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ドナドナ回避

11月11日(土)、私たちはペットショップにいた。

実はその前の週も、さらに前の週もペットショップにいたのだ。
目的は、そう、犬である。

夢に見るくらいに、犬が飼いたい。
もちろん、犬を飼いたい理由は可愛いからであるし、愛でたいからである。
そして実は、夫や息子の関心を私から逸らす為でもある。

我が家の男どもはかまちょである。
私の背後をとおる度に、彼らは私のSiriを触ってくる。
何かにつけて、私に食べ物を用意させようとする。

理由を聞けば、
そこにプリケツがあるからだとか、
おかんが用意した食べ物の方が美味しいだとか、
まあ、適当な話をするわけだ。

別にそれが嫌なわけではない。

ういやつめと思うこともある。
だがしかし、度がすぎると面倒くさいことこの上ない。

公然の場で、堂々と臆面もなく言うと、
私は我が家のアイドルなのである。

しかし、もう43歳。
お玉をそっとキッチンに置きたい。
いや、完全に現役を退きたいわけではない。
いい加減、自分のことは自分でやってほしいし、ある程度私のことは放っておいてほしい。

そこで短絡的な私が考えたのは、新たなアイドルの登場である。


そう、犬だ。


私は計画的に犬が欲しいと匂わせた。
もちろん私が犬を飼いたいと思う気持ちがなければ、それは嘘になるので、そこは本心であることをご理解いただきたい。

夫を犬を飼うモードの精神状態にしておき、ペットショップで犬を見せる。
かわいいのだ。犬は。
飼いたくなるに決まっている。

私の作戦は成功し、夫は数度目のペットショップ来店の際に、ちんとチワワのミックス犬に一目ボレをした。パンダのような色合いに、大きな少し離れた目。小さい小さい犬を抱いて、彼は飼いたいと思ったらしい。

彼の本気度をはかるべく、私は犬の話題について一週間放置することにした。
彼がもし自主的に「犬を飼いに行こう」と言えば、買おうと決めて。
ここは私主導ではダメなのだ。
彼主導でなければならない。

水曜日のことだった。
彼は土曜日の予定を聞いてきた。
私は「特に予定はない」と答えた。
彼は言う。

「ペットショップに行こう」

私が心の中でガッツポーズをしたことは言うまでもない。

そして、きたる11月11日。
私たちはいそいそとペットショップへ行った。

彼が一目惚れをしたちんチワはショーケースの中で眠っていた。
一応、一周見てみようかと言うことになり、私たちはペットショップをぐるりと回る。

トイプードル、チワワ、ミニチュアダックスや柴犬などがショーケースの中にいる。
そして、端っこにいたのは白いマルプー。
価格は破格の1万円。初期費用は通常の半額。

え?
なんでこんなに安いの?

近寄ってきた店員さんに私は尋ねた。
「この子はなんで、こんなに安いんですか?」
店員さんは答える。
「大きくなりすぎるとあまり人気がないんですよ」
とのこと。

可愛いのに?
え?なんで?

なんだか売れ残りなんて切ないじゃないか。
それに安いなんてお得じゃないか。
ちんチワは30万円かかるのに、白いマルプーは5万円だぞ。
ワクチンも全部終わってるぞ。もふもふだぞ。
もふもふは正義だぞ。

夫は一目惚れをした子や他の子を見ていたが、私は店員さんに尋ねた。
「ちんチワとマルプーはどちらが毛が抜けにくいですか?」
「シングルコートのマルプーですね」

私は夫に尋ねた。「どうする?」
「どっちでも」夫は答える。

さらに私は店員に尋ねる。
「マルプーは飼いやすいですか?」
「飼いやすいですよ。この子は元気だし、よく食べるし、何も問題もありません」

よし。マルプーだ。

と、その日に連れて帰ってきた。即断即決。思い込んだら一直線である。

いらっしゃい

マルプーの男の子、6月4日生まれ、5ヶ月。

ぬいぐるみみたい


人見知りしません

ワクチンも、登録関係も全て済んでいるので、慣れたらすぐに散歩も大丈夫とのこと。
4日経つが、特に食事や便なども問題がなく、餌や遊んでの時以外は吠えることもない。ケージにも慣れていてお留守番もできている。
多分、ペットショップの方が丁寧に対応してくださっていたのだろう。

甘噛みやトイレトレーニングなど、課題もあるが、それはこちらの問題でもあり、犬だけの課題ではない。
徐々に我が家に慣れてもらい、解決していけば良いことだ。

ポッキーの日に我が家にやってきたマルプーの名前はポッキーに命名。
ネーミングセンスについては触れないでいただきたい。

ポッキーと呼べば、走って寄ってくる彼は、もうポッキーで間違いない。


アイドル爆誕である。


犬のお世話やお金の面では当然負担がありますが、精神的負担に比べるととにかく可愛いので許せちゃいますね。いや、マジで可愛い。



我が家に犬を迎えることになったことの顛末を、私の母に話したら、おしゃべり好きの母は犬好きの方にそのままそっくり伝達をしていたようだ。
家族の話は特に問題がない場合、おしゃべりな親の恰好のネタとなる。

その犬好きの方が言うことには、
ペットショップでは六ヶ月を過ぎると、場合によっては保健所行きか実験用になることもあるとのこと。

「娘さんのご家族はそのわんちゃんにとっては命の恩人かもしれませんね」


だそうだ。
その話を聞いて、私は胸が押し潰されそうになった。


1万円だった犬は、ポッキーだけではなかったのだ。
その子に家族ができることを、私は心から祈っている。






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