マガジン

  • 書評講座 Vol. 6

    • 5本

    課題書:1)ハリケーンの季節(フェルナンダ・メルチョール著、宇野和美訳、早川書房)、2)自由選書

  • 書評講座Vol.3

    • 4本

    課題書: 1)『フランキスシュタイン』- アメリカ、ジャネット・ウィンターソン著、木原善彦訳、河出書房新社、2)『喜べ、幸いなる魂よ』- 日本、佐藤亜紀、角川書店、3)自由選択(海外文学で邦訳が出ているものなら、文字通り何でも)

  • 書評講座 Vol. 4

    • 8本

    課題書:1)インヴェンション・オブ・サウンド(チャック・パラニューク著、池田真紀子訳、早川書房)、2)自由課題

  • 書評講座 Vol. 2

    • 6本

    課題書: 1)『掃除婦のための手引き書』- アメリカ、ルシア・ベルリン著、岸本佐知子訳、講談社、2)『ハムネット』- イギリス、マギー・オファーレル著、小竹由美子訳、新潮社

  • 書評講座 Vol. 1

    • 11本

    課題書: 1)『エルサレム』- ポルトガル、ゴンサロ・M・タヴァレス著、木下真穂訳、河出書房新社、2)『キャビネット』- 韓国、キム・オンス著、加来順子訳、論創社、3)『クィーンズ・ギャンビット』- アメリカ、W・テヴィス著、小澤身和子訳、新潮文庫

最近の記事

『恥辱』(J.M.クッツェー著 鴻巣 友季子 訳 ハヤカワepi文庫) 書評

読み始めは「時代に合わせてモラルをアップデートできなかった男のセクハラ転落物語」を傍観しているつもりだったのだが、そんなものじゃなかった。気づけば「異質な価値観の中で生きていかざるを得ない人間の痛み」をたっぷり一緒に味わわされる。『恥辱』(J.M.クッツェー著 鴻巣 友季子 訳)は恐るべき小説だ。 ケープタウンのカレッジで教鞭をとる52歳のデヴィッドは2度の離婚を経て現在は独り身。若いころに散々ならした「恋愛」のつもりで教え子の女子学生と関係を持つが訴えられ、大学の懲戒委

    • 『ハリケーンの季節』(フェルナンダ・メルチョール著 宇野和美訳 早川書房)書評

       三面記事では時折「一体何がどうしてこんなことに?」とその背景を想像せずにはいられない事件が報じられる。本書『ハリケーンの季節』(フェルナンダ・メルチョール著 宇野和美訳)は、ジャーナリストでもある著者が「ある村で魔女が殺された」という記事を目にしてその真相に興味を持ち、フィクションで追求してみようと思ったことが執筆のきっかけだったという。2017年にメキシコで発表後世界的な注目を集め、34か国語で翻訳され(2023年12月現在)、Netflixで映像化もされている。  舞台

      • 「星の時」(クラリッセ・リスペクトル著 福嶋伸洋訳 河出書房新社)書評

         1977年に出版された『星の時』(クラリッセ・リスペクトル著 福嶋伸洋訳 河出書房新社)の翻訳が2021年に出たのは、その前年が作家の生誕100年だったかららしい。作者はウクライナ生まれのブラジルの作家で、本の帯には「23言語で翻訳、世界的再評価の進む20世紀の巨匠」「伝説的作家の遺作にして最高傑作」と錚々たる謳い文句が並ぶ。  私がこの厚さ1㎝程度の本を最初に手にしてから読み終えるまでに1年半もかかってしまったことの言い訳をするなら、本作は変わった構成をしていて、すぐに

        • 「ハンチバック」(市川 沙央(著/文) 文藝春秋) 書評

           がつんと殴られたような衝撃。そしてそこにいつまでも鈍痛が残るような読後感。  主人公は、遺伝子疾患による身体障害を持つ40代女性、井沢釈華。背骨が湾曲し肺を圧迫しているため人工呼吸器を必要とし、親の遺産であるグループホームの一室で暮らしている。  彼女は大学の通信講座を受講しているが、課題のための本を読むのにも命をすり減らさねばならず、「紙の本」というメディアのマチズム性(ここでは「健常者優位性」)とそれに無自覚な「本好き」たちを憎む。表向きは「真面目で寡黙な(模範的)障

