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口の中で幸せ弾ける六花亭のつゆ

「なんで、あんなこと言っちゃったんだろ……」

私は小さく独りごちた。
部屋の電気もつけずに、カーテンも閉めずに、窓から入り込む月明かりだけが頼りの夜。

ケンカなんてするつもりもなかったのに、ホントになんであんなこと言っちゃったのか、自分でもよくわからなかった。もしかすると、やきもちと彼への恋心を焦がしながら待っていた五日間の気持ちが爆発しちゃったのかもしれない。

北海道への出張。

彼と一緒に出張に行ったメンバーは年下の後輩の女の子だけではなかったけれど、私はどうしても彼女の存在が気になってしまっていた。

月明かりに照らされて、テーブルの上に置かれた六花亭のつゆの缶が白く光っているように見えた。今日の満月みたいにまんまるの缶。

私は思わず窓を開けて、空を見上げる。

「このお菓子、一緒に行った会社の女の子が美味しいって勧めてくれたんだ」

彼のその一言が、蓋をしていた私のヤキモチを噴火させた。

なんで、他の女の子が勧めたお菓子を買ってくるんだろう。
六花亭といえば、バターサンドじゃないの?
レトロなパッケージと間違いない美味しさのバターサンド。私がレーズンが大好きで、バターも大好きだってことは彼も知ってるはずなのに。

いくら美味しいと言われたからとはいえ、無神経だと思った。買うのはいい。せめて女の子から勧められたことを言わなければいいのにって。

出張から帰ってきて、そのままうちに来てくれたのは嬉しかった。たまに見るスーツ姿の彼は特別にかっこいいと思ってるし。

インターホン越しに五日振りの彼の顔を見た時は、ただただ胸が高鳴ったし、玄関を開けてスーツ姿の彼を見た時は、胸がときめいた。

「おかえり」
「ただいま」

「いらっしゃい」じゃなくて、「おかえり」にした私のこの気持ちを察して欲しいなってくらいに大好きいっぱいでお迎えしたのに。

私にシッポが生えてたら、いくら顔をお上品に取り繕っても誤魔化せないくらいにブンブンとシッポを振ってたと思う。そのくらい、私は彼の帰宅を待っていた。

彼が手渡してくれた六花亭の紙袋を受け取って、中から取り出した初めてみる四角い花柄の箱を見た時は、なんて素敵なパッケージなんだろうって喜んだ。

センスいいなって。大スキ!って。

「このお菓子、一緒に行った会社の女の子が美味しいって勧めてくれたんだ」

そんなこと言わなくてよくない?
私だって、モヤモヤしつつも送り出したのに。行ってらっしゃいって。仕事だし、仕方ないなって自分を納得させて。

だからついつい剣のある言い方で「かわいい女の子の後輩と出張なんて、さぞかし楽しかったでしょうね」なんて、言っちゃったんだ。

そしたら彼は「仕事だから楽しいわけないだろ」なんて言ってたけど、彼が出張中に食べたラーメンもジンギスカンも美味しそうだったことを私は知っている。

北海道、私も行きたかったな、なんて思っちゃって。北の大地はみんなの憧れスポットなのを彼がわかっていないから。私だって、彼と行ってみたかった。もちろん仕事じゃなくて遊びでだけど。

私がついつい、かわいくないことばかり言うものだから、「もう疲れたし、今日は帰る」って彼は怒って帰っちゃった。かわいくないこと言わせたのは誰のせいかなんか、全くわかってないみたい。

でも、私だって反省してる。反省してどん底に落ちていくためにわざわざ電気だって消しちゃったんだし。せっかく久しぶりに会えたのに。ほんとに失敗した。もうちょっとかわいい女の子でいたいのに。

やきもちだって焼きたくないのに。

でも、お菓子に罪はないし……。
あまりにかわいいパッケージの誘惑に勝てなくて、私は六花亭のつゆの缶を開けてみた。

中にはかわいい色合いの小さなドロップみたいのがたくさん入ってる。
何これ? かわいい!

私は箱の裏をみて、中身を確認。
お砂糖でコーティングされたお酒のお菓子みたい。
すごくおしゃれ!

赤い一粒を摘んで、口に放り込んだ。

シャリっとした砂糖を噛むと、中から甘くて爽やかなお酒がとろ〜りと溢れてくる。しゃりしゃりとした砂糖菓子と風味のいいお酒が口の中で弾ける。憂鬱だった気持ちも吹き飛ばして、幸せを運んでくれた。

「おいしっ」

私は思わず、明るい声を上げた。
何これめちゃくちゃ美味しい! ごめん!
これは誰にだって勧めたくなっちゃうし、買いたくなっちゃうと思う。

彼にも悪かったし、後輩の女の子にも悪かったな、って反省しながら、他のつゆも食べてみた。

ブランデーに梅酒、コアントローに赤ワインとペパーミント。どれも個性が違って、どれも美味しい。

私はすぐに彼に(ごめんね。やきもちやいて)とメッセージを送信。
彼からも(無神経だった。ごめん)と返信。その後すぐに(明日は、早く帰れるから一緒にご飯食べに行こう)とメッセージが届いた。

私は(もちろん!)とすぐに返信して、食べすぎちゃいけないから、と缶の蓋を閉めた。六花亭の紙袋を片付けようとして、他にもお土産が入ってることに気づく。マルセイバターサンド! 私の大好きなお菓子!

(バターサンドも入ってた!)
(だって、それ絶対好きじゃん)

だって!

という妄想をしながら食べる六花亭のつゆは、色恋が絡まなくともただただ美味しかったです。
ちなみに、六花亭のつゆは父の北海道出張土産に買ってきてもらいました。

めちゃくちゃ美味い。

チョコレートボンボンも好きだけど、このお砂糖のボンボンもやばい。うまい。色もかわいいし、形もころんとしていて、大きさもちょうどよくて。

Amazonでも見かけたので、なくなったら自分で買おうっと。




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