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【刺さりすぎて痛い作品】傲慢と善良 を読んでみて

傲慢と善良 辻村深月
映画化されることで話題になってますね!おめでたい!!

この作品を読んだ理由はただひとつ。

辻村深月さんが書いているから

全作は読めてないですが、
読んだ作品はどれもおもしろい!
辻村深月さんの作品なら、あらすじ読まなくても読み始められる。

この作品にも期待していましたが、
期待の遥か上をいかれました。

ネタバレせずに紹介していくので、
読んでいただけるととんでもなく嬉しいでございます。


わたし的な解釈

帯のコメントから①【人生で一番刺さった小説】

まさにその通り~!
登場人物たちの状況や感情の描き方が見事で、
読めば読むほど感情移入する。
「分かるわァ~」のオンパレード。
気づいたら刺さっていたというか、
読者自ら刺さりに行っているような感覚。

恋愛、仕事、人間関係…悩みの種は人それぞれだけど、
わたしの悩みを書いてくれているのか?
と思うほど身近に感じる作品


帯のコメントから②【恋愛だけでなく生きていくうえでの痛み、あらゆる悩みに答えてくれる物語】

いろんな生き方、考え方があるけど、
正解も不正解もないよ
って教えてくれるような感じ。
生きていれば辛いことも、うまくいかないこともある。
反対に、辛い経験はせず、うまくいっている人もいる。

人生の正解は教えてもらうことはできないけど、
自分と同じ悩みを持つ人もいるんだな、
と思える
。心の支えになってくれました。


刺さりポイント①人間の内面について

人間誰しも見せたくない部分はある。
自分の見せたくない部分は知っているけど、
他人の見せたくない部分はどこか分からない。
その他人の見せたくない部分を読者として知る、罪悪感
こうして描写されているということは、
似たようなひともいるんだ、という安心感。
見せたくない部分に自分を重ねてザワザワするけど、
重ねることによって得られる安心感もあるという絶妙なバランス。


刺さりポイント②恋に悩むアラサーのリアルさがえぐい

えぐい、とか、やばいとかで表現するのは好きじゃないけど、
そう表現するほかないのがこの作品。

アラサーの男女、結婚、という軸。
ここの設定が絶妙。完璧にわたしは自分に重なりました
婚活、恋愛、それに悩んで行動しても望む結果が得られない
読んでてちょっぴり苦しくなる理由です。

特にわたしが、リアルな悩みだなと思ったものが、
ピンとくるという表現。
この作品では婚活中において、
相手に対してピンとこない、という表現をする場面があります。
そして、ピンとこないの理由は何か、ということも語られます。

その、ピンとこない理由が、まさに傲慢と善良でした。
ぜひ読んでその内容をみていただきたい…


タイトルについて

恋愛モノで傲慢と善良なんてタイトルがついていたら、
片方が傲慢な人で、片方が振り回される善良な人なのか?
って思いがちだけど、そうじゃない。

この作品の傲慢と善良というのは、
善良にみえても、それは傲慢にもみえるということの気がする。
人間関係のなかで、よかれと思ってしたことが、
余計なお世話だったり成長の機会を奪うことになったり…そんな感じ。

そもそも、善良、傲慢ってなんなのか。
そんなことまで考えてしまいました。


わたし的あらすじ

婚約者の真実が姿を消した。

この一言がすべて。
で、恋人の架が行方を探す物語。
何か事件が起きるミステリ展開でもなく、
ラブロマンス展開が繰り広げられるわけでもない。
真実がどこに消えたのか、
知人らに話を聞いて手がかりをつかもうとする…

もうちょっとくわしくあらすじ

主要人物は2人。
西澤架39歳と、坂庭真実35歳。

物語の始まりは真実が逃げるようにタクシーに乗り込み、
架に電話することからはじまる…
「助けて、お願い、あいつが家にいる…」

そこで失踪したのかと思いきや、姿を消すのはそのあと。
ストーカーの被害を受けていた真実。
真実から相談されても、
どうせ結婚するし…被害はなくなるだろう、と
架は深くは考えていなかった。
結婚式の打ち合わせをしたり、普通に日常を過ごしていたある日。
真実が帰ってこない。昼には電話もしたのに、今はつながらない。

