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note②「飛蚊症発症」



近視ではあったものの、病気で眼科のお世話になったことは一度も無く、“飛蚊症”なんて言葉も知らなかった。
事故で誤って目を強くぶつけたあの日を境に私の視界は変わった。

突然現れた目の中を泳ぐ小さな黒点は、日に日にその数を増し、ひと月経つ頃には視界の中を埋め尽くした。
砂鉄のような細かい点状のもの、繊維状のもの、羽衣のように形を変えながら気味悪く泳ぐもの、体にたくさんの触角を蓄えた虫のようなもの…私の目の中の飛蚊は既に数えられるレベルではなかった。
そんな状況に平静でいられる訳もなく、近所の眼科からインターネットで見つけた名医と呼ばれる眼科まで、何件もの病院を回った。しかしどの病院でも「飛蚊症は治りません」と判を押したような答えが返ってくるだけだった。 

とにかく情報が少な過ぎた。そして私自身も無知過ぎた。

その頃は“飛蚊症”というワードで検索をかけると、ルテイン等のサプリメントの広告に繋がるような時代であった。
その時点で複数の眼科に見放されていた私は、藁にも縋る思いで海外からサプリメントを取り寄せた。黒ゴマが良いと聞けば毎日擂って食べたし、カボチャやニンジンが良いと聞けばジュースやポタージュにして毎日摂取した。
しかし私の望む結果が得られることはなかった。
その後、ひょんなことから知り合った眼科勤務の方にこの時の話をしてみると「サプリメントなんて効く訳ない、そもそも口から入れたものが硝子体内に作用する訳がない」と笑って一蹴された。
きちんと眼科学を学ばれている方からすれば一蹴するようなことでも、実際に目の中が黒いゴミまみれの私からすれば必死の策だった訳で、それを笑って済まされたのは何となく悲しく感じたことを覚えている。 

飛蚊症は孤独な闘いだ。
目の中の映像は他人と共有することが出来ないので、その辛さは自分にしか解らない。自分の症状が重度なのか、中度なのか、軽度なのか、それさえも解らない。
でも私に言わせればみんな重度なのだ。苦しいのだから。楽な飛蚊症なら誰もこんなに悩まない。
病気じゃないからと言って突き放すことが、患者を絶望の底に突き落としていることと同義であることを解ってほしい。
気にし過ぎ、ちょっと神経質なんじゃない?、直に慣れるよ、そういうものだから…
そんな軽い一言で片付けないでほしい。
慣れないから!と声を大にして言いたいし、叫びたい。 

しかしそういう無情な台詞が飛び交っているのが現実だった。
飛蚊症を克服する道は自分で模索していくしかないことを、私は静かに受け止めた。 

私は飛蚊症発症を境に、仕事のスピードがそれまでの3倍近く掛かるようになっていた。
それもそのはず。パソコンのディスプレイ内で視界を動かすたび、巨大なハエの大群が右へ左へビュンビュンと高速大移動するものだから、気が散ることこの上ない。
そして何の変哲もない白い壁や窓からの太陽光が、飛蚊をクッキリと浮かび上がらせる凶器となった。
外へ出ればそれは更に私を苦しめた。 

そういった試練にも、ひとつひとつ根気強く対応していくしかなかった。
外出対策として、それまで掛けたことのなかったサングラスを購入した。絶望的に似合わないが、そんなことはもう言っていられない。サングラスの色にもよるが、外出する際の辛さは幾分か軽減された。 

パソコンデスクの背景となる白い壁には、大きなサイズのコルクボードを何枚か貼った。そこにカラフルなカード等を敢えてゴチャゴチャと配置することで、飛蚊が少しでも目立たなくなるよう工夫した。 

カーテンは遮光対応のものに買い替えようかと思ったが、インターネットで遮光ライナーなるものを見つけたため、それで対応することとした。既存のカーテンに取り付けられるようになっており、カーテンを新しく買い替えるよりも随分と安く済んだ。
この遮光ライナーは、本当に購入して良かったもののひとつである。リモートワークの私はカーテンを透過して入ってくる日中の太陽光にかなり参っていたのだが、この遮光ライナーのお陰で辛さが随分と軽減された。殆どの飛蚊症患者さんはそうであろうと思うが、飛蚊症を発症してからカーテンは四六時中閉めっきりだ。 

細かいところで言うと、眼鏡やパソコンのディスプレイはいつもやや汚めにしている。そうやって、考え付くあらゆるところをゴチャゴチャとさせておくことで飛蚊をごまかそうとする作戦だ。気休め程度の効果だが、辛さを理解してもらえない日々を乗り切るにはこういった小さなことに縋っていくしかなかった。


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■ 商品紹介

大型コルクボードの一例です。
こちらは様々なサイズ展開があり、貼りたいスペースに応じて組み合わせて使用することが出来ます。枠が無いのでスッキリとしたデザインです。

こちらは特大サイズ。1枚をドーンと掛けることが出来ます。

遮光ライナーの一例です。
ご自宅のカーテンに合わせてサイズを選ぶことが出来ます。
「カーテンライナー」で検索するとたくさんの種類が出てきますが、必ず“遮光”と明記されているものを選んでください。
色も種類がありますので、ご自宅のカーテンの色に合わせてお好みで…。
私は生成りのカーテンに、グレー系の遮光ライナーを取り付けました。




■ 次回予告

note③「飛蚊症レーザー治療 体験談 #1」
飛蚊症を治すため、飛蚊症レーザー治療を受けました。③話では、そのレーザー治療のレポートを中心に書いています。
レーザー治療とは何なのか?どういう流れで治療が進むのか?実際にどういった効果があったのか?
皆さん、飛蚊症レーザー治療に対する疑問をたくさんお持ちかと思います。私自身が治療前に不安に思っていたこと、わからなかったこと、怖かったこと…そういった点をクリアにする文章を心掛けました。
患者目線の正直な気持ちもそのまま書いておりますので、飛蚊症レーザー治療という選択肢を採用するのか否かを判断するひとつの材料になればと思います。
長編のため全3話構成となります。


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飛蚊症に苦しむ方たちの気持ちに寄り添い、希望を見出せるような文章を書いていきたいです。応援いただけたら嬉しいです☺