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Flow into time 〜時の燈台へ〜 スピンオフ編 #1

【今日は番外編】
 物語も盛り上がってきたところで、今日は番外編です。というのも、先週の日曜日から一昨日の土曜日までの一週間、フランス・パリで開催された国際学会に参加して、物語との接点が少しあったからです。日本の里山を舞台とする小説『Flow into time 〜時の燈台へ〜』とパリは、どんな関係があるのでしょうか?
(この記事は6月29日にパリで執筆しました)



パリで物語のアキになりきってみる

アキに関係する場所

小説の設定では、明示はしていないものの、アキがロンドン時代に通っていた大学院は、London School of Economics and Political Science(LSE)だ。恋人のマコトが現在も大学院生をしている設定になっているのは、University College London(UCL)のコンピュータ・サイエンス学科で、ここは僕が最初にドイツ留学を決めた時に、先方の教授から返信をもらえなくて、出願しそびれた大学でもある。代わりにマコトに通ってもらっている。以下の記事でも触れたが、UCL は日本との繋がりが深い大学でもある。

アキは LSE の Master of Business Administration(MBA)学科で Diversity Management(多様性マネジメント=職場に多人種、多宗教、多文化が混じった場合の人的資源管理を最適化する学問分野)を専攻し、修了後ロンドンの金融系コンサルに就職、しかし精神的にバランスを崩して日本へ帰国、山荘郵便局に来たことになっている。ここまでの流れでは、フランスもパリも出てこない。

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フランス? パリ? 🇫🇷

『Flow into time 〜時の燈台へ〜』とフランスあるいはパリは、物語に登場する重要な小物である「タブリエ」で結びついている。タブリエ = Tablier はフランス語でエプロンのことで、日本でよく見かける紐で結ぶタイプのものや、小説の記述にある通り、上からかぶるスモッグタイプのものもある。ここでは学校名は書かないが、タブリエを正式に校内着として採用している系列校が日本には実際にあり、七会はそこの出身ということになっている。
 そして、七会を毎日発掘現場へ車で送っていく探夏の好きな色が、Bleu de France 色だ。どんな色かは下のサイトから、あるいは Google 検索にカラーコード「#318ce7」をいきなり入力すればすぐに見られる。

タブリエと Bleu de France 色が出てきたところで、小説とフランスあるいはパリの繋がりが見えてきた。アキは通販でタブリエを買い、ハンズ渋谷店(小説の舞台は2024年なので、「東急ハンズ」ではなく「ハンズ」となっている)で、Bleu de France に近い色の傘を買ったとある。それで、僕は今まだパリにいる。
パリで、Bleu de France 色のタブリエを探さないわけにはいかない!

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アキになりきるならココ!

学会は金曜夜に修了し、オランダへ戻るユーロスターは土曜日の午後2時過ぎにパリ北駅から出発する。当初、土曜の午前はオルセー美術館へ行こうと計画していたが、残念ながらチケットは売り切れ。プランBということで、「パリでアキになりきるツアー」をすることにした。

パリ北駅からメトロで20分ほどのところにある人気店「Merci」、旅行サイトや雑誌に載っているのか、店内に入るとすぐに日本語が聞こえてくる。感覚的には、フランス語、英語の次に日本語が多い感じだ。洋服もたくさんあるが、店内の感じではキッチン用品・雑貨とベッドリネン関係が得意分野らしい。お店のサイトと入り口はこんな感じだ。

入り口からして最高にオシャレだ🇫🇷

ベッドリネンは通常、同じサイズとデザインでカラーバリエーションがあるはずなので、きっと Bleu de France もあるだろうと考えたわけだ。ひょっとするとタブリエもいろんな色があるかもしれない。店の1階は開放感のある吹き抜けになっている。

洋服類もとても素敵だが、値段も素敵だ 〜Tシャツ1万円より(涙)

僕はどんな買い物でも、店員さんと話すのが楽しみの一つなので、すかさず近くにいる店員さんに話しかける。最初だけフランス語で、その後は英語で。

 僕:すみません(ここだけフランス語)、タブリエ(Tablier)はありますか?
店員:ありますよ〜地下なので、奥の階段を降りていってください。

おお、あるぞ!いそいそと地下へ降りて、ランチョンマットやティータオル(大判ふきん)のあるコーナーへ行き、別の店員さんに話しかける。

 僕:タブリエはこのあたりですか?
店員:えっと、この棚が色違いのタブリエで、サンプルはこちらです。

あった!〜確かに「タブリエ=Tablier」とある!
青いタブリエだけでも数種類ある

アキが買った「あまり可愛くない」スモッグタイプではなく、「可愛い」タイプのタブリエで、お店のロゴも赤い糸で刺繍されている。Merci はフレンチリネンの製品が看板になっているようで、そのタブリエも麻100%だった。

