私たちの世界の窓はいつも、豊かな指紋で溢れていたのだ

臓器を、小さくしながらおこなう恋愛の只中で、鳥の巣をみつめていたら、それが母国語と対等に孤独だとわかった。犯罪と森林について、書いていこうと思います。光と骨折の関係にいのるとき、瞼の中で誰もが行方不明になるから、春休みのあとの言い訳を考えてしまう。森林は、あらゆる死骸が積み重なって成長する、未然形なのである。

兄弟は森林のなかで、秘密基地をつくって遊んだ。弟は大人の男の皮膚呼吸に圧倒されて、社会主義が美しく見えたと言った。そして、ある畑で「植物が法律なのかもしれないと思ったことがありました」と続けた。冗談みたいに死ぬことを仄めかしながら兄は、この世のあらゆる花は、狂犬病かもしれない、と反射的に怯えた。

二の腕にあらわれる兄のアレルギーは、綺麗だった。それは錯視する月からの手紙だった。幼いころの弟は、海中に上手くおしっこができず、兄の手首をつかんで、どうしたらいいかと聞いた。兄は、水底にも光を通すように、そして、はじめて買ってもらった水彩絵具を想像してごらん、と横顔で答えた。弟はいまもそれで、地図上の海岸線をぼかしながら想像している。自分の尿が、海の一部になり続けていることを。

新雪に、足跡が残り、そのあと薪が盗まれていたことに気付いた。時計をよく気にする庭だったかもしれない。やがて泥棒を打擲する噂が広まり、水鳥の群れが行き過ぎても、包帯の巻き方だけを想像して、一つの季節が終わった。雪が降るように正確な暴力をこの目で見たとき、哺乳類の偶数の乳房が、体毛にしまわれていくことの意味を知った。私たちの世界の窓はいつも、豊かな指紋で溢れていたのだ。

結露した窓の水滴に自分の指先を重ねて、魂を染み込ませていく。そのとき弟は魂で、自分のくるぶしだけを見つめていた。記憶のなかで兄と、そっと小指だけを繋いで。今頃、想像上の林間学校では、星の図鑑が盗まれている。

過去作再掲シリーズまだありました。。。
よんでみてね❤
ビール飲みながら読むと、ちょうど心地よいように書いてあるから、酒片手にね

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