしなだけ。殺したりしませんからー!残念!」

ハーモニカの音がする。向き直る二人。
ハーモニカを吹きながらやってくる松坂。

松坂  「シコウちゃん!ピカソちゃん!帰ったら美味しいランチが待ってるぞー」
シコウ 「ということなんで」
松坂  「うわ。汚ない犬!何で公園にこんなのがいるかなあ。こういうのは駆除しとかないと。こいつらに病気でもうつされたら大変だ」

松坂電話をかける。

シコウ 「あんたの望み通りになりそうだな」
松坂  「もしもし、動物愛護センターですか?岸根公園に野良犬がいるんですよ。首輪はしてるんですがどうも捨てられたみたいで。ええ、他の犬に良くないんで。ええそうです。駆除の依頼です。脚が悪いみたいなんで遠くには行かないと思うんで」
ピカソ 「あんた逃げないと殺されるよ」
オリビア「シコウとピカソ・・・お前たちの名前か」
ピカソ 「だから何?」
オリビア「覚えておく」
シコウ 「いえいえお気遣いなく」
オリビア「あ?」
シコウ 「・・・もう二度と会わねえよ」
松坂  「さ、行くよシコウちゃん、ピカソちゃん」
シコウ 「じゃあな」
ピカソ 「じゃあねー」

松坂に連れられて去っていく二人。

オリビア「(苦悶を思い出し)ふっ。バカバカしい・・・」

そこに捕獲用の網を持ってやってくる安西。

安西  「・・・なんだお前か。昨日も会ったよな。覚えてるか?」
オリビア「犬殺し・・・」
安西  「そうか、お前ついにこうなったか・・・そうか・・・こうなっちゃったか」
オリビア「(あくびをする)」
安西  「ごめんな。とりあえずこれが俺の仕事なんで捕まえさせてもらうよ」
オリビア「・・・」
安西  「ごめんな」
オリビア「・・・」

全く抵抗しないオリビア。
網ではなく縄で首を繋いでオリビアの横に座る安西。

安西  「ああ、いい天気だなあ」
オリビア「・・・」
安西  「お前、どんな風に生きて来たんだ?」
オリビア「・・・」
安西  「昔は飼い犬だったんだろ?」
オリビア「・・・」
安西  「脚はどうした?車にでも轢かれたのか?」
オリビア「・・・」

オリビアの脚を触ろうとする安西。

オリビア「犬殺しが」
安西  「俺はお前を処分しなくちゃいけない」
オリビア「・・・」
安西  「可哀想になあ」
オリビア「・・・」
安西  「ああ、いい天気だなあ」
オリビア「ああ、太陽があったかいな」
安西  「・・・戻りたくないなあ」
オリビア「・・・」
安西  「なあ、お前も喋ってるのか?クロちゃん」
オリビア「・・・」
安西  「何か喋ってみてくれよ、クロちゃん」
オリビア「・・・」
安西  「だめだ全然わからない」
オリビア「喋ってねーし」
安西  「よしクロちゃん。行こうか」
オリビア「クロちゃんじゃねーから」

ドナドナを歌いながらのんびりと歩いていく二人。
暗転。


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