上の階には、素敵なベッドリネンがたくさんある。僕は洋服もタオル類もベッドリネンも、デザインよりも肌触りと色で選ぶ方だ。Merci の麻100%のベッドリネンは、麻特有のゴワゴワ感は全くなく、綿かと思うような柔らかさだった。思わず「布団カバーを買おうか?」と思うが、値段を見てびっくりの43,000円、イケアの10倍以上だ! 結局、枕カバーを買って帰ることにした。これから夏に向けて暑くなると、枕カバーだけでも麻100%だと気持ちいいはずだ。
 Merci の製品はティータオル、ランチョンマット、テーブルクロス、クッションカバー、布団カバー、枕カバーといろいろなラインのものが、同じ素材、同じカラーバリエーションで展開されている。そろそろ色を決めなければならない。あまり多くの色を入れすぎると、部屋がうるさく見えてしまう。お客さんが少なめのベッドリネン売り場の店員さんに声をかける。

 僕:すみません、質問があるのですが……
店員:どうぞ、なんでも聞いてください!
 僕:友人が、Bleu de France 色が大好きなのですが、どの色が近いですか?

友人とは、もちろん探夏のことだ。探夏が Bleu de France 色の傘を買いたいが、その色だけを取り出すと急に彩りが失われてしまうという話をしていた。店員さんは「先輩に聞いてくる!」と言ってわざわざ奥へ聞きにいってくれた。

クッションカバーだけでもたくさんのサイズがある

店員:Bleu de France は、どちらかというとこんな色です。

と、店内にあった本をわざわざ持ってきて、その表紙の色の一部を指さして言ってくれた。その上で、

店員:なので、このベッドリネンシリーズだと、この色が一番近いですね。
 僕:ありがとう、友人も喜びます!

下の段の色が、いちばん Bleu de France に近いのだそう

僕が想像していたのと同じ答えで、一安心だった。結局悩んだ挙句、同じ色、同じ麻100%素材で、枕カバー、タブリエ、ティータオルの3つを買って店を後にした。アキがハンズ渋谷店で、「むらさきいろ」の入浴剤と、Bleu de France 色に近い色の傘を買って帰った時も、こんな気持ちだったのだろうか。

念願の Bleu de France 色のタブリエを購入!

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時間も現実・非現実も、すべては人の認識

小説を読んでいただいたある方から、「物語の中に物語があるという、そしてそれが note の中に書かれていて、一瞬、自分が今どの世界にいるのか迷ってしまうような、不思議な感覚」がありますという感想をいただいた。それは、まさにこの小説が目指すところだ。

物語は2024年の夏に note で発表されていて、物語の中の「現実」部分も2024年夏、その中に登場する物語『道の曲がり角』に描かれているのが、1995年夏。
 2つの時代の中に1つの現実と2つのフィクションがあるという少し複雑な構造の中で、現在と過去、現実と非現実が時にからまり、時にほどけて、またからまって、自分がどの時間にいるのか、そして現実世界にいるのか非現実世界を夢見ているのかも分からなくなる感覚を、「時間の中に流れ出す」=「Flow into time」と表現したのがこの作品だ。

よく考えてみると、私たちが2024年に生きているという「客観的証拠」は何もない。カレンダーなどの数字が2024であるということだけだ。量子力学的に、人間の観察的認識を持って事実とするならば、ちょうど映画『マトリックス』シリーズが描いたように、何が現実で何が夢かも、実は相対的にしか定義できない。
 僕も、架空の人物である探夏が好きだと設定した色である Bleu de France を実際にパリで探して買い求め、それをオランダの自宅で使っていくうち、探夏が実在する人物であるように感じるのではないかと思う。そして、「実在するが連絡を取り合うことはない人物」と「架空の人物」は、人間の認識の視点から見ると、限りなく近いように感じている。

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物語は第10話から、謎解きも人間関係の展開も、一気に進んでいきます。7月中旬の完了まであと半月、どうぞよろしくお願いいたします。

ところで、アキになりきって買ってきた Bleu de France 色のタブリエ、どうしようか?「タブリエを着けて、ジャズを聴きながら、料理をするのか?」

(第10話へ続く)

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