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筋トレのコツ4:筋肉痛と超回復のメカニズムについて考える

この記事では筋トレを続けていく上で重要になるコツの中でも、いわゆる「筋肉痛」と「超回復」についてまとめています。

特に筋肉痛では「炎症が起こっている」と思っている人が多いのですが、実際には炎症は殆ど起こっておらず、その元となる細胞の損傷も微小なものです。

また筋肥大は、細胞の損傷がきっかけになるのではなく、ストレスがきっかけになります。ただしそのように実際の細胞の損傷は微小です。つまり筋肥大は大きなストレスを与えて、細胞を傷つける事だけが重要なのではなく、「与え方」こそ重要になります。


そもそも筋肉痛とは?何故起こる?

「筋肉痛」とは、今まで行った事がないような激しい運動、あるいは慣れていない新しい運動を行った時、その次の日やそのまた次の日において、特定の筋肉に特有の痛みを伴う症状の事を言います。

「何が原因で筋肉痛になるのか?」については様々な説があり、そのメカニズムは完全には分かっていないのですが、そもそも筋肉自体には痛みを伝える神経がありません。つまり「筋肉痛」とは言っても、筋肉そのものの痛みではなく、実際には筋肉の外側や内側から来る痛みなのです。

特に現在における筋肉痛の主な原因は、「運動中にできた疲労物質や老廃物など(例えば乳酸、リン酸、アデノシンなど)が蓄積し、それが筋肉の周囲にある痛みを伝える神経を刺激する」事によって起こっているという説が有力です。

そのため「細胞の修復によって痛みが出る」訳ではありません。また後述のように「炎症によって痛みが出る」訳ではありませんし、必ずしも「筋肉痛が筋肥大のサインになる」訳でもありません。


筋肉痛になりやすい運動とは?

実は「筋肉痛が起こりやすくなるような特定の動作」があります。それが「筋肉が伸ばされながら力を発揮するような収縮」を行う事です。

それがどういうものかというと、例えば右の掌をこちら側へ向けた状態で、右肘を限界まで曲げ、左手の小指が上側になるようにして、その右の前腕を掴みます。そしてその左手で右手首を向こう側に押していきますが、右の腕はその押される力に耐えるようにして力を入れます。

この時、お互いの力が釣り合っていれば、右肘は曲げられたまま動きません。しかし右腕の力を維持したまま、左手の押す力だけを強くしてみると、右腕が左手の押す力に負け、右肘が少しずつ伸ばされていきます。

この時、腕の表側の筋肉(上腕二頭筋:力こぶの部分)は、筋肉を収縮させ、力を発揮させているにも関わらず、結果として筋肉が伸ばされるという不思議な事が起こります。

「筋肉が伸ばされながら力を発揮する収縮」とは、すなわちこのような収縮の事であり、特にこのような収縮の事を「エキセントリック・コントラクション(伸張性筋収縮)」と良います。つまり筋肉痛は、このエキセントリックな収縮を繰り返す事で、起こりやすくなるという事です。その原因はよく分かりませんが、前述のように筋肉自体には痛みは出ませんから、おそらく筋肉を覆っている筋膜による痛みだと思われます。

尚、これは別の言い方をすると、「エキセントリックな収縮を意識的に行うようなトレーニング」を行った後にしっかり筋肉痛になれば、その運動が正しく行われている証拠という事です。逆に言えば「筋肉痛にならなければ、そのような収縮を行わずに体を動かしている」という事になります。

またそれは「そのような収縮を行わずに体を動かせば、筋肉痛を起こりにくくする事ができる」という事でもあります。もし筋肉痛を避けたいのであれば、単に「筋肉を収縮させる時に力を発揮するようなトレーニングを行えば良い」という事です。

ただし前述のように、筋肉痛は「運動中に作られた様々な物質が、周囲の神経を刺激する事によって起こる」ものです。つまり激しい運動、あるいは新しい運動を行えば、どちらにしろ筋肉痛は起こりやすくなります。上手く付き合っていきましょう。


筋肉痛では大した炎症は起こっていない

筋肉痛は特有の「痛み」を伴います。この事から筋肉痛では「筋肉では大きな炎症が起こっている」と思っている人も多いのですが、実際には炎症は殆ど起こっておらず、起こっていると言っても微小なものだけです(その微小な炎症の原因となる物質が、痛みを増幅させているとも考えられる。また筋膜では痛みが出るので、そこで微小な炎症が起こっている可能性もある)。