        『恥辱』(J.M.クッツェー著 鴻巣 友季子 訳 ハヤカワepi文庫) 書評

        • 『ハリケーンの季節』(フェルナンダ・メルチョール著 宇野和美訳 早川書房)書評

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        記事

          「インヴェンション・オブ・サウンド」(チャック・パラニューク著、池田真紀子訳 早川書房) 書評

           「想像による恐怖は眼前の恐怖に勝る*」 と言いますが、本書『インヴェンション・オブ・サウンド』(チャック・パラニューク著、池田真紀子訳 早川書房)はこれを巧みに利用し読者の恐怖感を刺激してきます。読み手は文字で描写される世にも恐ろしい音を想像しては背筋を冷やし、不穏さ満載でありながら核心部分は描写されない音の採取方法について、おぞましい想像をあれやこれやと掻き立てられます。やだなあ、怖いなあ、とドキドキしながらも、次の展開が気になってページを繰る手は止まらない。怖いのに、い

          「インヴェンション・オブ・サウンド」(チャック・パラニューク著、池田真紀子訳 早川書房) 書評

          「喜べ、幸いなる魂よ」(佐藤亜紀著、KADOKAWA)書評

          豊崎由美さんを講師にお迎えした書評講座第三回目の課題として書きました。まずは講評後の手直し版、その下にいただいたコメントと講評前のバージョンを載せます。 <手直し版>  生き方の価値観は人それぞれ。家庭第一の人もいれば仕事に生きたい人もいる...自分の生き方ビジョンを周囲が必ずしも共有してくれるとは限らないわけで、そこに様々なドラマが生まれます。  『喜べ、幸いなる魂よ』(佐藤亜紀著、KADOKAWA)の舞台は18世紀のベルギー、フランドル地方。主要登場人物の一人ヤネケは

          「喜べ、幸いなる魂よ」(佐藤亜紀著、KADOKAWA)書評

          「ハムネット」書評

          豊崎由美さんを講師にお迎えした書評講座第二回に参加しました。2つの課題図書のうち、こちらは「ハムネット(マギー・オファーレル著、小竹由美子訳、新潮社)」のために書いたものです。もう一冊の「掃除婦のための手引き書」の書評もこちらに載せておきます。 以下、まず、講評後に手直ししたものを載せ、その下に講評前のものといただいたコメントを載せておきます。 講評後バージョン  本書はアン・ハサウェイとその家族についての史実に基づくフィクションである。といっても目鼻口の大きなハリウッ

          「ハムネット」書評

          「掃除婦のための手引き書」 書評 

          豊崎由美さんを講師にお迎えした書評講座第二回に参加しました。2つの課題図書のうち、こちらは「掃除婦のための手引き書(ルシア・ベルリン著 岸本佐知子訳 講談社)」のために書いたものです。もう一冊の「ハムネット」の書評もこちらに載せておきます。 以下、まず、講評後に手直ししたものを載せ、その下に講評前のものといただいたコメントを載せておきます。 講評後バージョン  後悔の無い人生を送れる人が果たしてどれだけいるだろう。あの時ああしていたら、ああ言っていれば、言わなければ、行

          「掃除婦のための手引き書」 書評 

          二層から成る「悪」の探索空間--「エルサレム」書評

          書評講座に参加しました。講師は書評家の豊崎由美さん。3冊の課題図書のうち1つを選択して1600字以内で書くというお題で、私はポルトガル文学「エルサレム」(ゴンサロ・M・タヴァレス著 木下 眞穂訳 河出書房新社)で書きました。以下は講評後手直しを入れたものです。下に手直し前の文と、講評でいただいたコメントも記しておきます。 ---------------------------------------------------------------------------

          二層から成る「悪」の探索空間--「エルサレム」書評