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伝統と混沌の中で

見上げれば、雲ひとつない青空。

足元に目をやると、数日前に買った靴が私に履いてもらえた喜びを前面に押し出している。

最近の私は、東京へ出かける機会が多くなってきた。仕事もせずにだらけているように見えたらどうしよう、という気持ちはあるけれど。

メンタル不調で何もする気になれなかった昨年の自分に比べたら、今の自分の方が断然いい。こうして外出する予定を能動的に入れるようになったのは、メンタルの調子が回復しつつある証拠だろう。


今日の目的地は、新宿末廣亭。落語を中心に、様々な芸を見られる場所だ。

私は『笑点』の影響で、子供の頃から落語が好き。大学生の頃は当時住んでいた福島からわざわざ東京に行き、寄席(簡単に言うと、数々の芸人が芸を見せてくれる演芸場)で落語を聴いていたくらい、落語が好きだ。

その中でも新宿末廣亭は、とても有名な寄席。上野や浅草、池袋にも寄席があるけれど、新宿末廣亭はなんとなく特別感がある。

だからこそ、これまで私は足を踏み入れていなかった。気軽に入れるのが寄席とはいえ、新宿末廣亭だけは重厚感があって。中へ入る勇気をなかなか持てなかったのだ。


電車を乗り継いで、新宿末廣亭近くの新宿三丁目駅に着いた。地上のモワッとジメッとした暑さが、私の体に纏いつく。

その近くに、十数人の短い列ができている。そこが新宿末廣亭だった。私がこれまで写真で見た通り、他の寄席にはない重厚感があった。ずっしりと重く、これまでの歴史を蓄えたかのような重厚感が。昔からこの地に構えているのだという気概を感じる。

新宿なんて、東京の中でもかなり栄えた街だというのに。そんな都会の中心で、伝統芸能の歴史を紡ぎ続けている。月並みの言葉だけれど、すごいなぁなんて私は思った。


こう言ったら軽々しく聞こえて失礼かもしれないけれど、落語は相変わらず面白かった。

たまに出てくる漫才やマジック、漫談もすごかったけれど。一度落語の世界に入ったら、噺の世界へひとっ飛び。噺の登場人物は好き勝手やっているし、演者に向かってツッコミを入れたくなるような笑いがあちこちに散りばめられている。

同じ芸人でも、テレビによく出ている芸人と寄席の芸人では、こんなにも違うものなのだと感心した。そりゃそうだ。落語は伝統芸能の一つなのだから、テレビでよく見るものとは異なる。

それでも私は落語が好きだと、改めて思った。落語の世界からしか得られないもの、学べないことがあるから。


寄席には昼席(いわゆる昼の部)と、夜席(いわゆる夜の部)があるけれど。今日は昼席だけでお暇することにした。

新宿末廣亭の外に出ると、清々しさいっぱいの青空が私を迎えてくれた。大通りに出ると、都会らしい人混みと立ち並ぶ数々の店で混沌としている。

どんなに周りの景色が変わろうと、新宿末廣亭だけはどうかそのままであってほしい。

そんなことを思いながら、私は新宿を後にした。

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