警察に相談するが
「自分の意志で失踪した可能性が高い」と言われてしまう。
消えた真実を架が探す。
真実が利用した結婚相談所、地元の友人、家族…知らなかった真実の過去にと向き合っていく。


見どころ

辻村深月さんらしさ

消えたという事実をメインにせず、
真実という人物がとことん詳細に描かれていく。
どんな環境で過ごしてどんな思いでいたのか…。
失踪の原因をみつけていくのではなく、
じわじわと「どういう結末になっていくの…?」
と読者の想像が膨らんでいく。
想像は膨らむけど膨らんだ分、
きれいに結末を迎える展開のうつくしさはもはや芸術。


視点の切り替えかた

前半は架が真実のことを聞いて回るところが語られていく。
読者にとっての真実は、他者の視点でつくられていく。
後半は真実視点で語られていく。
他者からみた真実、真実からみた真実。
その乖離が絶妙にリアルで、現実味のあるこわさがある。
その乖離も、傲慢と善良。
同じことを描写していても、
視点が変わるだけで読み手の感情が変わるのがおもしろい。

前半は真実を責めたくなるし、
後半は真実に共感して守りたくなってしまう。


登場人物の描き方

極悪人は出てこない。
悪意はないけど、なんか気に入らない。
いい人だと思っていたけど、こんなことがあって引いた。

善悪ではなく、
人の価値観によって、いろんな解釈のされ方がある。

価値観。プライド。善意。親子や恋愛、友人などの人間関係。
自分は決して傲慢ではない、と読者に言わせないこわさがある。
善良さは、傲慢にもなりうることが描写されているから。


物語の構成

辻村深月さんの作品は、
物語の背景や、登場人物たちの心情を細かく描写して、
「こんな気持ちがあったから、この展開になりました」
現実的なスピードで語られるものが多い。

結婚を意識した男女という主要人物たちからは脱線せず、
そこからの人間関係のリアルさを描きつつ、
恋人の失踪というミステリ要素が読者を飽きさせない。
ただの恋愛モノ、ただのミステリではないから、
誰が読んでも飽きさせないおもしろさがある。
謎はきちんと解決されていくので、読み終わりはなんともすっきり

アラサー女にはぐっさり刺さりすぎて読むのが辛いときもあったけど、
誰がどう見ても納得できるラストを迎えるのがもうね、流石です。
自分も真実や架とともに頑張ろうと勇気?やる気?をもらえました。
もうね、恋愛に悩む全人類に読んでほしい

特にほかの辻村深月さんの作品(【島はぼくらと】や【青空と逃げる】など)を読んでいると、辻村深月さんの作品の世界観がより広がって楽しめます。
推しと推しがサプライズでコラボした、みたいな感動。


リアリティとフィクションのバランス

誰かのドキュメンタリーかな?きっちり取材したんだろうな…
ってくらいリアル。
現実を生きる自分の世界に、
架や真実たちがいるんじゃないかと思う。
作中に東日本大震災の被災地が描かれるのだけど、
実際にその地域での生活が目に浮かぶから、
より現実味を感じながら作品を楽しめる。
自分が真実だったら?と入り込める余地があるって素晴らしい。


謎解きに重きを置きすぎない

恋人がストーカー被害にあった挙句、
失踪したとなれば謎はたくさんある。
ストーカー犯は誰?なんで被害にあっていたの?真実はどこに行ったの?
謎の多さに反して、謎はなかなか明かされない。
真実の過去は分かっていくのに、
じゃあ今何しているの?というのが分からないのがもどかしい。
このもどかしさが読む手を止めさせない仕掛けなんでしょうか…
恋愛モノとミステリのバランスが絶妙。

さいごに

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

傲慢と善良を読んで後悔はしないし、
なんてったって「これ原作読んだよ」ってドヤ顔できます。
映画化が決まる前に読み終わっていてよかった…。
映像化の出来にがっかりしないかだけが心配。

辻村深月さんファンとしても文句ナシの一冊になりました。
良さがこれでもかというほど詰まっております。

真実や架に重ならなくても、
真実の家族や友人、架の友人の誰かには重なるはず。
読者の共感ポイントを的確に刺してくる作品です。

刺さる作品が読みたい方、ただのミステリやただの恋愛小説に飽きた方。
次何読むか迷ったらぜひともお読みください。

すてきな辻村深月ワールドの虜になることでしょう…!


それでは、
すてきな読書タイムを!


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