筋トレのコツ8:正しい有酸素運動を行っても脂肪は大して燃えない
この記事では筋トレを続けていく上で重要になるコツの中でも、「有酸素運動の仕組み」と「有酸素運動を行うメリット」について簡単にまとめています。
尚、この記事は前回の「筋トレのコツ7:無酸素運動の仕組みについて簡単に考える」と同じで、「そもそも何故運動ができるのか?」という事をイメージするためのものです。なので、細かい反応や酵素の名前など、難しい説明はなるべく省くようにしています。
ATPが合成される過程について簡単に
筋肉にある細胞に限らず、あらゆる細胞は「ATP(アデノシン三リン酸)」をエネルギーにして活動しています。
このATPについては前回の記事にある通りです。ATPはリン酸が3つ結合していて、そのリン酸を一つ外す事でエネルギーを放出、またその後リン酸を一つ結合させる事で再びエネルギーを貯蔵できます。このエネルギーを利用して細胞を動かしている訳です。
またATPは糖を代謝する「解糖系」や、その解糖系を代謝する過程で得られるピルビン酸、あるいは脂肪酸などを代謝する「クエン酸回路」によって供給されます。
この内、解糖系は酸素を利用せずに機能し、糖を代謝される過程でATPを作ります。そうして糖が代謝されると「ピルビン酸」ができ、更にこのピルビン酸は「アセチルCoA」に変換されてクエン酸回路に入ります。
そしてクエン酸回路では酸素を利用して代謝し、ここでもATPを作り、最終的には水と二酸化炭素ができます。特に有酸素運動では主にこのクエン酸回路を利用します。これにより酸素を使いながらATPを合成し、体を動かし続け、汗と呼吸が増える事になります。
これらが筋肉の細胞、及びそれ以外の細胞を動かすエネルギーサイクルの簡単な概要です。
脂肪酸を代謝するクエン酸回路
そのようにATPは糖や脂肪酸を代謝する事で得られます。しかし脂肪酸は解糖系の中には入れず、またそのままの形ではクエン酸回路の中にも入る事ができません。特にクエン酸回路は細胞内にある「ミトコンドリア」の中にあるので、すなわち脂肪酸はそのままの形だとミトコンドリアの壁を通過できない訳です。
そこで脂肪酸は、ATPを消費して一旦形を変えた後、「カルニチン」によって運搬されてミトコンドリアの壁を通過します。「カルニチン」と言えば「脂肪を燃やしてくれる」とイメージもありますが、役割としてはそのように「脂肪を燃やす前の運搬」をするだけです。
またそうして運搬された後、脂肪酸は「β酸化」という過程で、酸素を使いながらゆっくりと代謝され、できるだけ脂肪酸の分子を短くします。それによって最終的には「アセチルCoA」になる事ができ、ここでようやくクエン酸回路に入る事ができます。
特にこの「β酸化」を含む「クエン酸回路に入るための脂肪酸の変換」については、私自身全ては理解していないので、詳しい説明ができないのですが、そうして行われる脂肪酸の変換、及びクエン酸回路による脂肪酸の代謝は、解糖系による糖の代謝よりも緩やかに行われるため、ATPの供給は少しずつしかできません。
一方、糖を代謝する過程(解糖系+クエン酸回路)と、そのような脂肪酸を代謝する過程(クエン酸回路単独)を比べると、最終的に得られる「ATPの総量」は、実は後者の「脂肪酸を代謝する過程」の方が多くなります。
つまり有酸素運動では、酸素を使いながら少しずつ脂肪を代謝し、それに伴って少しずつATPを供給します。これにより無酸素運動のような爆発力はありませんが、途中でATPが切れにくく、安定的に筋肉の運動を行う事ができます。
また長時間行えば、そのように結果として大量のATPが供給されます。つまり少しの脂肪酸を燃やすだけで運動ができるので、供給元となる脂肪酸さえ尽きなければ、ほぼ半永久的に運動を続ける事ができます(例えば24時間以上のマラソン、100km以上のマラソンなど。ただし食事がないといずれはエネルギーが尽きる)。
有酸素運動で燃えるのは脂肪だけではない
クエン酸回路はそのように脂肪酸を代謝してATPを得ます。ただしこのクエン酸回路では、解糖系で得られたアセチルCoA(ピルビン酸から変換されたもの)も代謝できます。また解糖系で糖を代謝すると乳酸もできますが、実はこの乳酸もクエン酸回路に入ってATPを作る事ができます。
特に短時間で大きな筋力を発揮するような無酸素運動においては、ATPの供給が素早く行われる必要があるため、これらのクエン酸回路によるATPの供給ではとても間に合いません。
しかし有酸素運動ではATPの供給は遅くても構わないので、このように様々な経路で作られたATPを「全て」利用する事ができます。これも「有酸素運動を長時間行う事ができる」理由の一つになっています。
一方、そのようにクエン酸回路では、脂肪酸以外にも様々なエネルギーを利用する事ができます。つまり実際の有酸素運動では「脂肪だけが燃える訳ではない」という事です。
これは別の言い方をすると、「脂肪だけを効率良く燃やすのは難しい」という事でもあります。特に「鎖の長い脂肪酸(長鎖脂肪酸)」は1つから得られるエネルギーが大きい上、前述のように少しずつしか代謝できません。だからこそ、正しい有酸素運動を行っても大量に脂肪を燃やす事はできないのです。
有酸素運動は「脂肪を燃やす方法」としては効率が良くない
例えばトレーニング法の一つに「インターバルトレーニング」という方法があります。このインターバルトレーニングは「全力での無酸素運動」と「軽度の運動または不完全な休養」を「短時間の間に交互に繰り返す」ようなトレーニングで、短時間で大量のエネルギーを消費する事ができます。尚、分類上は「有酸素系トレーニング」になるようです。
