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「ありふれた愛、ありふれた世界」14

シーン14 弘一の病院・カンファレンス室(夜)

健太郎がコーヒーを飲んでいる。
そこに来る弘一。

健太郎 「お葬式、終わったの?」
弘一  「ああ」
健太郎 「ヒロちゃん、何度も言っておくけど手術は失敗してないから」
弘一  「ああ」
健太郎 「血圧があんなに急に下がるなんてことは考えられない」
弘一  「ああ」
健太郎 「完全な想定外。そうよね」
弘一  「ああ」
健太郎 「ヒロちゃんのせいじゃない。誰が手術したって助からなかった」
弘一  「そんなことは分かってる!」
健太郎 「ごめんなさい」
弘一  「ごめん」

健太郎 「いいえ。コーヒー飲む?」
弘一  「ああ」

健太郎、コーヒーを淹れに行く。

弘一  「・・・なあ健太郎」
健太郎 「はい」
弘一  「担当した患者さんが死ぬのは辛いよな」
健太郎 「そうね・・・」
弘一  「でも、人が死なない日なんてないんだ・・・死なんてそこら中に溢れてる。それなのに俺たちは人が死なないように戦って・・・勝ったり負けたり。所詮俺たち医者にできることなんて」
健太郎 「運命」
弘一  「またそれか。運命には抗えないのかな」
健太郎 「確かに人が死なない日はない・・・でもヒロちゃん、人が生まれない日だってない。世の中の人が誰も笑わない日もない、泣かない日もない」
弘一  「助けたかったな・・・それが運命だって言うんなら俺はそんな運命をひっくり返して、ぶちのめしてでも助けたかった・・・愛のことを助けたかった」
健太郎 「ヒロちゃん」
弘一  「俺は自分の大切な家族を救ってあげられなかった」

健太郎、コーヒーを弘一に渡す。

弘一  「俺、ヒーローだって言われたことがあるんだ」
健太郎 「ヒーロー?」
弘一  「俺が18のとき好きになった子がいてさ。その子、結構重い病気になっちゃったんだ。で、ある時言われたんだよ・・・」
健太郎 「なんて?」
弘一  「弘一は私のヒーローだって・・・俺、名前が弘一だろ。だから」
健太郎 「何?ダジャレ?」
弘一  「死んじゃったんだけどね・・・その子」
健太郎 「・・・」
弘一  「それで俺、本当のヒーローになるって決めたんだ」
健太郎 「だから、医者になることにしたのね」
弘一  「笑っちゃうよな・・・」
健太郎 「ヒーローになったじゃない。ハーバードの医学部を首席で卒業したのにボランティア医師だなんてバカみたいな経歴だし・・・それにアフリカにはヒロちゃんのこと感謝してる子供が数え切れないくらいいるじゃない」
弘一  「それでも・・・大切な人は守れない、助けたかったのに・・・」
健太郎 「・・・」
弘一  「俺は・・・ずっと自分の大切な人を守れないのかなあ・・・」
健太郎 「・・・」
弘一  「(泣きたいのをぐっとこらえる)」
健太郎 「・・・泣いていいのよ」
弘一  「ああ」
健太郎 「ずっと我慢してたんでしょ?」

去っていく健太郎。

弘一  「(号泣する)」

ゆっくりと暗転。

※次が最終回となります。


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