もし「大きな痛みを伴うほどの炎症が起こっている」とすれば、それは筋肉の細胞あるいは周囲の組織に「物理的に大きな損傷がある」という事です。つまり痛みを伴うような炎症が起こっている時点で、その運動はとても適切な運動とは言えない訳です。

そもそも筋トレをする事によって筋肉が大きくなっていくのは、「ストレスに対する反応」によるものです。物理的な損傷がきっかけになる訳ではありません。物理的な損傷がなくても、ストレスの与え方が適切であれば、筋肉の細胞は大きくなっていきます。

特に大きすぎるストレスは筋肉の細胞を物理的に破壊し、長期間運動を休止せざるを得なくなります。また筋肉痛にならないからと言って、無理に運動量を増やせば、オーバートレーニングあるいはオーバーワークになる事もあり、そうなれば精神的にも継続が難しくなってしまいます。自分の心身を痛めつける事に固執してはなりません。何事もバランスです。

ちなみにアイシングをして筋肉を冷やすと、筋肉痛特有の痛みが軽減されます。これは主に神経の興奮が静まる事によるものであり、実はこれについても炎症を抑えているからではありません。

また冷やし続けると、今度は血流が悪くなり、運動によって作られた物質が届こってしまいます。そのためむしろ軽い運動をして、血流を促した方が、実は筋肉痛は治まりやすくなります。


「超回復」という考え方は古いと思う

「筋肉に対して大きなストレスを与え、それによって一旦筋肉の細胞が壊れると、それ以前を上回るようにして、急速に修復が行われる(特に筋肉痛はその修復が行われている証拠とされる)」という考え方があります。これは俗に「超回復」と呼ばれています。

しかしここまで書いてきたように、筋肉の細胞が大きくなるのは、筋肉の細胞が傷ついたからではなく、ストレスを与えた事によって、そのストレスから細胞を守ろうとしているからです。

つまりストレスの大きさだけが重要なのではなく、ストレスの与え方こそ重要であり、単に大きなストレスを与えるだけでは、効率の良い筋肥大は起こりません。繰り返しになりますが、そもそも筋肉の細胞は壊れておらず、炎症も大して起こっておらず、筋肉痛にならなくても筋肥大は起こります。

また「超回復」では、筋肉の材料となる蛋白質を十分に摂取(もちろんビタミン・ミネラルも摂取する)し、運動に必要な糖も十分に摂取した上で、そのように筋肉に大きなストレスを与え、更に運動後に十分な休息(睡眠)を取れば、「超回復が起こりやすい状態になる」とされています。

そして運動後は体が栄養を欲している状態なので、すぐに栄養補給を行う事で超回復が起こりやすくなる、という事も関連して言われていました。実は「プロテインは運動後」という固定的なイメージも、既にその頃からあるものです。

しかし現在では「筋肉の合成は、運動後や休養(睡眠)中だけではなく、運動中にも行われる」という事が分かっています。しかも大きなストレスを与えた場合、同時に分解が起こるという事も分かっています。合成を補助し、分解を抑えるためには、運動後はもちろん、運動中や運動前にも栄養補給する必要があります。現在では、運動前にプロテインを飲むという方法も知られています。

また摂取エネルギーよりも消費エネルギーが多くなり、その状態が長く続くと、「分解の方が上回りやすくなる」という事も分かっています。つまり合成が行われやすい状態にするためには、普段から「摂取エネルギーが消費エネルギーを上回り続ける状態にしておく」という事が重要になります。

しかしそれには糖や蛋白質と比べて倍以上のエネルギーが得られる「脂肪」を意識的に摂取しなければなりません。以前は「糖と蛋白質さえ摂取できれば筋肉は大きくなっていく(つまり高蛋白・低脂肪)」と考えられていましたが、現在ではそれも変わってきています。


現在でもこの「超回復」という考え方を信じている人は、私が想像する以上に多いみたいです。私が中学生の頃には、既にこの「超回復」という考え方があったように記憶していますから、もう20年近く前になると思います。未だに信じられているのは正直驚きです。

しかしそのように「超回復」には、正しい部分と間違っている部分があります。その意味で私は「古い言葉」だと思っており、今はもう使うべきではないと思っています。未だに使う指導者も多いのですが・・・まぁそれは好きにすれば良いと思いますが、前述してきた一つ一つの事は、なるべく丁寧に伝えていった方が良いと思います。




以上です。お役に立てれば幸いです。

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