特にこの「短時間(数分~数十分)のインターバルトレーニング」と、「正しい実施方法で行った1~2時間程度の有酸素運動」を比べると、実は最終的に消費されるエネルギー量には、あまり大差がないという事が言われています(どこかでそのような実験結果を見た記憶があるので紹介。どこで見たかは失念)。
そもそも前述した有酸素運動の仕組みを考えれば、「正しい方法で有酸素運動を行っても、大量の脂肪を燃やす事は難しい」という事が分かると思うのですが、このように「長時間の有酸素運動」は、他の短時間の運動と比べても、脂肪を燃やす方法としてはあまり効率が良くないのです(インターバルトレーニングは無酸素運動の繰り返しだが、呼吸を行う有酸素系なので、実は脂肪も燃やす事ができる)。
また長時間の有酸素運動にはこの他にもデメリットがあります。特に懸念すべきなのが「筋肉への継続的なストレス」です。
筋肉はストレスを受けると分解されます。それは無酸素運動でも当然同じなのですが、無酸素運動の場合、短時間で大きなストレスを与えるため、そのストレスに応じて筋肉を肥大化できます。つまり肥大化が上回る可能性があり、実際に上回っていれば分解しても問題になりません。
しかし有酸素運動の場合、1回1回のストレスが小さいため、肥大化が殆ど起こらず、長時間のストレスによって、結果として分解の方が上回りやすくなります。これにより普段行っている無酸素運動の効果が、長時間の有酸素運動を行う事で、打ち消されてしまう可能性があるのです。
特に「有酸素運動」と言えば「長時間行うほど良い」というイメージを持っている人も多いです。確かに有酸素運動の仕組みを考えれば、長時間行うほど脂肪酸の燃える量は増えます。
しかしそうして筋肉が分解され、筋肉が落ちると、同時に基礎代謝も低下してしまいます。つまり長時間の有酸素運動を行う度に、筋肉が落ち、基礎代謝が低下、それによって糖や脂肪の代謝が悪くなり、逆に新たな脂肪が蓄積しやすくなってしまう可能性がある訳です。
この事から、ただ長時間ダラダラと体を動かし続けるような有酸素運動は「無駄が大きい」というのが私の考えです。もし長時間の有酸素運動を行うのであれば、目的をしっかりと明確化させ、その目的に合った正しい方法で行う事が重要になるでしょう。
有酸素運動を行うなら目的を明確化しよう
無酸素運動・有酸素運動に関わらず、運動を行うと、筋肉の収縮に伴って熱が生まれ、その熱が周囲の血液を温め、それが全身へ循環する事で、体温が維持あるいは上昇します。
つまり無酸素運動も有酸素運動も、「筋肉の収縮を繰り返す」事で「体温が上昇して発汗を伴う」訳ですが、特に長時間の有酸素運動ではそれが持続的に行われます。つまり長時間の有酸素運動は「筋肉の収縮を繰り返す事によるメリット」や「汗を大量にかく事によるメリット」が得られる訳です。
具体的なメリットを考えてみると、例えば、
・運動に関わる筋肉や関節の血流改善、及びその血流改善に伴う筋肉や関節の機能の改善:例えば関節が滑らかになる、体が柔らかくなる、姿勢が良くなる、コリや筋疲労が改善される、血糖値が抑制されるなど。
・体温を調節する自律神経系の機能や、発汗に関わる機能の改善:気温や室温の上下動に伴う体温維持が容易になり、環境に適応する能力が高まる。また冷え性や浮腫なども起こりにくくなる。血管も柔らかくなる。
・怪我の予防になる:単純に「体を使う」という事に慣れる。特にバランスを崩した時、咄嗟にそれを元に戻す事ができる。
・足の骨が丈夫になる:足に体重をかける事によるもの。また屋外では紫外線を浴びるためビタミンDも合成される。尚、ビタミンDには免疫力を維持してくれる役割もある。
・精神安定、及び脳の機能向上:太陽光はセロトニンの分泌を促す。また運動により脳への血流も良くなるため、記憶力や集中力、あるいはストレス反応も向上する。
・末梢にある細胞の栄養状態の改善:特に心臓から遠い指先や下肢の血流が改善される。それにより爪、指先、肌、髪の毛などが綺麗になったり、冷え性や浮腫なども起こりにくくなる。また指先に力が入りやすくなるので、握力が上がったり、バランスが取りやすくなって転倒防止にもなる。
・水分代謝の改善:皮膚の腫れぼったさがなくなる。これにより脂肪が多少ついていても弛んで見えない。また浮腫も起こりにくくなる(脂肪が減った訳ではないが、水分量が適切になるので体重が減る)。
・筋肉を落とす事ができる:人によってはメリットになり得る。
などが考えられます。
前述したように、長時間の有酸素運動は「脂肪を燃やす目的」で行うのはあまりオススメしませんが、これらを目的にして行うのであれば、健康を維持するための効果的な方法になる可能性はあると思われます。
ただし有酸素運動は長時間行うほど大量に発汗します。水分・ビタミン・ミネラル補給は必ず行いましょう。またそのように「脂肪を燃やすために行う」訳ではないので、有酸素運動を行うための「最低限の糖・蛋白質・脂肪」も必要です。
それらを怠るだけで、前述のメリットは全てなくなる可能性があります。その点には十分な注意が必要です。やはり「有酸素運動はただ行うだけではダメ」という事です。
ちなみに汗をかく事をいわゆる「デトックス効果」と言う人もいますが、老廃物は8割以上を大便によって排出しています。そのため残念ながら、汗に含まれる老廃物は微々たるものです。
有酸素運動は20分以上行うべき?
有酸素運動に関しては、特に「つらい」「きつい」「楽しくない」などネガティブな印象を持っている人が多いように思います。しかしそういう印象を持ってしまうのは、普段から意識的な運動を行っていない人ほど、「運動を行う際の強度設定」ができていないからです。
特に前述したように、有酸素運動は「少しずつエネルギーを消費し、ゆっくりと、長時間体を動かし続けるもの」です。「体を激しく動かす」という事だけ考えていたら、有酸素運動の効果が得られる以前に、続けていく事ができません。
有酸素運動を行う場合、今の自分の体力を知り、それに合わせて、例えば腕の振りや歩幅、足を踏み出すスピードなどを調節するようにしましょう。そうして「自分に合わせた強度で行う」事が重要です。そもそも「脂肪を燃やす」訳ではないのですから、息が上がるように激しく体動かす必要はありません。むしろ息が上がるほど苦しい時点で、有酸素運動を行う方法として間違っているのです。
また有酸素運動では、俗に「少なくとも20~30分以上続けなければ脂肪は燃えない」と言われる事があります。確かに短時間で終えるよりも、長時間行った方が「脂肪が燃える総量」が多くなるのは事実です。
しかし正しく有酸素運動が行われていれば、実際には「有酸素運動が始まったその瞬間」から脂肪が燃え始めます。つまり「20分以上続けなければ脂肪は燃えない」と言われる明確な根拠は存在しません。20分以上とか30分以上とか言われるのは、前述のように初心者ほどペース配分が上手くなく、体を激しく動かそうとして、すぐに息が上がって止めてしまうからです。
特に有酸素運動の方法は「歩く」「走る」だけではありません。そのように「長時間運動を続ける事ができるような強度設定」ができていれば、どのような種類の運動であっても有酸素運動にする事ができます。
つまり有酸素運動は工夫次第でどうにでもなる訳です。ここまで書いてきたように、今まで持っていた「有酸素運動に対する考え方」はこの機会に改めるべきでしょう。
「汗をかく」という事に固執してはならない
例えば半身浴、岩盤浴、砂風呂、サウナなどでも汗をかく事ができ、それに伴って体温調節機能の改善、水分代謝改善、末梢の血流改善などの作用が期待できます。しかしそれらでは運動を全く伴っていないため、脂肪は殆ど燃えていません。
そもそもそれらの発汗は、単に周囲の温度が高い事によって起こる体温上昇に伴って起こるものであり、有酸素運動のように筋肉を収縮させた事によって起こるものではありません。このため必ずしも「発汗=脂肪の燃焼」とはならない事に注意が必要です。もちろん前述したようにデトックス効果も微々たるものです。
何故このような話をしたのかというと、その勘違いがある事で、「汗をかく」という行動に固執してしまう人がいるからです。当然いくら室温を上げ、厚着をして汗をかいても、大して脂肪は燃えません。それどころか、最低限必要な水分や栄養素の補給が伴っていない場合、大量発汗によって美容や健康とは真逆の結果をもたらす事さえあります(前述の有酸素運動と同じ)。
これは辛い食べ物(カプサイシン)を食べる事も同じです。特に辛い食べ物は、日本人の舌に合わせるため、糖・塩・油を大量に使用している事があります。また辛い食べ物ばかりを食べる事で他の栄養素が疎かになり、全体の栄養バランスが損なわれる事もあります。
汗が大量にかけるからと言って、一つの事に固執すべきではありません。それらに対する認識もこの機会に改めましょう。
以上です。何かのお役に立てれば幸いです。
「サポート」とはチップのようなものみたいです。頂いたチップは食品やサプリメントなどの検証に活用させていただき、後日記事にしたいと思います。